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恩田 泰子
映画記者(読売新聞)
the moment/ザ・モーメント
26/6/5(金)
WHITE CINE QUINTO
スターダムを駆けあがった人間の葛藤を描いた映画はたくさんあるが、この『the moment/ザ・モーメント』は一味違う。英国出身のシンガー・ソングライター、チャーリーxcxが発案し、自らを演じるモキュメンタリー。名声を一気に広げたスターが直面する受難を題材にしているという点においては古典的だが、それを本人が自分さえも戯画化しながら演じているのが面白い。 描かれるのは、2024年のアルバム『brat』の世界的成功の数か月後(という設定)。音楽レーベル側はブームに乗ってさらに稼ぎまくるつもりだが、マーケットを広げようとすれば俗化は避けられない。さてどうするか。大規模ライブ映像配信プロジェクトの演出を巡ってチャーリーは岐路に立たされる。 ここまではよくある構図だけれども、主人公の心の動きの描き方は、通り一遍ではない。割り切って前に進むことを、この物語は否定しない。そこが、過去のスターをめぐる神話的な伝記映画と、今を生きるスターの“現実”を描く本作との一番の違いだろう。ただし、この物語、周囲の人間まで全肯定しているわけではない。レーベル責任者(ロザンナ・アークエット)やライブ演出家(アレクサンダー・スカルスガルド大好演)は徹頭徹尾いやな感じ。でも、そんな彼女や彼が安泰なのは……。スターのみならず、オーディエンスも、実はもっと葛藤すべきかもしれない。そんなふうに思わせる映画でもある。
26/5/30(土)