【re:START】キーパーソンInterview
野村達矢(一般社団法人 日本音楽制作者連盟理事長/株式会社ヒップランドミュージックコーポレーション代表取締役社長)【前編】
特別連載
1-1

エンタメが止まった2.26事件
(※この取材は5/12にオンラインインタビューで行われました)
第1回は、一般社団法人 日本音楽制作者連盟理事長であり、株式会社ヒップランドミュージックコーポレーション代表取締役社長の野村達矢氏に、音楽業界が置かれている未曾有の状況、折々の思い・考え、再生へのメッセージなどを3回にわたってお聞きします。
── 2/26の政府によるイベント自粛要請が大きな分岐点となったわけですが、その10日ほど前に「大阪のライブハウスでクラスターが発生」という事例が大きく取り上げられました。まずそこでのエンタメ業界の受け止め方はどのようなものだったのでしょうか??
野村 まさに今おっしゃった「ライブハウスでクラスターが発生」という言葉自体に複雑なものを感じました。と言うのも、まず、あの時点で問題になったライブハウスというのは、普段我々がお付き合いしているライブハウスとは多少異なりはしますが「ライブハウス」という言葉で一括りにされてしまうことで、ライブハウスに限らずコンサートをやる現場にどうしても疑いの視線というか、良くも悪くも注目が集まるだろうなと、そうしたムードに身構える感じにはなりましたね。
── とは言え、その時点で具体的にどうすればいいかというのも難しい判断ですよね。
野村 そうですね。やらないということ以外に、人の集まるライブの現場において、何が有効な感染防止対策になるのかというのは、正直今でもわからないわけですからね。
── そして2/26を迎えるわけですが、そこからライブエンタテインメントは止まったままですね。
野村 まぁ、「2・26事件」なんて呼んでいますけど。我々にとっては本当に大きな日となりましたね。当初は、大規模イベントを自粛してほしい、という要請だったんですけど、我々は敏感に反応して、大規模どころか中規模、小規模も含めて、すぐに全体の9割以上にも及ぶ公演を中止、または延期としました(現在はすべての公演を延期、中止)。政府の要請に従えば、中規模や小規模なら行ってもいいのだということにはなっていたんですよ、その時点では。でもムードとしてその時、僕が一番感じたのは、規模の大小ではなくライブ自体が今どうなんだ?という懐疑的な視線が向けられ始めたなということでした。やはり最初にクラスターが問題視されたのが「ライブハウス」だった、というのももしかしたら心理的には作用していたのかもしれません。そうなると、いくら政府の要請に従って中規模以下だから開催していますよと言っても、必ず批判や非難が寄せられる。そしてそれが向けられるのは、間違いなくアーティストになる。そんな不安な状態や気持ちのままアーティストやミュージシャンをステージには立たせられない、と思ったんです。そこが規模にかかわらず最初の時点で中止または延期にした判断としては大きかったですね。さらにそのことをもっとも強く意識させられたのが、イベント自粛要請のあった週末に開催された東京事変の東京国際フォーラムでのライブ(2/29)でした。久しぶりの復活、そしてツアーということで話題性も十分でしたし、ライブをやるのかやらないのかというのが大きな関心事として注目され、そして結果やったことで、ネガティブな反応が多く寄せられることになった。でもツアーやライブというのは、アーティストだけではなく、主催者や制作会社、マネージメントなど実に多くの人間が関わってできているものなんです。当たり前のことなんですけどね。それでもやっぱり、批判や非難の対象となるのはアーティストだったり、ステージに立っている人たちに向けられるんだということをはっきりと認識させられたんですよね。
── なるほど。さらに大きな課題として、延期対応にしたものについては、当然ながら別日程での振替えが必要になってくるわけですが、それがいつから可能なのか、また振替えられる会場はあるのかという現実的な問題にも直面しますよね。
野村 例えば2000~3000人規模のホールで、地方の場合だと、まだ対応できている実感はあるんですが、やっぱり東京や大阪といった都市部におけるアリーナクラスの会場になると、年内の延期対応はほぼ困難な状況ですね。僕の携わっているアーティストで言うと、それこそサカナクションはオープン予定だったぴあアリーナMMで5月にやらせていただく予定だったんですけど、残念ながらそれもできないことになり、振替えもまだ目処が立っていないという状態ですね。中止にするのと延期にするのとでは、経済的な部分で大きな違いがありますからね。できれば延期で行えればいいのですが、実際に会場が取れないとなると中止にせざるを得ないという判断も現実的になってきて、非常に厳しいところですね。
── 野外ライブの場合は、早めに中止の決断をすることがリスクヘッジにもなるということもありますよね。
野村 そうですね。やはりステージや照明を一から組み上げるのに、その部材や人員を確保したりということを考えると、ギリギリまで引っ張って判断するというのは得策ではありませんからね。さらにクリエイティブ面においてもプランニングやリハーサルといった準備面はかなり早い段階から進行していきますからね。それはアリーナやスタジアムクラスでのツアーでも同じで、どこでどのような決断をするのか、主催者にとっては非常に難しい判断が迫られることになりますね。
── これから夏フェスのタイミングに突入していきますが、まさにその判断の渦中といったところでしょうか。
野村 夏フェスの場合、考えなければいけないのは、やはり大人数かつ県をまたいでの移動を伴うということですね。それともうひとつ、現時点でそれぞれのアーティストのライブやツアーが中止や延期となっている状況で、フェスは出るのか、といったファンとの信頼関係の部分を気にする、というのは大いにあるかと思います。あと象徴的な出来事としては、この夏に開催されるはずだったオリンピックが延期となったということも大きいでしょうね。
── 現実的な判断の材料に、例えば、オリンピックも延期なのに……というムードも加味しなければいけないというのが、この状況の特殊性を物語っていますね。引き続き、次回はエンタテインメント業界の起こしたアクションと変化の兆しについてお聞かせください。
TEXT:谷岡正浩
コラム【A】
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