BOYSぴあSelection 第33回 岡田健史
岡田健史「3月26日。あの日の想い出は、ずっと忘れない」
全1回
特集

取材部屋の前の廊下で待機していると、ふっと扉を開けて彼が出てきた。前の媒体の撮影でこのドアスペースを使うことになったらしい。写り込まないように慌てて私たちが場所を空けると、まったく彼が悪いわけじゃないのに「すみません」と何度も頭を下げてくれた。
イメージ通りの礼儀正しくて、誠実な、好青年です。
ドラマ『中学聖日記』(TBS系)の衝撃から1年あまり。ついに岡田健史さんがスクリーンに進出します。記念すべき映画デビュー作は、3月20日(金・祝)公開の『弥生、三月 -君を愛した30年-』(以下、『弥生、三月』)。本作で、岡田さんは、成田凌さん演じる太郎の息子・あゆむ役を演じます。
本作を皮切りに、2020年はドラマ・映画と出演作が目白押し。俳優・岡田健史の快進撃が、いよいよ始まります。
遊川さんの言葉が、突破口になった
── 映画初出演おめでとうございます!
ありがとうございます!
── 初めての映画でしたが、映画の現場ならではの違いってありましたか?
映画だから、ドラマだからっていう括りではなくて、「組」によって違うなと。この『弥生、三月』はデビュー作(『中学聖日記』)の次に撮ったんですけど、監督、スタッフ、キャストのみなさんによって本当に現場の色が違うんだなと感じました。
── では、監督である遊川和彦さん率いる遊川組で印象に残ったことは何ですか?
遊川さんの熱ですね。あゆむに対して、「さっきとは違うことを」とか、「今のは捨てよう」とか、「こういうのはどう?」と、いろんなアイデアを提示しながら、何度もテイクを重ねてくださった。僕はそれがすごくうれしくて。
拙くて、まだまだな僕に、こんなに素敵な矢印を向けてくださる遊川さんはすごいなと思いましたし、作品に対する想いが人並みではない方だなって感動しました。
── そのテイクを重ねたのは、具体的にどのシーンでしょう?
教室のシーンです。あれが僕の(クランク)インの日で。まあ、難しくて(笑)。ついこの間まで、僕はあゆむを見上げる側にいたのので、できなくて当たり前だなと思いつつ、でもそのときの自分にできることをやるんだって思いながら、一生懸命あそこに立っていました。
── 映画を拝見しましたが、遊川さんのメッセージがつまったシーンだと思いました。あの台詞を、岡田さん自身はどんなふうに受け止めていましたか?
被害に遭われた方の叫びだと思って僕はやりました。でもやっぱり僕の未熟さゆえに、いろんなブレーキがかかって、伝えられていない部分がたくさんあると思うんですけど。でも、その想いを少しでも背負おうとしたあのときの僕の体験と時間はすごく貴重で、他には代えられないものになったんじゃないかと思います。
── それだけ何度もテイクを重ねて心は折れませんでしたか?
もちろん苦しかったです。難しいし、どうしたらいいんだろうって悩みました。
── 突破口になったのは何ですか?
やっぱり遊川さんです。遊川さんの「やってみろ」「こうしてみろ」っていう言葉が突破口になったというか。遊川さんは、いつも「いいんだよ」って僕の挑戦や失敗を許してくれた。だからこそ、僕も開き直れてやれた部分がありました。
変えたくないのは、感謝の気持ちを持つこと
── 劇中に登場する、サクラ(杉咲花)の「ずっと変わらないでね」という言葉がとても印象的でした。岡田さん自身を見ていても、2018年に芸能界入りして以来、ものすごい変化の中にいたと思います。ご自身はその中で何か変わったと思いますか? それとも変わっていない?
大切にしていることだったり、これは変えたくないっていうものは変えたくないです。でもそんな頭でっかちに生きるのって相当ツラい。だから、変えていくべきもの、変えたくないもの、変えるべきでないものはちゃんと分別して選択していくことが大事なんじゃないかと思っています。
僕、こうやっていろいろ変な言葉を並べることが多くて、それで頭でっかちのように思われがちなんですけど、実際の僕はふざけるのが好きで。世の中の方々が思っている「岡田健史」とは違うと思っているんですね。
── 別のインタビューで「実はそんな優等生でもない」とおっしゃっているのを読みました。
そうですね。でも、そのイメージとの違いを作品の中で見せられたら、きっと観てくださる方々からすると面白いんじゃないかなと思って。エンタメをやっている人間として、そのギャップで楽しませられるように意識しています。
── 変えていくべきもの、変えたくないもの、変えるべきでないもの、とおっしゃっていましたが、その中でも「変えたくないもの」って何ですか?
