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植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

木挽町のあだ討ち

源孝志監督の11年ぶり、6作目の映画『木挽町のあだ討ち』を観て、「昨年の我がベストワン作品『国宝』に優るとも劣らない傑作」、という感想を持った。現代劇と時代劇の違いはあるが、両作ともに「歌舞伎」が重要なモチーフになっているゆえに、『国宝』が思い浮かんだのかもしれない。映画としての娯楽性の高さ、意外性に富んだ物語展開、演出技巧の卓抜さなど、すべての点で甲乙つけがたく、源孝志監督の映像センスと演出力に脱帽した。 『京都人の密かな愉しみ』でATP賞テレビグランプリを受賞している源孝志監督が多く手がけているのは現代劇だが、『遺恨あり 明治十三年 最後の仇討』『忠臣蔵狂詩曲No.5 中村仲蔵 出世階段』など、数作の時代劇も監督している。なかでも異色作は、現代劇と時代劇を混在させたNHK・BSプレミアム・ドラマ『スローな武士にしてくれ~京都撮影所ラプソディー~』だ。ドローンカメラ、ハイスピードカメラなど最新技術を駆使しての時代劇ドラマ作りに取り組む、京都映画人の熱気みなぎる秀作だった。 前説が長くなったが、そのように時代劇にも通じているベテランの源孝志監督の映画最新作が『木挽町のあだ討ち』だ。原作は直木賞と山本周五郎賞をW受賞したことで知られる、永井紗耶子の同名小説(「このミステリーがすごい!」「ミステリが読みたい!」に選出され、2025年には歌舞伎としても上演された)。 江戸・木挽町にある歌舞伎小屋「森田座」に、ひとりの田舎侍が訪れるところから物語が始まる。その導入部で映し出される「森田座」のセットが、精巧かつ色彩豊か。江戸時代の歌舞伎小屋はかくやと思わせる素晴らしさ。『スローな武士にしてくれ』でコラボした東映京都撮影所のスタッフと源監督が、総力を挙げて創りあげた「歌舞伎小屋」だ。 その木挽町で展開される「あだ討ち」物語。まるで歌舞伎芝居から抜け出したような女形を髣髴させる美少年と、山賊のような無頼漢の仇討ち合戦。その奇想天外ぶり、ミステリアスな面白さは、原作を読むか、映画を観ていただくしかない。芸人、職人、侍などが織りなす江戸の世相と、「あだ討ち」の真相に迫る緩急自在な演出が見事だ。 観る者を瞬時にして、江戸歌舞伎の街「木挽町」(現在の歌舞伎座や新橋演舞場あたりか?)へタイムスリップさせ、そこで起こる「あだ討ち」の目撃者にさせるセット技術、衣装、結髪の素晴らしは、東映京都撮影所以外では作ることができないだろう。 源演出の最大の特質である、役者の個性豊かな演技を引き出す技巧も見逃せない。飄々としながらもどこか謎めいた主人公総一郎を硬軟自在に演じる柄本佑。「あだ討ち」の両者、菊之助と作兵衛を、長尾謙杜と北村一輝。森田座の座付作家にして、壮大な芝居トリックの仕掛人篠田金治の渡辺謙らの名演を引き出した、源監督の演出が素晴らしい。 今年正月4日から源孝志監督の最新ドラマ『京都人の密かな愉しみ-Rouge 継承-』が始まった。視聴率は発表されていないのだが、「Filmarks」で3.5点、「ちゃんねるレビュー」で4.21点など、高評価を得ている。新作ドラマ『京都人の密かな愉しみ』、新作映画『木挽町のあだ討ち』が同時期の公開。今年は、源孝志監督の当たり年になりそうな予感がする。

26/2/1(日)

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