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植草 信和
フリー編集者(元キネマ旬報編集長)
ポンヌフの恋人〈4Kレストア版〉
25/12/20(土)
ユーロスペース
今では名作として映画史にそのタイトルが刻まれている、レオス・カラックス監督の『ポンヌフの恋人』(1991)。だが、我が国で公開された92年の「キネマ旬報ベストテン」では、圏外の13位。選考委員全69人中、支持したのは、順位と同数のわずか13人のみ。しかも、最高得点の10点を入れた選考委員は0人で、支持者13人の平均点数は、5.06点だった。 しかしそんな低評価(?)にもかかわらず、シネマライズ渋谷では27週ものロングラン興行を記録。日本最大級の映画レビューサイトFulmarksでは13,000件以上のレビューが寄せられ、その平均評価は4.0の高評価。『ポンヌフの恋人』は、「時代と観客が作品評価を押し上げた」典型的な名作、といえるかもしれない。 名作に不可欠な、“伝説”にはこと欠かない。そのひとつが、本作の最大の見どころである、主舞台のポンヌフ橋。言うまでもなく、ポンヌフ橋は、パリ中心部を流れるセーヌ川にかかる石造りの橋。当然、撮影許可は下りるはずもなく、パリ郊外に作られた「ポンヌフ橋と周辺の街並み」の巨大なセットで撮影された。そのセットの建設費はなんと6億円、製作費は30億円という巨費が費やされた。 さらに、監督のカラックスと主演のジュリエット・ビノシュは恋人同士だったが、ラストシーンをめぐって対立。嵐によるセットの倒壊、関わったプロダクション2社の資金難による倒産など、撮影は何度も中断。完成まで3年の歳月を要した。まさに名作にふさわしい、“呪われた映画”なのだ。 天涯孤独な大道芸人アレックス(ドニ・ラヴァン)と、眼の奇病により失明の危機にある画学生ミシェル(ジュリエット・ビノシュ)。ホームレスとなったふたりは、ポンヌフ橋で出会う。愛を告白できないアレックス、過去の初恋に生きるミシェルの、「愛の狂騒」が回転していく……という物語。 観客を陶酔させたのは、ポンヌフ橋の上空に打ち上げられる花火の幻想的な映像美だ。 カラックス監督の「アレックス三部作」の完結編で、彼の作家性が最も色濃く反映された一本とも言われている本作、日本と無関係ではない。カラックスの友人だったユーロスペース創始者の故・堀越謙三が出資したおかげで、映画は完成にこぎつけた。「名作誕生」までの幾多の困難の舞台裏を想像して鑑賞するのも、一興かもしれない。
25/12/21(日)