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恩田 泰子
映画記者(読売新聞)
映画監督 森田芳光
25/10/14(火)~25/11/23(日)
国立映画アーカイブ
国立映画アーカイブの「映画監督 森田芳光」は展示(11月30日まで)と特集上映(前半は終了、後半は11月4日~23日)で森田芳光監督(1950〜2011)の軌跡をたどる大型レトロスペクティブ。とにかく充実している。特集上映では31プログラム(38作品)のほぼすべてをフィルムで上映(うち15作品はニュープリント)。商業映画デビュー作『の・ようなもの』から最後の作品となった『僕達急行 A列車で行こう』に加え、初期8mm作品集、さらには森田が脚本を手がけた映画も紹介する。作品ごとに異なるアプローチで、時代の空気を先見的にとらえながら、人間の面白さ、奥深さを描いてきた森田監督。創意と才気に富んだ映画的冒険は、時を経て、古びるどころか一層新鮮。作品世界を裏打ちするスタッフの仕事と相まって、スクリーンで、フィルムでつくられた映画をフィルムで見るたのしさをも再発見させてくれる。作品ごとに異なるスタンプを用意しての「スタンプラリー」、そして別フロアでの展示もあるから、通うモチベーションはいや増す。この展示では、脚本や秘蔵資料、蔵書、愛聴レコード、映画のポスターやグッズに出会えるが、単なる陳列ではない。森田組のスタッフがしっかりかかわって空間を構成している。再現された監督の書斎は居心地がいい。作品資料をたっぷり収めたドロワーには、引き出しを開ける快楽も詰まっている。全作品のポスターを一気に見せるコーナーは壮観な上、裏に回るとちょっとした仕掛けが。細部にまで神経を行き渡らせた見せ方、楽しませ方、まさに映画人の世界ではないか。レトロスペクティブ「予告編」も出色。8mm作品や代表作の一部を編んだもので、会場での上映開始時に毎回かかる。映画と出会うときめきを高める。最後に文字で出てくる「映画を観に行くということは人に会いに行くこと」という森田監督の一言が心に残る。
25/11/2(日)