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中山 ゆかり
ライター
トワイライト、新版画 ―小林清親から川瀬巴水まで
26/2/19(木)~26/5/24(日)
三菱一号館美術館
日本美術の充実した収蔵品で知られる米国のスミソニアン国立アジア美術館から、明治期の浮世絵版画とその後の新版画のコレクションが里帰りをはたした。コレクションを寄贈したのは、ディーラーとして米国に新版画を広める役割も担った収集家のロバート・O・ミュラー。プロの目利きのコレクションゆえ、質が高く、状態がきわめて良いのが特徴だ。 焦点となる画家は、最後の浮世絵師の一人と呼ばれる小林清親(きよちか)。明治の新時代に入り、徐々に衰退しつつあった黄昏(たそがれ)期の浮世絵界にあって、夜や早朝、あるいは黄昏時の東京の街の表情や消えゆく江戸情緒をとらえようとした清親は、光と陰影を繊細に用いた「光線画」で人気を博した。清親自身は間もなく光線画を離れるが、弟子の井上安治らがその作風を受け継ぎ、またのちには、版元の渡邉庄三郎が、清親の見いだした江戸東京の情趣を引き継ぐ「新版画」運動を展開していく。失われゆく浮世絵の技術を継承し、新しい時代の版画を創造しようとしたこの運動のもとでは、吉田博や伊東深水、川瀬巴水らが活躍した。 会場では、郷愁を誘う風景、ニュアンスに富む色彩、繊細な摺りの作品群をたっぷりと味わえるが、同展のもうひとつ興味深い点は、当時の日本を写した沢山の写真が一緒に並べられていることだ。写真の普及は浮世絵版画の衰退原因のひとつでもあったけれど、双方が互いに学び合い、関心を共有する関係でもあったようだ。たとえば空間構成や遠近法を写真から学んだ版画もあれば、伝統的な版画技術に熟練した職人が手作業で彩色をほどこした写真もある。一方で、失われていく風景を惜しみ、記録しようとする態度は両者に見られる。そして、同じテーマや構図の版画と写真は、どちらかがどちらかに影響を与えたのだろうか。そんなふうに版画と写真を見比べながら、あれこれ思いをめぐらすのも同展の楽しみのひとつだ。ちなみに、会場の三菱一号館美術館は、今回の作品群と同じ明治期に建てられた建築を復元したもの。親密な空間も、作品と響き合っている。
26/3/7(土)