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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

愚か者の身分

現代の新宿・歌舞伎町を舞台にした映画。歌舞伎町にもいろいろな階層の人がいて、この映画の主人公3人は最下層にいる。いわゆる闇バイトで、戸籍売買や臓器売買などをしている組織の末端にいる青年たちだ。 3人それぞれの視点から、描かれる。最初がいちばん若い林裕太演じるマモルの視点で、兄貴分の北村匠海演じるタクヤとの、闇バイトとそれで得たお金での束の間の楽しみなど刹那的な日々が描かれる。 次がタクヤの視点で、マモルとの出会いからが描かれ、彼が最悪の事態に陥るまで。最後が、綾野剛演じる梶谷の視点で、タクヤとの関係と、最悪の事態以後が描かれる。3人は同じ世界に生きているが、マモルと梶谷は面識がないどころか存在も知らない。タクヤだけがマモルと梶谷と付き合いがある。 最初のマモルのパートでは、彼が知っていることしか描かれないので、事情がつかみにくいのだが、それはあえてそうしているわけで、その分からない部分が、梶谷のパートになって、すべて明らかになっていく。 こうした構成上の面白さが、ある意味では単純なストーリーに重層化をもたらし、見応えのある映画になった。 原作は7人の視点で描かれていたが、これを3人に絞ったのはいい脚色だ。最初から最後まで緊張感があり、気が抜けない。ラストは『太陽がいっぱい』みたいで、全体にフランスの暗黒街映画の雰囲気がある。 サスペンスであり、告発ものでもある、社会派エンタメの王道。同日に公開される『ミーツ・ザ・ワールド』も現代の歌舞伎町を舞台にているので、あわせて見ると、歌舞伎町にもいろいろあると分かる。

25/10/23(木)

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