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白坂 由里
アートライター
開館30周年記念展 日常のコレオ
25/8/23(土)~25/11/24(月)
東京都現代美術館
「コレオ」とは「コレオグラフィー(振付)」の略語。制度や慣習、社会的規範など目に見えない力が言動に作用することや、一方でそのような制御に抗い、批評的に応答することを「振付」としている。 韓国のライス・ブリューイング・シスターズ・クラブは、日本と韓国にしかいない海女に取材。世代を超えて継承される潜水漁術や自然と繋がる知恵といった文化や歴史をアニメーションで表現し、円になって座る“ベンチ”の床面に投影している。半透明の立体は島を表し、テングサを原料とする寒天から作られたバイオプラスチックでできている。 インドネシアのジュリア・サリセティアティ&アリ・"ジムゲット"・センディは、日本を含むアジア地域で働く移民労働者に取材。彼らを育成する介護学校での教えと現地で役立つ知識とのズレといった問題点を共有し、多方向の学び合いを模索する。その国の人がやりたがらない農業や製造業などの仕事を移民労働者が担う社会構造にも疑問を投げかける。 また、インドのスタジオCAMPによる映像作品は全編見てほしい。ムンバイの高層ビル屋上に設置した監視用CCTVカメラを遠隔操作して撮影されている。カメラが街中に降りていくと、居住区の露骨な格差などが露わになる。 上原沙也加は、生まれ育った沖縄を写真に撮り、後からゆっくり立ち止まって見ることで、日常風景に潜む記憶や時間の堆積を克明に感じとってきた。辺野古の浜辺に打ち上げられた珊瑚の道が戦没者の遺骨の道に見えたり、再開発されるリゾートタウンに歴史の塗り替えを感じたり、現在の風景に紛れて見えなくなっていくものを読み解くサインに気づかせる。 リサーチ・ベースの展覧会は難しく感じるかもしれないが、報道の行間を読み取り、フェイクニュースを見破るトレーニングにもなりそうだ。
25/8/31(日)