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butaji/PIA SONAR MUSIC FRIDAYインタビュー

いいコラボレーションにより生まれたニュー・アルバム『RIGHT TIME』にbutajiが込めた“今”の想いとは

特集連載

第15回

どうにかしたいけど、どうにもならない。そういうものが根底にある気がします

── butajiさんの音楽的なルーツからお伺いしていきたいのですが、小さな頃から音楽に親しんでいて、自分で曲作りもしていたそうですね。

butaji 物心ついたときから曲を作っていた記憶があるんですが、最初に作ったのは純粋に“お菓子おいしい”とか(笑)。そういう子供らしいかわいらしい曲だったなというのは覚えていますね。

── 家ではどんな音楽が流れていたんですか。

butaji 幼少期は、2軒隣にチェロ奏者の方が住んでいて、いつもドアを開けっ放しでレッスンをしていたんです。なので、ずっとそのレッスンの音を聴いていましたね。僕ものちにバイオリンを習いはじめて、クラシックを習っていた時期がありました。

── クラシックから今のシンガー・ソングライターの礎となるような音楽、入り口になったアーティストはいましたか。

butaji 子供の頃、影響を受けたのは、みんなのうたとか童謡とかですね。最初にいい曲だなと認識していたものになると思います。最初に買ったCDで記憶しているのは小学生の頃だったと思うんですが、辛島美登里さんの「愛すること」(1995年)という短冊形のCDでした。当時、たしかドラマの主題歌だったと思うんですけど、それを聴いて歌が本当に伸びやかで素晴らしくて、衝撃的だったんです。

── 「愛すること」は小学生には随分と大人っぽい音楽ですよね。

butaji そうですよね。ちゃんと歌詞がわかるようになって聴くと、子供向けじゃないなと思いますけど。辛島さんの歌が本当に魅力的だったんです。

── 中高生の頃は音楽的な趣味に変化はあるんですか。

butaji 中学生とかになると流行っているものも耳には入ってきて、バンドでいうとオアシスとかウィーザー、レディオヘッドとか、そういうみんなが聴いているようなものを聴いていた感じでした。

── その頃も曲作りを?

butaji 曲は小さい頃からずっと作り続けていて。それは稚拙なもので、自分のために作っていたものだったんですけど。でも楽しさというか、作ることに安らぎを見出していたと思いますね。自分のために作っていたというところは大きかったですね。

── まだ聴いてもらおうという発想は芽生えていないんですか。

butaji 聴いてもらうという発想は、20歳くらいからでしたね。アルバムを全部自分ひとりで作ってCD-Rに焼いて、パッケージも作ってという作品を、友人数名には聴かせましたかね。でも当時MySpaceで音楽を上げていて、同時にいろんな世界の方に聴いてもらえている環境にはあったんです。聴いてくれ、みたいな形でメッセージを送ったりもしていて。エフター・クラングとか、ロビン・ハンニバルさんというライの初期のプロデューサーの方が当時組んでいたオウス・アンド・ハンニバルにメッセージを送って、返信をもらったりもしていましたね。

── 10代の頃には海外のバンドを聴いていたり、SNSでやりとりをしていた方も海外のバンドやアーティストが多いですが、butajiさん自身の音楽は日本語で歌うものですよね。

butaji そうですね。英語がネイティブじゃないというところが大きいです。あと日本語の奥ゆかしさというものに、とても興味を持っていて。助詞ひとつで文の構造が変化してしまうところとか、微妙な繊細なニュアンスを醸し出しやすいのは日本語、自分の母語であるというところが大きかったんじゃないかな。

── 最初から、言葉、歌詞は大事にされていたんですか。

butaji 最初はそこまでじゃなかったです。実際、20歳くらいのときはインストの曲も結構作っていたし、歌詞を大事にしないんだったら書かなくてもいいと思っていたので。でも僕は歌うことが好きだったから、歌詞がほしい。となると意味のある歌詞ってなんだろうと突き詰めはじめたところだったのかな。歌うなら、ちゃんとしたものを作りたいという気持ちですね。

