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映画から自分の心を探る学びを

伊藤 さとり

映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)

私たちの話し方

“マイノリティの人たちにスポットを当てる”という言葉を私も使うが、そもそも“普通”というレベルは誰が作ったのだろうか。人にはそれぞれ得意不得意があり、ジャンルによって“普通レベル”に達しないものやそれを超える場合だってあるのだ。本作は小さい頃に人工内耳手術を受け、その慈善団体のアンバサダーになった主人公が、手話で会話をするろう者の仲間たちと出会い、自分の居場所を見つけ出していく物語だ。 ここ数年、『コーダ あいのうた』や『ぼくが生きてる、ふたつの世界』『みんな、おしゃべり!』などの映画からろう者の人々の世界を垣間見ることが出来た。この映画では、社会適応の為に、ろう学校で手話での会話を禁じ、口話教育を強制された時代に小学生だった若者たちが、社会人になって“普通”という壁にぶつかりながらも自分の信念で切り開いていこうとする様子が描かれている。 アダム・ウォン監督の視点は繊細で、メインキャラクターとなる若者たちの当時の学校教育や大人の考えとなる“生きていく為には普通になること”を親切心として少しだけ映し出した後、反発して手話を誇りとして生きる青年と、手話と人工耳手術での口話を手にした青年、普通にならなければと口話でしか意思疎通をしなかった女性の壁をそれぞれ見せ、ろう者にもグラデーションがあることを伝えていくのだ。しかも3人が出会ったことで刺激あって成長していく青春映画になっている。 そんな彼らそれぞれの世界を観客に体験させようと、音にもグラデーションをつけることで、“普通”で作られた世界による無意識の差別に気付かされる。大事なのは、排除しないこと、特別扱いしないこと、強要しないこと、そしてそれぞれの居場所を奪わず活かせる世界。これはろう者だけじゃない、すべての教育に言えることなので、終始目頭が熱くなった。ちなみに子役時代の少年ふたりの演技もすごく良いので目を奪われた。

26/3/18(水)

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