水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

歌舞伎、文楽…伝統芸能はカッコいい!

五十川 晶子

フリー編集者、ライター

歌舞伎座 三月大歌舞伎

『加賀見山再岩藤』(歌舞伎座 三月大歌舞伎) 『鏡山旧錦絵』の後日譚として河竹黙阿弥が書いた狂言だ。『鏡山』といえば1月に国立劇場主催で上演されたばかり。その記憶も新しいうちに歌舞伎座で上演されるなんてとてもうれしいタイミングだ。 『鏡山』では中老尾上が局岩藤に草履で打たれた屈辱で自害し、召使のお初がその敵討ちをする。多賀家のお家乗っ取りをたくらんでいた岩藤一味を討った功から、お初は二代目尾上として中老に取りたてられたところでめでたしめでたしだった。 こちらの『加賀見山再岩藤』(かがみやまごにちのいわふじ)の通称は「骨寄せの岩藤」。お初に討たれた岩藤が怨霊となって再び騒動を巻き起こすという、なかなかにぶっとんだパロディ。この岩藤、タイトルロールになるだけあって、怨霊とはいえ間違いなくこの狂言をひっぱる華麗なるスターだ。 二代目尾上となった”中の人”お初は、尾上の墓参りの帰り道、岩藤の遺骨が捨てられた八丁畷の土手で念仏を唱えて回向するが、その骨が自然に寄り集まり、ついには岩藤の亡霊となる。御家騒動で右往左往する多賀家の人々をあざ笑うかのように、桜満開の春山の天高く日傘を手に、蝶々と戯れながらふわふわと飛んでいく、角隠しに打掛というありし日の姿そのままの岩藤の亡霊……。この素敵に荒唐無稽な設定を思いついた黙阿弥さんには最大級の「いいね」を送りたい。 じっくりとした芝居場も用意されている。そこでの主人公は鳥井又助。側室にうつつを抜かす当主の多賀大領を支えていた花房求女は追放され、その忠臣の又助は側室と見誤り大領の正室を殺めてしまう。こんなふうに主のために早合点して自分の命を投げ出すことになる男(女)も、御家騒動に欠かせない存在だ。彼ら/彼女らはたいていが町人の身分で、武家の大儀の巻き添えとなり犠牲となってしまうことが多い。御家の秩序が回復される大詰、他の登場人物は再び時代の拵えで顔を揃えるのに対し、彼ら/彼女らの姿はそこにはないことに時々切なくなる。 さて「骨寄せの岩藤」に戻る。初演に岩藤を勤めた三代目尾上菊五郎が使用した骸骨の小道具はその後焼失してしまったという。そこで五代目菊五郎が順天堂の医師に頼み、本当の人骨を使用したこともあったとか。ちなみにゴツゴツしていて重く使いづらかったというエピソードが『女形の事』(尾上梅幸(六代目)著)に残っている。そんな大胆過ぎる発想が許された時代だったのだなあと思いつつ、本物の人骨がドロドロで寄り集まってくるなんて鬼気迫るものがあっただろう。それを目撃した当時のお客さんが羨ましい気もする。

26/2/26(木)

アプリで読む