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社会を映しだす映画をわかりやすく紹介

池上 彰

ジャーナリスト、名城大学教授

キス・ザ・フューチャー

戦争中であっても音楽は楽しみたい。1992年、旧ユーゴスラビアを構成していたボスニア・ヘルツェゴビナが独立しようとすると、同じくユーゴスラビアを構成していたセルビアが、これを阻止しょうとして攻撃。戦争が始まります。通称ボスニア内戦です。 ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボは、セルビア人民兵によって包囲され、ビルの屋上などに陣取ったスナイパー(狙撃兵)が、サラエボの住民を無差別に銃撃。多数の市民が殺害されました。 とりわけ目抜き通りは大勢の市民が通らなければならない場所だったことから犠牲者が続出。「スナイパー通り」と呼ばれました。 それでも人々は、地下のミュージックスタジオに集まってロックを楽しみました。日常生活があまりに緊迫していただけに、精神を解放させる場所が欲しかったのです。 彼らにとって、戦争や人権など社会的メッセージを音楽で発信していたU2は憧れのバンド。それを知ったアメリカの援助活動家はサラエボでU2のコンサートを開くことを計画します。U2も乗り気になったのですが、戦中とあって、さすがにコンサートは危険すぎました。 しかし、ボスニア内戦が終わった1997年9月、U2が遂にサラエボを訪問。4万5000人の観客を集めて感動的なコンサートを実現しました。戦争による分断が進んだボスニアで、音楽の力で人々の心をひとつにする試みだったのです。 この映画は、U2がサラエボでのライブを実現するまでを追ったベン・アフレックとマット・デイモンがプロデュースしたドキュメンタリーです。 音楽には、人の心を結びつける力がある。音楽の力を再認識させると共に、そんな音楽の力を人々に伝える映画の力を教えてくれます。

25/9/20(土)

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