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監督、役者に着目して選んだこの映画

樋口 尚文

映画監督、映画評論家

リチャード・ジュエル

イーストウッド自身が主演した前作『運び屋』のような痛快で面白い娯楽作ではないが、『ハドソン川の奇跡』や『15時17分、パリ行き』などの系譜に連なる現実の事件に基づく社会派作品としてさまざまなことを考えさせられる。アトランタ五輪の折に爆発物を発見して多くの人命を救ったのに犯人扱いされた主人公を描いているが、人がよすぎるこの太った青年のいかにもいじめを呼びそうな雰囲気や挙動にいらいらハラハラさせられることで、権力とメディアの「思いこみ」がちょっと理解できてしまうところがミソである。つまり、この冤罪を生む胚胎は自分のなかにもあるのではないか、と観客に自分事として観させるところが本作最大の狙いであろう。

20/1/14(火)

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