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恩田 泰子

映画記者(読売新聞)

九月と七月の姉妹

映画冒頭、登場人物たちは、あまりにも有名な姉妹のイメージ、『シャイニング』の双子の立ち姿を写真で再現しようとする。被写体は15歳のジュライと10か月違いの姉セプテンバー。撮影者は、ふたりの母親のシーラ、シングルマザーだ。3人の光景は奇妙にたのしげだが、なにやら不穏。それぞれに頼り頼られる関係にあるものの、時と共にそのバランスは崩れようとしている。くっついていたいと思う反面、個々のいきものとしての自我が膨らんできている。娘たちは学校ではいじめの対象。強気な姉が内気な妹を守ってきたが、妹が恋をしたことでふたりの世界は揺れ始める。それぞれの心と体のありようを、この映画は、言葉とイメージをたくみに使ってあらわしていく。思春期の娘たちとその母親の物語であると同時に、おのおのが人生の異なる段階にある3人の女性の物語でもあるということを。浴室掃除をする母親の後ろ姿を見た時、この映画への信頼度がぐっと高まる(一瞬、目を疑うが)。そうした細やかな描写に加えて、大きな仕掛けも用意されているのだけれど、それは、ぜひ自分の目で見て気づいてほしい。家族の紐帯の強さ、かけがえのなさ、そして危うさを、確かな手触りとともに描いた一本。鮮烈なのは冒頭のイメージだけではない。原作はデイジー・ジョンソンによる小説。ヨルゴス・ランティモス一派であり、彼のパートナーでもあるアリアン・ラベドによる長編デビュー作である。

25/9/1(月)

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