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美術ブロガー

開館20周年特別展 円山応挙―革新者から巨匠へ

円山応挙(1733-1795)は、徹底した写生と西洋的な遠近法を取り入れた表現で、江戸絵画に革新をもたらした絵師です。現在、三井記念美術館で開催されている『円山応挙展 革新者から巨匠へ』では、その革新性から巨匠としての地位を確立するまでの歩みを、空間ごとに追体験できる構成となっています。 展覧会の冒頭に登場する《元旦図》(個人蔵)は、株姿で初日の出を拝む人物を描いたもので、応挙の自画像とみられています。続いて《子孫への教訓書》(個人蔵)や、若き日に手がけた眼鏡絵が並びます。眼鏡絵の制作を通じて学んだ西洋由来の透視的な空間表現と、徹底的な実物写生が融合したことが、応挙の立体的で臨場感あふれる画風を生み出したと考えられます。当時の人々にとって、それは初めて体験するバーチャルリアリティのような驚きに満ちていたのでしょう。 花鳥画や文人趣味を示す《水仙図》(三井記念美術館蔵)、《桜木地茶箱》、《破墨山水図》を経て、人物画の傑作《江口君図》(静嘉堂文庫美術館蔵)や《大石良雄図》(武井報效会百耕資料館蔵)が現れます。なかでも金刀比羅宮の《遊虎図襖》は大きな見どころで、実際の書院と同じ直角配置で展示されており、空間と一体となった応挙芸術の迫力を味わうことができます。その隣には本間美術館の《虎皮写生図屏風》が並び、実物を前にした応挙の驚きをそのまま写し取ったかのような写生表現が、観る者を圧倒します。 さらに、国宝《雪松図屏風》と、展示替えで登場する《藤花図屏風》は、本展を象徴する二大作品です。静謐な雪松と華やかな藤花、それぞれの表現は、応挙の画境の広がりを示すとともに、「唯一の国宝」と「未来の国宝」を並んで堪能できる機会となっています。 後半には《華洛四季遊戯図巻》(徳川美術館蔵)や写生帖が展示され、緻密な観察眼に裏付けられた応挙の姿勢が伝わります。暗室展示では《青瀑布図》(サントリー美術館蔵)や《雨江村図》(個人蔵)が交替で登場し、墨の濃淡と余白によって描かれる水墨表現の真髄に浸ることができます。最後の部屋では、応挙と伊藤若冲の合作《竹鶏図・梅鯉図屏風》が東京で初公開され、《竹林七賢図》(金刀比羅宮蔵)、《雪柳狗子図》(個人蔵)、《自孤図》(個人蔵)など、多彩な名品が並びます。雪の中で遊ぶ子犬を描いた作品は、徹底した写生の追求と同時に、応挙の温かな人間味を伝えてくれます。 全体を通して浮かび上がるのは、応挙が単なる写生の名手ではなく、当時の観者を圧倒する新しい視覚体験を提示した革新者だったということです。やがてその革新性は広く受け入れられ、巨匠としての地位を不動のものとしました。展覧会タイトルの「革新者から巨匠へ」が示す通り、応挙の歩みを一堂に追体験できる本展は、日本美術史を語る上で見逃せない機会となっています。

25/10/5(日)

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