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白坂 由里
アートライター
ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子 漂着
25/10/11(土)~26/1/12(月)
アーティゾン美術館
沖縄に生まれ育ったビデオ・アーティストの山城知佳子。東日本大震災以前に東北・宮城に移住し、今も拠点とする写真家の志賀理江子。フロアごとに二つの個展からなる。 山城の新作《Recalling(s)》は複数の映像作品で構成されている。山城の父・達雄が幼少期を過ごしたパラオ・アンガウル島への旅。アンガウル島は戦前に日本が植民地としていた南洋諸島の島の一つで、記録はあまり残っていないが、リン鉱石採掘事業やさとうきび栽培などで沖縄からの移住者が多かったという。 次いで柔らかな布幕を開けると、米軍統治下にある沖縄の基地クラブで、ベトナム戦争出兵前の米軍兵士からリクエストが多かった「ダニーボーイ」を歌うジャズシンガー齋藤梯子とドラマー金城吉雄の姿。牧師・平良修の祈りに込めた抵抗、喜納昌吉が歌う「ハイサイおじさん」、東京大空襲で家族を失った亀谷敏子の語り……。時折、複数の声が重なって聴こえる。そしてその先にあるもの。 一方、志賀は、ある日すれ違ったトラックのフロントガラスに掲げられた「なぬもかぬも」(宮城県周辺地域で使われる「何もかも」を土台とする)という言葉に目を奪われ、調べる過程で宮城周辺にしか存在しない「褜がらみ」という言い習わしにも出会った。そこから架空の人物「褜男(えなお)」の物語をつくりあげ、巨大な写真絵巻を展開している。 劇場的な会場空間には、原子力船「むつ」をもとにした、写真を印刷した素材と同じターポリン製の巨大な船。“創造的復興”という耳触りのよい口実や、国家や巨大資本が持つ構造の腹の中をのぞくように写真絵巻の中を歩く。耳に響くのは生命力に満ちた蛙の轟きだ。 山城も志賀も、抽象度を上げると同時にそこに埋没させないよう「個」の声を拾い上げ、見る者にも「個」としてどう思うか問いかけている。誰かと話し合ってみたいとも思わせる。
25/12/27(土)