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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

1975年のケルン・コンサート

1975年に、ドイツのケルンでいくつのコンサートがあったのかは知らないが、最も知られているのはキース・ジャレットのコンサートだ。そのライブ盤「ザ・ケルン・コンサート」は、資料によると、世界で400万枚以上売れているという。めったにジャズのCDを買わない私ですら買っていたくらい売れたのだ。それはジャズであってジャズでない、新しいというか唯一無二の「音楽」だった。 ライブ盤は何度も聴いたが、そのコンサートについては何も知らなかった。 そのケルン・コンサートを描く映画だが、主人公はキース・ジャレットではなく、企画し主催した18歳のヴェラ。彼女は行動力があり、歯科医をしている厳格な父に反抗して、家を出て音楽プロモーターの仕事を始める。 前半は、父と娘、母と娘、兄と妹といった家族の確執というか軋轢があって、高校でも教師との対立があり、友情や恋愛関係のもつれとかが、「青春の1ページ」として描かれる。 後半がケルン・コンサート開催までの物語。ヴェラはキース・ジャレットの音楽を知って、彼のコンサートをやろうと企画し、オペラハウスに交渉して、オペラが終わったあとの深夜に開くことになる。若いからこそできる、無謀な企画だったと知る。 キースはツアーで疲れ果ててケルンに到着。当日になってトラブルが次々と起きる。開演時間がせまるなか、はたして開催できるのか、客は来るのかといった、一種のタイム・リミットものになる。ライブ盤があるのだから開催されたことは分かっているが、けっこうスリリングで、手に汗握る。何より、「こんなことがあったのか」という驚きの連続。 そして、開演となるわけだが、このコンサートシーンの描写には、なるほどこの手があったのかとうならされた。 登場人物のひとりの音楽ジャーナリストが、カメラ目線でジャズの歴史のなかでのキースの位置づけを解説するシーンもあり、キース・ジャレットを知らないひとにも、彼の音楽の革新性が分かる仕掛けもある。 「ザ・ケルン・コンサート」に夢中になったひとはもちろん、キース・ジャレットを知らないひとも楽しめる。

26/4/11(土)

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