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柔軟な感性でアート系作品をセレクト

恩田 泰子

映画記者(読売新聞)

Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto 4Kレストア版

1984年5月の東京で撮影された本作は、坂本龍一についてのドキュメンタリーであり、東京の音のポートレイト。フランス国立視聴覚研究所(INA)が製作した作品で、監督はマルチメディアアーティストのエリザベス・レナード。上映時間は62分と長くはないが、内容はカラフルにして濃密。当時32歳だった坂本が、音楽や日本文化の現在地、さらには自分自身について縦横無尽に語る。ちょうど制作中だった4枚目のソロアルバム「音楽図鑑」の創作に取り組む様子を見せる。東京の風景の中にふと現れて茶目っ気たっぷりにカメラに収まってみたりもする。改札ばさみの音が響く駅、パチンコ店の風景、秋葉原の電気街など、坂本不在の東京点景もしばしば挟み込まれるが、それらは不思議と坂本の言葉や音楽と似合う。〈僕のやっていることは、大学とか研究所とか書斎で音楽のためだけに作られている音楽とはやっぱり違うと思います〉という言葉と響き合う。2017年のドキュメンタリー『CODA』で語っていた日々の暮らしを囲む音への思いについての言葉とも時空を超えて溶け合うように思われる。40年前のドキュメンタリーなのに、懐かしさよりも新鮮さを強く感じるのは、坂本の手から、東京の生活から、音楽があふれ出す瞬間をとらえた作品だからかもしれない。今回の4Kレストア版は、INAと坂本の事務所KABが作ったもの。もともとはINAが4Kレストアを行っていたが、日本公開にあたって、東宝スタジオとイマジカで音のミックスをやり直したという。

26/1/19(月)

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