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新たな気づきをくれるミュージアムを紹介
中山 ゆかり
ライター
「大どろぼうの家」
25/7/16(水)~25/9/28(日)
PLAY! MUSEUM
東京・立川のPLAY! MUSEUMで開かれている『大どろぼうの家』展は、引退を考えている大どろぼうが最後の盗みに出ている留守中の家に、来館者が忍び込むという設定の展覧会。会場には、古今東西の色々などろぼうたちの肖像画で飾られた回廊や、家主の蔵書が並ぶ応接間など、8つの部屋があり、来館者はその部屋を巡りながら、どろぼうとは誰なのか、なぜ引退しようとしているのかといった謎を推理していくことになる。 冒険物語的な設定は夏休みの子ども向けの展覧会の印象があり、実際のところ、子ども用のサイズでつくられたしかけや、身体の柔らかい子どもに有利そうなスパイ映画もどきのアトラクションもあるのだけれど、展覧会全体は大人向けでもある。本棚に並ぶ蔵書から、どろぼうの心の動きを想像するのは楽しいし、どろぼうの家族たちが集めた絵本やマンガを読むことのできる部屋では、懐かしい本に再会したり、新しい本に出会えたりもする。「絵とことばのミュージアム」であるこの館は、本好きな人の心に寄り添う展示が得意だ。 どろぼうの盗みの対象は色々。先年亡くなった谷川俊太郎さんの詩に心を貫かれていた星好きの大どろぼうは、詩人の書斎に忍び込み、星と結びつく詩を盗んできた。光とサウンドを用いたインスタレーションの部屋「銀の庭」では、小さなガラス玉がきらめく庭の縁台に座って、詩の朗読に耳を傾けることができる。そして、どろぼうは、人気絵本作家のヨシタケシンスケさんも盗んでしまう。幽閉先で描かれた、新作絵本の原画も展示されている。 このミュージアムの展覧会は、とにかく楽しい展覧会をつくりたいと願っている館のスタッフと参加作家や様々なプロ集団が、自分たちも楽しんでつくっている感がとても強い。どろぼうをキーワードに様々なアイデアが詰め込まれた今回の展覧会も、つくり込まれたディテールに思わず笑顔がこぼれてしまう楽しいものとなっている。ただし、あれこれ楽しんでいると、時間があっという間に過ぎていく。お時間に余裕をもってお出かけを。
25/8/30(土)