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映画から自分の心を探る学びを

伊藤 さとり

映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)

Dear Stranger/ディア・ストレンジャー

見終わった瞬間、タイトルの良さに唸った。愛する人の為に共通言語で交流し、愛する人のすべてを受け入れるのが自分の役目と思い込んだ人間の運命を“通じ合えない夫婦の関係”として描く映画的なアプローチ。普遍的なテーマなのに、ここまでドラマティックに、かつ余計な説明もなく映し出せたのは、本作が日本・台湾・アメリカの合作だったからではないか。日本だけであればもう少し、心情を説明するセリフや画が欲しいと言われかねない潔い編集だった。 西島秀俊がほぼ英語での演技で勝負をかける中で、きっと流暢さや発音の正確さへの葛藤もあったのではと思う。しかし、主人公は日本で生まれ育ち、愛する人の為にNYで彼女の家族とも関わりながら暮らす孤独な男なのだから、発音よりも感情表現での人との交流が主なのだ。それに気づかせてくれる西島秀俊の演技だった。そしてグイ・ルンメイは良い歳の取り方をしていた。愛に疲れ果て、子育てをする母と仕事を好きな女のはざまで迷う女性の感情を表情で見せていた。 影を印象的に使い、NYのクールさが伝わってくる画は、アーティストを生み出す街とはいえ、厳しい現実を突きつけるようにも感じる、真利子哲也の葛藤にさえ感じる本作は、彼の才能において新しい扉を開けた作品と言えよう。

25/9/6(土)

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