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政治からアイドルまで…切り口が独創的
中川 右介
作家、編集者
木挽町のあだ討ち
26/2/27(金)
TOHOシネマズ日比谷
原作を読んでいる人は、俳優たちの演技や映像美に魅せられ、読んでいない人は、ミステリーとしての意外な真相に驚くだろう。 直木賞を受賞した原作を読んだ時は、仇討ち事件の真相を解明していくミステリーでありながら、江戸時代の芝居小屋を舞台にした一種のバックステージものだったので感心した。同時に、これは映像化は難しいのではと思った。というのも、原作は5つの章と終章で構成され、事件の関係者がひとりずつ、事件の主人公について語っていく形式なのだ。昨年、歌舞伎座で新作歌舞伎として上演されたときは、原作を分解して時間軸に沿って再構築していた。舞台の場合、回想シーンは難しいので、そうなるのはやむを得ないし、それはそれでうまい脚色だった。では、映画はどうするのか。回想シーンとしてつないでいくことは可能だが、それでは単調なような気がした。 すると、映画版は原作に忠実な構成でありながら、視点を変えて再構築する見事な脚色だった。歌舞伎座の舞台版ではカットされていた探偵役の武士を柄本佑が演じ、能動的な受け身の芝居という難役を、独特の間と表情でうまく演じている。仇討ちをした青年武士を演じる長尾謙杜には、歌舞伎役者でなければ無理そうなシーンがあるのだが、これが実に美しく、かつ迫力があって、見事。最近は若い俳優と組む渡辺謙は、ここでもラスボス的な役で圧倒的な存在感。そして、彼らをとりまく芝居小屋関係者には、演技のうまいバイプレイヤーが適材適所に配され安定の演技を見せてくれる。 原作のもつミステリーとしての面白さ、俳優たちの巧みな演技、重厚でリアルな美術、スピーディーかつ風格ある演出と、見応えのある映画。
26/1/19(月)