評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!
政治からアイドルまで…切り口が独創的
中川 右介
作家、編集者
プロジェクト・ヘイル・メアリー
26/3/20(金)
TOHOシネマズ日比谷
SFではこの数年で最も話題になったベストセラーの映画化。文庫版で上下合わせて約900ページという長編だが、一気に読めると話題だった。実際、冒頭30ページは訳がわからないのだが、そこを乗り越えると、一気読みである。映画は、その一気読みさせる原作の推進力をそのまま活かしている。 「地球最後の日」「冷凍睡眠しての宇宙旅行」「地球外生命体とのファーストコンタクト」といったSFの人気要素がいくつもあるが、最大のみどころで、新しいのは、地球外生命体との「バディもの」であること。 近未来が舞台で、太陽が何らかの要因で衰弱し、地球は冷えてしまい食糧がなくなり、人類は生存できなくなることが、観測データから分かる。それを救うべく、ひとりの中学の理科の教師が宇宙へ旅立つ。そして、地球外生命体と出会うのだ。 その異星人は人間と似ていないだけでなく、地球上のあるゆる動物とも似ていない。まさに想像もできないもの。原作には岩石みたいなものだと書かれていて、正直なところ、読んでいるときは、どんなものなのかイメージがつかみにくかった。だから映画でその「彼」が登場したシーンでは「お前はこういう形をしていたのか」と感激してしまった。その「彼」は外見は生物とも思えないが、人類以上の知性があり、やがて会話ができるようになる。ここも見どころ。 原作は、宇宙船の中で主人公が記憶喪失の状態で目覚め、自分が何者で、なぜここにいて、何の目的なのかを少しずつ思い出す回想シーンと、いまの宇宙船の中で進行する出来事が交互に描かれる構成だが、映画も、それをなぞっていく。 なぜ地球が滅びるのか、どうやったら防げるのかが分かるまで、そして地球を救うために世界がひとつになって取り組む巨大プロジェクトに主人公が巻き込まれていく過程だけ抜き出しても面白い映画になる。それプラス、ファーストコンタクトものでもあるのだから、贅沢。 ラスト近くになって、ようやく、彼が宇宙船に乗り込むまでの話がつながる見事な構成で、もう一度はじめから見たくなり、見るたびに発見がありそうなタイプの映画だ。 いろいろな意味で、SF映画のひとつの到達点。
26/3/23(月)