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森元 隆樹

演劇評論家/ライター

ナカゴー本公演『ずっと洋画みたいだね』

コメディがあればシリアスもある。ナンセンスがあればリアリズムもある。歌とダンスで綴られるミュージカルもあれば、日常のトーンで語られる会話劇もある。ここで書き始めたら切りがないほどのジャンルが繚乱し、当たり前のようにボーダーレスに絡み合う。その自由さが演劇の魅力のひとつであり、伸びていく翼の多さこそが、人間の可能性を呼び醒ましていく礎となる。地球上にこれだけの人間がいて、これだけの数の人々が演劇に思いを込めている時代に、翼がひとつしかないとしたらあまりにも寂しい。2つでも3つでも足りない。自由に、作り手の感性の赴くままに様々な翼が伸びていく中で、それらすべてに敬意を持ちつつ、「こういう作品が好きだなあ」とか、「今日観た舞台は少し自分の感覚と違ったなあ」とか、好みを語っていけることこそが、演劇という文化がふくよかに醸成されている証しだと思う。 そんなふうに、自由に、いろいろなジャンルの翼が伸びていく演劇という文化の一翼を確実に担い、これからも担い続けてゆくであろうと思われていた劇作家であり演出家の知らせが届いたのは、2023年の夏のことだった。 鎌田順也さん。急に病に倒れ、息を引き取られた。 その鎌田さんが率いた劇団「ナカゴー」の劇団員は、その後も舞台に立つ時には名前の後ろに (ナカゴー) とクレジットし続け、それを見る度に、そっと、鎌田さんが残した翼の大きさに、思いを寄せ続けた。 そして。 ある時私は、ある公演の情報を目にする。 ナカゴー本公演『ずっと洋画みたいだね』 演劇界において、鎌田さんが伸ばし続けた翼に共鳴したことのある人々にとっては大ニュースであり、大きく喧伝されてもおかしくないその公演情報は、さらっと、何も騒ぐことなく、するっと、私の前に滑り込んできた。 らしい。本当にナカゴーらしい。そうだった、こんな告知がナカゴーだった。チラシにも殊更なことは何も書かれていない。ただ一行だけ、「ナカゴー、約4年ぶりとなる本公演です。皆さま、ぜひご来場ください。」とだけ、さらっと。 ほんとにそうだ。この感じがナカゴーだ。この佇まいこそが、鎌田さんだ。 <<<>>> ナカゴー主催公演としては3年ぶり、本公演としては約4年ぶりとなる公演を浅草九劇にておこないます。 今回は、劇団「東京にこにこちゃん」主宰・萩田頌豊与(はぎたつぐとよ)氏が作・演出として携わってくださることとなりました。 主宰の鎌田亡き後、ナカゴーを応援し続けてくださった皆さまや、今回初めてナカゴーの芝居をご覧になる皆さまにも、公演をお楽しみいただければ幸いです。 皆さまのお越しを心よりお待ちしております。 <<<>>> 公演会場である浅草九劇のホームページには、チラシのレイアウトのほかに、上記のようなコメントが添えられていた。 4年ぶりの本公演にどのような作品で臨むのかについて、いろんな話し合いがあったのか、それともすぐに意見がまとまったのか。もちろん私の知るところではないが、ナカゴーが選んだのは、鎌田作品の再演ではなく、作・演出を「東京にこにこちゃん」の萩田頌豊与さんに依頼しての、新作公演。 さらりと。ふわりと。 もうすべてが、ナカゴーらしい。 「ナカゴー、約4年ぶりとなる本公演です。皆さま、ぜひご来場ください。」 この言葉だけを胸に、浅草九劇までの道のりを、しっかりと、そして、そろりと、歩いていきたい。

26/3/24(火)

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