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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

ファンファーレ!ふたつの音

ケイト・ブランシェットの堂々たる指揮者ぶりが圧巻だった『TAR/ター』、父子共に指揮者という奇想が脚光を浴びた『ふたりのマエストロ』、指揮者の存在意義を伝えたドキュメンタリー映画『ビバ・マエストロ!指揮者ドゥダメルの挑戦』など、フィクション、ノンフィクションを問わず指揮者を主人公にした映画は、どれも長く記憶に残る作品が多い。本作『ファンファーレ!ふたつの音』の主人公も世界的な指揮者という設定で、音楽的余韻と物語の感動が重なり合って、心豊かにさせてくれる「音楽映画」といえる。 媒体資料にある、「フランスで260万人動員、3週連続No.1(仏映画興収/実写映画において)を記録、セザール賞主要7部門ノミネート、各国の映画祭で観客賞をはじめ数々の賞を受賞」、もなるほどと頷ける出来栄え。 舞台は北フランスの田舎町。クラシック界のスターとして圧倒的な人気を誇る指揮者のティボは、ある出来事がきっかけで、生き別れた弟ジミーの存在を知ることに。彼は、ジミーの類まれな音楽の才能に驚く。音楽を媒介に、兄弟の未来は思わぬ方向に動き始める、というお話。 劇中では、ベートーヴェン、モーツァルト、ドビュッシーからラヴェルの『ボレロ』といったクラシックの名曲、『クリフォードの想い出』などのジャズ曲、シャルル・アズナブール、ダリダといったシャンソンのヒット曲まで、幅広い楽曲が登場する。なかでも『ボレロ』のアレンジが素晴らしい。混声合唱で始まり、やがて管楽器、そしてオーケストラ全体が加わり、物語と一体化して“フィナーレ”へと流れ込んでいく。『ボレロ』がこんなにも効果的に使われている映画は、稀れではないだろうか。 兄のティボを演じるのは、『セラヴィ!』などでセザール賞に5度ノミネートされたフランスの俳優バンジャマン・ラヴェルネ。弟のジミーには、フランソワ・オゾン監督の『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』『秋が来るとき』で評価が高いピエール・ロタン。脚本と監督を担当したのは、2020年のカンヌ映画祭に正式出品、第33回ヨーロッパ映画賞最優秀コメディ作品賞を受賞した『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』のエマニュエル・クールコル。 感動的な映画を観たい、音楽的愉悦に浸りたいと思う方々にこれ以上はない、超おススメの「極上の音楽映画」だ。

25/9/3(水)

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