水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

プロセキューター

『ジョン・ウィック:コンセクエンス』『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』など国際的な話題作に出演したドニー・イェンは、世界で最もよく知られた香港のアクション俳優だ。彼の名を世に知らしめたのは、ブルース・リーの師である葉問(イップ・マン)を演じた『イップ・マン 序章』。中国武術「詠春拳」の武術家イップ・マンを主人公にした映画は4作(スピンオフ1作)作られたが、彼はそのすべてに主演した。幼少より憧れたスター、ブルース・リー、その師のイップ・マン。ふたりの武術家に関わったことで、アクション俳優ドニー・イェンが誕生した。 本作『プロセキューター』は、そのドニ―の最新作で、2016年に実際に香港で起きた麻薬密売事件をベースにした法廷アクション映画。彼が扮するのは香港警察の警部から検事に転職した男・フォク。タイトルの「プロセキューター」とは、「検察官を意味する法律用語で、国家や社会を代表して被告を訴える人物」、とのこと。フォクは、ある青年が麻薬密売の容疑で起訴された事件に疑問を抱き、独自に捜査を開始。やがて、法曹界と裏社会のつながりを探るフォクに犯罪組織の刺客が差し向けられる、というお話。監督・主演・製作をドニ―が兼任している。
 物語もセンセーショナルなのだが、本作の最大の見どころは、ドニ―のアクション・シーン。なかでも、地下鉄車両内での殺し屋との死闘シーンは圧巻。数分間のバトルで、座席シートは破損、車窓は砕け、車両は原形をとどめぬくらい大破する凄まじさ。従来の香港アクション映画とは、明らかにレベルが違う、アクションへの熱量が違う。ブルース・リーやジャッキー・チェンのそれを超えようとするドニ―の、アクションに対する意欲が、ビシビシと伝わってくる。62歳とは思えない、ドニーのキレキレの超絶アクションは感動的ですらある。 共演は、『Mr.BOO!』シリーズのマイケル・ホイ、『エグザイル/絆』のフランシス・ン、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』のジャーマン・チョンら。アクション監督は、『はたらく細胞』や『るろうに剣心』シリーズでアクション監督やスタントコーディネーターを務めた大内貴仁が担当している。 『プロセキューター』は香港で4週連続興行収入No.1を記録した、と媒体資料は伝えている。ドニー・イェンの映画製作への熱意が、香港の観客に伝わったのだろう。報国イズムが鼻につく大味な中国映画が幅を利かせるなか、『スタントマン 武替道』同様、アクション・シーンに体を張る香港の映画人に拍手を送りたい。

25/8/27(水)

アプリで読む