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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

新解釈・幕末伝

歴史コメディだが、登場人物と基本的な出来事は史実通りで、突拍子もない新解釈で幕末を描いているわけではない。坂本龍馬の視線でペリー来航から大政奉還までを描くが、ひとつのシーンが割合と長く、「過程」を丁寧に描いている。 「新解釈」となっているのは、坂本龍馬をはじめとする歴史上の人物のキャラクターの造形だろう。坂本龍馬はバブル時代の広告代理店にいた調子のいい営業マンというような設定。 坂本龍馬を演じるムロツヨシのアクの強さが好きかどうかで、評価は分かれる。いくつかのドタバタシーンには、くどいというかしつこいところがあるが、これはそういう作風なのだろう。 意外だったのは、西郷隆盛を演じる佐藤二朗の名演ぶり。『爆弾』では変幻自在に緩急をつけて喋りまくる怪演に圧倒されたが、この映画では、「寡黙」そのもの。怪演ではなく、紛れもない「名演」となっている。 圧巻は、西郷隆盛と木戸孝允(桂小五郎)が薩長同盟のために会談するシーンで、ムロツヨシの坂本龍馬が仲介役のはずが、邪魔ばかりして話がなかなか進まないシーンでの、佐藤二朗の西郷隆盛の「沈黙」。これがすごい。この「沈黙」を見るだけで一見の価値があり、西郷隆盛は佐藤二朗以外の俳優が演じるのは難しいというくらい。

25/12/13(土)

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