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【re:START】キーパーソンInterview

チームラボ 猪子寿之(代表取締役)【後編】

特別連載

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新型コロナウイルスの感染拡大による休館から、ようやく再開されはじめた美術館。各館は日本博物館協会の感染防止ガイドラインに沿い、それぞれできる限りの対策を行い、運用を行っている。アートコレクティブとして活動するチームラボは、自らの作品を発表するアーティストとしての活動とともに、ミュージアム運営を行い、企業活動も活発に行なっている。

チームラボ代表・猪子寿之氏へのインタビューの後編は、施設運営やwithコロナ時代の会社のあり方などを伺う。

コロナ禍でのミュージアム運営

── チームラボは、6月に福岡市にオープンした「チームラボフォレスト - SBI証券」やお台場の「チームラボボーダレス」、豊洲に「チームラボプラネッツ」など国内外に複数のミュージアムを運営されています。このコロナ渦で状況はいかがでしょうか?

猪子寿之(以下、猪子) 相当厳しいですね。これは新型コロナ感染予防対策のガイドラインに沿った運営をしているためではなく、もともとは外国人来場者が非常に多かったためです。お台場の「チームラボボーダレス」は、開館から1年の、年間来場者数が約230万人なのですが、そのうちの約50%は外国からのお客様です。アンケートを取ったところ、外国人のうち約半分がチームラボの作品を見るために日本に来たという回答をいただいています。平日は約7割のお客様が外国人でしたしね。

現在、日本の入国規制は若干緩和される傾向にあるようですが、観光目的での入国が許されるのは先の話。現状は外国人観光客を全く見込めないので非常に厳しいです。

── 海外での展示状況はいかがですか?

猪子 国によって異なりますが、東アジア諸国の多くは、日常生活を送るのに問題がない状態になってきていますね。上海の常設展示「teamLab Borderless Shanghai」は3月に再開しましたし、マカオの常設ミュージアム「teamLab SuperNature Macao」はなんとか6月にオープンできました。9月からは韓国の東大門デザインプラザ(DDP)で個展「teamLab: LIFE」を開催する予定です。台湾も順調に回復しつつあると聞いています。その一方で東アジア諸国と比べると、日本は非常に中途半端な状態で、状況判断が難しいです。

ソウルの東大門デザインプラザ(DDP)にて2020年9月18日から2021年3月28日まで行われる個展「teamLab: LIFE」展示作品 ©️チームラボ

── withコロナで施設運営のオペレーションなどの変更はありましたか?

猪子 チームラボのミュージアムは、入場に関しては日時指定制にしております。「チームラボボーダレス」オープン時に、世界中から来るお客様のために入場チケットの予約システム「チームラボチケットシステム」を自社で構築したのですが、現在はこのシステムについて外部から多く問い合わせをいただいている状態です。新型コロナウイルス感染予防のためのガイドラインに沿って運営しようとすると、やはり入場の仕組みが問題になるようですね。チームラボの施設に関しては入場者数をしっかりコントロールしているので、館内ではこれまでよりも快適に鑑賞ができる環境になっています。まだ来ていない方はぜひ見に来てもらいたいと思っています。

── 混雑のない状況は鑑賞者には非常にありがたいですが、運営する側としては由々しき問題ですね。

猪子 正直、非常にキツイです。コロナ前よりも、時間ごとに入場できる人数を絞っていますが、それでも定員に達することはありません。チームラボのミュージアムのみならず、日本各地の美術館はいま非常に閑散としていると聞いています。通勤時の電車の何十分の1の密度でしか人がいないのに、電車にはガイドラインがなくて、美術館には厳密な取り決めがあるのが不思議だと思っています。ガイドライン制定時の3月、4月は新型コロナウイルスに対して未知のことが多かったですから、厳密すぎる部分があっても仕方ないとは思うのですが……。状況改善を願うばかりです。

── とはいうものの、新しい展示も続々とオープンしていますね。

猪子 この夏は野外の展示が多いですね。3密のうち「密閉」がない状態なので、自由度は若干高いです。7月から九州 武雄温泉の旅館・御船山楽園の50万㎡という広大な庭園を使った「チームラボ かみさまがすまう森」、8月からは所沢市の武蔵野樹林パークで「チームラボ どんぐりの森の呼応する生命」の展示がそれぞれ始まりました。チームラボは“Digitized Nature”という「自然が自然のままアートになる」というコンセプトのプロジェクトを行っているのですが、どちらもその一環です。

