岸井ゆきのと宮沢氷魚が、同じ“佐藤”姓を名乗る夫婦を演じる人間ドラマ。大学時代の出会いから結婚、離婚に至る15年の軌跡を、天野千尋監督が過度にドラマチックにせず、日常の積み重ねとして描く日本版『マリッジ・ストーリー』だ。 司法試験をめぐるすれ違いや収入差など、現代のカップルが抱える摩擦にリアルさが光る。そのディテールには誰もが思い当たる節があるだろう。岸井演じる妻の軽やかな強さと孤独、宮沢演じる夫の誠実さと未熟さ、その両方が画面に滲んでいる。 天野監督は前作『ミセス・ノイズィ』同様、対立の裏にある他者理解の可能性を丁寧にすくい上げる。恋愛映画の形式を取りながら、実のところ“人とともに生きるとは何か”を問いかける、大人の観客にこそ沁みる一本。

25/11/23(日)