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夏目 深雪

著述・編集業

サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行

フランスでの公開時、公開から7週連続No.1、フランス国民の7人に1人が観たという、1080万人を動員した2024年の年間興行収入No.1ヒット作。宝石店に泥棒に入った親子が、警察をまくため変装し、障がい者に間違われたことから、障がいのある若者たちのサマーキャンプに潜り込むことに。息子パウロは障がい者、父親ラ・フレーズは介助者として、徐々にその場に馴染んでいくが……。 障がい者のふりをする健常者の映画は今までなかったわけではない。ただその健常者が、窃盗とはいえ犯罪者というのは珍しい。ポイントは、障がいを持つ人々の愛くるしさやその個性の素晴らしさを謳うと同時に、彼らと仲良くなったり世話をしたりしてしまう、健常者=犯罪者の人間らしさや可能性まで描いていることだ。 監督はパウロを演じたアルテュス。「私は彼ら“と”映画を作りたかったのであって、彼らに“ついて”の映画を作りたかったわけではありません」「“健常者の映画”の中に、時々障がいのある人がちらっと映って“存在を思い出させる”ような作品にはしたくなかった」と述べる通り、障がい者が主役でも脇役でもない。泥棒親子と介助者3人、そして10人の入所者の群像劇なのである。全て当て書きで、Instagramで実際に障がいを持つ方を募集したという10人の入所者も生き生きしていて素晴らしいが、健常者の5人も個性豊かな曲者ばかりで魅力的だ。 センシティブな題材の映画は作りにくい現代でも、パワーでそれを突破してしまう、フランス映画の底力を感じさせる粋なコメディ。

25/12/16(火)

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