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高崎 俊夫

フリー編集者、映画評論家

ワイルダーならこうする! ビリー・ワイルダー特集

シネマヴェーラ渋谷では初めての大規模なビリー・ワイルダー特集である。近年、「カイエ・デュ・シネマ」流の〈作家主義〉では過小評価されがちであるが、ビリー・ワイルダーが日本人にもっとも愛されている喜劇映画監督であることは間違いない。 『麗しのサブリナ』に代表されるロマンティック・コメディ、『第十七捕虜収容所』のような軍隊喜劇で大衆的な人気を博する一方で、犯罪者の暗黒面にメスを入れた『深夜の告白』のような上質のフィルム・ノワールも見逃せない。さらには酷薄なジャーナリストの地獄めぐりを容赦なく暴いた『地獄の英雄』のようなスキャンダラスな傑作もあって、ワイルダーの魅力はなかなか一筋縄ではとらえがたい。 今回の特集ではシナリオライター時代の珍しい作品を網羅しているのが嬉しい。『ミッドナイト』や『国境の南』の監督ミッチェル・ライゼンが脚本を勝手に改変したことが、ワイルダーが監督を目指すきっかけであったが、やはり自作の脚本によるM・ライゼンの『街は春風』を観て、これなら俺のほうがうまい、とばかりに、映画監督に転身を図ったプレストン・スタージェスこそがワイルダーにとっての最大の先駆者、ライバルであったことは間違いない。 ビリー・ワイルダーのシナリオライター時代の代表作といえば、彼が心底、尊敬していたエルンスト・ルビッチの『ニノチカ』である。パリを舞台にプレイボーイのメルヴィン・ダグラスがソ連のガチガチのコミュニストであるグレタ・ガルボを陥落させるという誠に模範的で典雅な名作といえよう。 「ルビッチならどうする」が座右の銘であったワイルダーは、後年、『ニノチカ』への屈折したオマージュともいうべき、辛辣きわまりない諷刺コメディを撮っている。今回、特集の目玉として特別上映される『ワン・ツー・スリー』である。 東西冷戦下の縮図であったベルリンを舞台に、コカ・コーラ支社長のジェームズ・キャグニーが、社長の娘が東ドイツの青年と結婚したため、急遽、青年をドイツ貴族に仕立てあげる羽目になるが──。 キャグニーの狂騒的なマシンガン・トークが見所だが、ワイルダーは自家薬籠中のファースの精神を発揮し、恐るべき疾走感でドタバタを展開させる。ここではロシア人もドイツ人もアメリカ人も徹底的にカリカチュアライズされ、嘲笑されるのだ。 なかでも、東独警察がコミュニストの青年を拷問する際に、「ビキニ・スタイルのお嬢さん」のレコードをかけるシーンは抱腹絶倒である。

26/7/31(金)

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