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映画から自分の心を探る学びを
伊藤 さとり
映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)
金子文子 何が私をこうさせたか
26/2/28(土)
ユーロスペース
日本にも気鋭な女性の監督は昔から存在する。今ほど女性監督が注目されず、生きづらかった時代、メガホンを手放さなかった浜野佐知監督が、渾身の思いで映画化に至ったのが本作『金子文子 何が私をこうさせたか』である。正直、韓国映画『金子文子と朴烈』を観ていたことから、また何故、「金子文子」を映画に?と思った自分を恥じたい。これは『オッペンハイマー』を観た日本人監督が「日本側から撮りたい」と言った衝動に近いほどの思いだったのではと、本作を観て強く感じた。 史実をフィクションにするにはそこに監督の思想が入るのは当たり前であり、それが際立つものは新たな物語となって人の心に残る。本作では、金子文子が残した詩を散りばめながら、彼女が女というよりはひとりの人間として見てもらうことを望み、自由を手にすることを切望する様子が獄中生活なのに、のびのびと描かれているのだ。しかも金子文子を演じる菜葉菜の内面から溢れ出る怒りと生命の輝きが主人公を輝かせ、抑圧された世界で存在を軽んじられることや発言を制御されることへの理不尽を、現代へ投げかけるような作品になっていた。人種差別的な発言など、きな臭くなってきた世界で、今一度、命の価値について問う尊厳の物語は、過酷な時代に映画監督を続けてきた浜野佐知という人間だから撮れたのだ。
26/2/25(水)