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夏目 深雪
著述・編集業
バード ここから羽ばたく
25/9/5(金)
新宿ピカデリー
イギリスの女性監督アンドレア・アーノルドの初の全国規模の劇場公開作品。初長編『Red Road』、2作目『フィッシュ・タンク』、4作目の『アメリカン・ハニー』と3度カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞していながら、日本では映画祭や限定公開でしか上映されてこなかった。筆者は東京国際映画祭で上映した5作目の『COW/牛』を観たことがあるが、牛目線のエモーショナルで独創的な映画であった。 「リアリズムと神話的ファンタジーの融合という新境地を拓いた」という宣伝文句に惹かれ、期待大で観たのだが、期待以上だった。主人公は12歳の少女、ベイリー。その日暮らしのシングルファーザーである父親と暮らすが、彼女の心象風景を表現する、スマートフォンで撮影した映像や、手持ちカメラによる躍動感のある撮影により、その生活は決して貧しいだけではなく、彩りと驚きに満ちているのが分かる。バリー・コーガンが全身刺青のパンクで若い父親、バグを演じているのだが、こちらもカエルの分泌物を採取して幻覚剤として売るために、イケてる音楽を聞かせるなど、ユーモアに満ち抱腹絶倒。バリー・コーガンはインタビューでアーノルド監督と仕事をしたいと述べたことがきっかけで、アーノルド監督から連絡をもらったという。 もちろん「神話的ファンタジー」の部分もあるのだが、父娘の関係や暮らしと全編を彩る祝祭感に満ちたUKロックだけで私はお腹いっぱいだった。3作目に当たる『ワザリング・ハイツ ~嵐が丘~』と『COW/牛』が観れる特集上映も一足先に始まっているのであわせてぜひ!
25/9/6(土)