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映画から自分の心を探る学びを

伊藤 さとり

映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)

父と家族とわたしのこと

戦争について考える映画は幾度となくインディーズで作られてきたが、本作は戦争によるPTSDの恐怖に目を向けるだけでなく、その子供や孫に焦点を当て、連鎖を断ち切る為の行動を追っていく姿まで映し出されていた。それが斬新であり、一歩踏み込んだドキュメンタリーになっていた。何故なら過去は変えられないが、現在と未来は変えられることを本作は伝えており、戦争がいかに愚かで恐ろしいものであるかを元兵士のインタビューから、PTSDで暴力を振るう父親に苦しめられた次の世代となる子供や、その子供が親となり暴力の連鎖を起こし、犠牲となった次の世代の孫まで映し出されるからだ。そんな人々が自分の苦しみを語っていくうちに、その感情と向き合う為に嫌っていたはずの父を探る旅へと変化していく。 まさに映画でカウンセリングを体験するようなドキュメンタリー。この構成は、イラク戦争を取材した際に、若い兵士が後にPTSDに苦しみ自殺する人が多いことを知った監督の島田陽磨氏の人への想いからなるものだろう。どうすれば今生きている人々が少しでも生きやすくなるのか見届けたかったのかもしれない。不思議なのは、私個人も昭和9年生まれで戦争教育を受けた父親の思想や、帰還兵の叔父の様子を思い出し、今は亡き親族の行動を紐解くきっかけにもなったのだ。昔のこととは言え、まだ戦後80年。親の感情に振り回されるのが子供なのだから、その心的影響は悲しいが受け継がれてしまう。それだけ戦争が変えたものは想像以上に重く大きく、人の心を傷付ける。果たして自分は戦争の影響を受けているか。いつの間にか自分ごととして見入っていた。

26/4/10(金)

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