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植草 信和
フリー編集者(元キネマ旬報編集長)
負けへんで
26/11/13(金)
TOHOシネマズ日比谷
「有罪率99.9%」という数字は、高い信頼性を誇る日本の司法制度を証明するものとして語られてきた。しかし、その裏では、捜査側が描いたシナリオに合わない事実が顧みられず、冤罪を生み出す危険もはらんでいる。本木克英監督の『負けへんで』は、そんな司法の問題点に真正面から切り込んだ社会派エンタテインメントだ。 原作は、大阪の不動産デベロッパー社長・山岸忍による実録『負けへんで! 東証一部上場企業社長vs地検特捜部』(文春文庫)。2019年、高校移転計画に伴う土地取引をめぐって業務上横領容疑で逮捕・起訴されながら、後に完全無罪となった実際の冤罪事件を基に、一代で築いた企業と名誉を失った経営者が、司法権力に立ち向かいながら真実を取り戻していく過程を描く。 本木克英監督は、冤罪事件の顛末を追うだけでなく、ひとりの経営者が社会的地位と名誉を失っていく過程を丹念に見つめる。その中心に立つ内野聖陽は、怒りや絶望をいたずらに噴出させるのではなく、理不尽な現実に耐えながら信念を貫く男の強靭さを体現した。対する松本若菜も、穏やかな口調の奥に権力の冷酷さをのぞかせる検事役を好演。取調室でのやり取りは息詰まる緊張感に満ち、法廷ドラマとしての見応えを十分に生み出している。 さらに、竜星涼、石丸幹二、藤本隆宏らが扮する弁護士チームが加わることで物語は法廷サスペンスとしての緊張感を増していく。彼らが録音・録画された取調べ映像を分析し、検察側の矛盾を暴いていく過程はスリリングで、『空飛ぶタイヤ』にも通じる逆転劇の醍醐味に満ちている。 本作が優れているのは、単なる告発映画に終わっていない点だ。検察組織の問題を描くだけでなく、強大な権力の前で翻弄される個人の弱さ、そして理不尽に抗い続ける人間の尊厳にまで視線を広げている。恋人や友人、弁護士たちの支えを受けながら再起を図る藤堂の姿は、人間ドラマとしても胸を打つ。 冤罪は決して遠い世界の出来事ではない。「まさか自分が」と誰もが思う社会だからこそ、本作が投げかける問いは重い。その一方で、最後まで観客を引き込む娯楽作品として成立させた本木監督の手腕も見事である。社会への問題提起と痛快な逆転劇を兼ね備えた、骨太の法廷ドラマだ。
26/10/15(木)