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文学、ジャズ…知的映画セレクション

高崎 俊夫

フリー編集者、映画評論家

DREAMS

ダーグ・ヨハン・ハウゲルードというノルウェーの未知なる監督の「オスロ、3つの愛の風景」と名付けられた特集が組まれ、『DREAMS』『LOVE』『SEX』の三作品が上映される。その中で『DREAMS』を取り上げたい。 17歳の少女ヨハンネは新任の女性教師ヨハンナに恋をする。焦がれるような感情に抗しきれず、ヨハンナの家を何度も訪れるうちに、お互いに惹かれ合っていたことを確認するが、教師は、別に恋人がいるようで、ふいに疎遠になる。 一年後、その切実なる初恋をテーマに手記を書き上げたヨハンネは詩人の祖母に見せると、祖母はヨハンネの才筆を高く評価し、出版を進める。当初、性的表現に気遣っていた母も読み耽ってしまい、今度は出版の同意を得るべくヨハンナに会いに行く。ヨハンナは娘との関係は否定するも、出版には同意する。 映画は一貫してヨハンネのナレーションによって語られ、その過剰なまでの言葉と、それぞれの関係があっけらかんと推移するさまを、じっと定点観測しているような手法は、まさにエリック・ロメールの映画を連想させずにはおかない。恋の終わりも始まりも、ロメール作品と同様、ドラマチックな愁嘆場などは巧妙に回避されており、淡々とした語り口が崩れることはない。なによりも魅力的なのは、登場人物たちが見事なまでに“モラルの重力”から解放されていることだろう。この映画を支配する独特の親密さは、多分、そこから生まれているに違いない。  

25/9/1(月)

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