御船山は毎年夏に行う展示で、今年で6年目になります。少しずつ新作を増やしてきて今年は22点を展示しています。「チームラボ どんぐりの森の呼応する生命」は、先日プレオープンした「ところざわサクラタウン」に隣接する森にある展示です。敷地内にあるたまご型のovoidを来場者が押し倒すことで、周囲のovoidの色や音が呼応して変化していくというもの。感染症対策として、来場者にはビニール手袋を装着してもらっています。

御船山楽園(九州・武雄温泉)の約50万㎡の大庭園を舞台に展開する「チームラボ かみさまがすまう森」は今年で6回目の開催 ©️チームラボ
「ところざわサクラタウン」に隣接する森で展示されている「チームラボ どんぐりの森の呼応する生命」 ©️チームラボ

チームラボの働き方

── チームラボのスタッフの働き方に変化はありましたか?

猪子 緊急事態宣言時はそれぞれ在宅勤務にシフトしましたが、コロナだからといって大きくは変わらなかったですね。これまでも世界各地をスタッフが飛び回ってて、それゆえにオンライン会議は普通に行っていたんです。なので、僕たちにはそこまでストレスはなかった。

もともと普通にオンライン会議を行っていたから言えるんですが、「これからはオフィスが必要なくなる」とかいっている昨今のオフィス不要論はちょっとおかしいなと思ってしまいます。オンラインデビューしたばかりで、ついつい大きな気持ちになってしまっている人が多いのかも……と感じます(笑)。やっぱりその場に一緒にいることで得られる情報量って非常に大きいですよ。

── 確かにオンライン会議は、効率はよいのですが、なにかがものたりない。

猪子 人間は、自分が思っているよりも身体で感じることが多いんですよ。たとえば、テレビで旅行番組を見て「あの場所に行ってみよう」って思う人は多いけど、価値観が変わったって人ってほとんどいない。けれど、パリやらインドに行って帰ってきて「価値観が変わりました!」って人は「またかよ」って思うくらいたくさんいる。実際に現地に行って、身体を使って体験をしたときに、ようやく自分の根幹まで届くんですよ。もちろん、テレビ番組や雑誌やwebサイトのコンテンツは、行動を起こす「きっかけ」としてはとても重要。会議も同じことがあって、身体で感じる部分がカットされてしまう。オンラインで話すだけでは伝わりきらないところがあります。

── きちんと会うことも大切ということですね。

猪子 オンライン会議を行うといっても、4人は東京で一人だけ外国という状況と、5人が全員家からという状況では、やっぱり会議のクオリティが全然違ってきますね。オンライン会議を始めたばかりの方は新鮮だからまだ気づいていないのかもしれないですが…。ということで、チームラボはコロナ禍でも問題なくフレキシブルに動けていたのですが、お客様の動きが止まってしまうと、こちらとしては動きようがない。プロジェクトが止まってしまうので、こちらではどうすることもできない問題です。

── withコロナの時代となっても、チームラボのクリエイティブや働き方に、インスパイアされることはあっても大きな変化はないのですね。

猪子 状況は日々変わっていきますが、チームラボが進む方向は変わりません。人類は歴史的に多くの問題に直面してきましたが、人びとが協力して技術を開発して乗り切ってきました。まだ未知なことが多く、先行きはわかりませんが、分断を乗り越えようとする意志を持って進んで行きたいと思っています。

取材・文:浦島茂世 撮影(猪子寿之):星野洋介

プロフィール

チームラボ

アートコレクティブ。ニューヨーク、 ロンドン、 パリ、 シンガポール、 シリコンバレー、 北京、 台北、 メルボルンなど世界各地で常設展およびアート展を開催。 東京·お台場に《地図のないミュージアム》「チームラボボーダレス」を開館。 2022年末まで東京·豊洲に《水に入るミュージアム》「チームラボ プラネッツ」開催中。 2019年上海·黄浦濱江に新ミュージアム「teamLab Borderless Shanghai」を開館。 2020年6月にマカオに常設展「teamLab SuperNature Macao」オープン。 11月8日まで九州·武雄温泉·御船山楽園にて「チームラボ かみさまがすまう森」開催中。