やっぱり感謝の気持ちを持つことですね。口で言うのは簡単ですけど、それをちゃんと継続していける人だけがこの世界で生き残っていくんだろうなと。別に、生き残ることがえらいとか悪いではないんですけど。今まで出会った方々やこれから出会っていく方々と楽しく仕事をするためには、常に感謝の気持ちが必要だと思うので、そこは変えたくないなと。
むしろ、もっと感謝の気持ちを濃くしていきたいし、倍増していきたい。そういう意味では、ある種、これからもずっと変わり続けていけたらいいなと思うところかもしれません。
想い出の公園で、親父と交わしたキャッチボール
── 作品にちなんで、岡田さんの3月の想い出を聞かせてください。
入寮ですね。高校が寮だったんですよ。それで家族とか友達と離れなくちゃいけなくて。まだ中学卒業して間もなかったので、やっぱり親元を離れるのがいちばん大きかったなって。
寮に入ったらもう帰れないぞとか。ここから先、自分はどうなっていくんだろう、ちゃんとうまくやっていけるかなとか。いろんな想いが胸にあって。今でも日付までちゃんと覚えています。3月26日。たぶんずっと忘れられない想い出です。
── きっとお母さまも寂しかったでしょうね。
寮の手前まで来てくれたんですけど、ドライだったなあ、当時の自分は。「バイバイ」って、それだけ(笑)。自分は野球で勝負するんだという決意というか、覚悟を持って寮の敷居をまたいだのを覚えています。
3月は出会いと別れの季節。『弥生、三月』の中でもいろんな出会いと別れがあって、僕にも同じようにいろんな出会いと別れがあったんだなって、今こうやって喋りながら思い出しました。
── 映画の中で父親の太郎とサッカーボールを蹴り合うシーンがありました。野球少年だった岡田さんならきっとあんなふうにお父さまとキャッチボールをした想い出もあるんじゃないかなと思ったんですけど、いかがですか?
それはもうめちゃくちゃあります。しごかれてました、「違う、そうじゃない」「もっと腰を落とせ」とか(笑)。親父もすごく野球がうまかったので、ずっとアドバイスをもらっていましたし、自分も「どうしたらいい?」って相談しながらやっていました。
だからあのシーンは、僕と僕の父親と、あゆむと太郎の関係が自分の中で対比になっているというか。同じ父子でもそれぞれ違うんですけど、その違いをわかっている自分がやることに意味があるんじゃないかなと感じていましたね。
── いくつぐらいまでお父さまとキャッチボールをされていたんですか?
それこそ去年、20歳の誕生日の前日に地元の福岡で始球式をやったんですけど。そのときも最後に練習しておくかって親父にボールを受けてもらいました。
僕のボールを受けるたびに親父が「手が痛いな」とか「投げ方変わってないな」とか言ってくれて。僕は「そう?」って返したり。そのやりとりが何だか懐かしかったりして。キャッチボールをした場所も、僕の祖母の家の近くの公園で。幼少期からずっと過ごしてきた想い出の場所で親父とキャッチボールできたことがエモかったですね(照)。
30年後どうなっているかわからないから人生は面白い
── 映画の中の弥生と太郎って運命の相手だと思うんですね。岡田さんは運命を信じますか?
信じます。こういうことを話すと自分でも「何言っちゃってるの?」って思うんですけど(照)、この場でこうやってインタビューをしていただけるのも、もちろんお仕事ではありますけど、お互いがこのお仕事をしていないと出会うことすらなかったわけですし。毎日がそれの繰り返しだなと思うんです。
幼少期から今日に至るまで僕はいろんな選択をしてきて、その選択の中でたくさんの人と出会ってきた。僕にとって出会いは大きな宝。どの人とも出会ってよかったと思っているし、僕は人生に後悔がまったくないんです。
── それは素敵ですね。
どの選択もあのときこっちを選んでよかったと思えるポジティブシンキング野郎なので(笑)。すべてが運命だったと思っているし、きっと運命はあるって信じています。
── では最後に、映画のようにこれから30年経っても変わらずにずっと付き合い続けているだろうなと思える人は、今、岡田さんにいますか?
僕は、変わらずに付き合い続けることはできないと思っていて。いい意味でも悪い意味でもお互い考え方はどんどん変わり続ける。1秒たりともずっと同じでいられる人なんていないですよね。ついさっきまで仲良かった人がいきなり喧嘩に発展したりすることは全然珍しくもないですし。それぐらい人の関係って変わりやすいもの。
でも、僕はそれをマイナスだとは思っていなくて。逆に変わらない方が怖いなって思うんです。変わっていくのは当然のこと。その中でいつまでも仲良くできたり愛し合うことができたら、すごく素敵だなと思います。
── 確かにそうですね。弥生と太郎のように、30年の時間の中でそばにいることもあれば離れていることもある。
はい。それがわからないからこそ、人生って面白いなと思います。
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