── 自分が歌詞を書いていく上で、今思うともしかしたらこういう影響が出ているんだなって思うものはありますか。

butaji それも幼少期の頃に聴いていた童謡とかでしょうね。ポップスってどうしても主語が大きくなってしまうと思っていて。主語が大きくなりすぎると、誰にも響かないというか、僕が歌う意味がないなと思うんです。そこは気をつけているところではあるかな。あとは、その歌詞を書く動機というか、心情の機微みたいなものを最初に感じ取ったのは、「泣いた赤鬼」という絵本でした。これが衝撃的で。僕の書いている曲の大元をたどっていくとその衝撃につながっていくんじゃないかなと思いますね。どうにかしたいけど、どうにもならない。そういうものがどうしても根底にある気がします。

前作『告白』があったからこそ、今を見つめる、今をどう生きるかというコンセプトが生まれてきた

── ニュー・アルバム『RIGHT TIME』でも、その心の機微や情緒がとても丁寧に綴られていて、リスナーがいられるような行間、余白というものが曲の中で大事にされている作品だと感じています。今回のアルバム作りはどのようにスタートを切ったのでしょう。

butaji 最初にできた曲は「中央線」(2019年シングル)という曲で、その曲は2018年に出した『告白』というアルバムのリリースのタイミングで既にあった曲なんです。「中央線」ができたとき、この曲を大切にしたいなという気持ちが強かったので、それなら他にどんな曲が必要で、どんな並びだったらこの曲を際立たせることができるかなというのを考えて、手探りで作りはじめていったところがありますね。

── 「中央線」は、アルバム『告白』に宛てたひとつの答えだというのを、インタビューでもおっしゃっていましたね。

butaji そうですね、『告白』を出したタイミングの心の支えだったんですよね、その曲が。

── 「中央線」が今回のアルバムへの道筋になり、そして今作『RIGHT TIME』は“今”というものにフォーカスした内容になっていきます、これはどういった流れがあったのでしょうか。

butaji 「RIGHT TIME」というタイトルの曲がありますが、2018年の頃には「中央線」も「RIGHT TIME」という曲もあったんです。すぐさまアルバムを作ろうと思っていたのですが、コロナ禍に入ってしまって。当時できていたアルバムのデモの曲がフィットしないというか、もっと伝えたい曲やもっと適した曲ができてきたんです。アルバム全体では、今のこの現状を感じられる内容にはなっていると思うんですけど、“今”ということがテーマになっていることは、前作の反動でもあるでしょうね。

前作『告白』は内省的な内容で、自分の内面を見つめる、自分がどう育ってきてどんな考え方をしていて、その考え方はどういった道筋をたどってここに行き着いているのかを解きほぐしていく作業があって。そこと相対することが、前作のコンセプトとしてあったんです。それを踏まえて、どうやって自分が生きていくかを考えると、「RIGHT TIME」のような、今を見つめる、今をどう生きるかというコンセプトが生まれてきたのかなと思います。

── 今作の制作の中では、ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」の主題歌「Presence」を共作したSTUTSさんとの出会いもありましたね。STUTSさんとは今回のアルバムでも2曲一緒に作っていて、いいタッグだったのだなというのが改めてわかります。

butaji そうですね。STUTSさんとはご挨拶はしたことはあったんですが、ちゃんとお話をするのは、今年に入ってからです(笑)。

── そうだったんですね。

butaji STUTSさんはいろんな作品をやられているから皆さんご存知だと思うんですけど、端的に言ってしまうと本当に優秀なトラックメイカーなんですよね。彼はコード理論からトラックを作れるので、そこで共通言語があったというか。僕はとてもやりやすかった。トラックが喚起するイメージがとても鮮明で、言いたいことがわかるというか。主張ややりたいことがいちばん前に出てきているんですよね。そこを僕は読み解けたので、すごくやりやすかったんです。だから、自分の作品にもSTUTSさんをお招きしたいなと思いまして。

── 今回のアルバムでの2曲「YOU NEVER KNOW(feat.STUTS)」「I‘m here(feat. STUTS)」は、どんなふうに作り上げたんですか。

butaji 「I’m here」の方はちょっと昔の曲で、もともと僕が組んでいたトラックがあったんです。ビートや歌詞もすでに決まっていたので、そのデータをバラバラにしてお渡しして。それをSTUTSさんが解釈して、新たに組み直したり、いいミックスにしてくれたりという作業をしてくれた曲ですね。

── 歌に具体的な地名が出てくることもありますが、とても映像的で、景色が浮かび上がるような曲ですね。

butaji STUTSさんにお聞きしたら、歌詞から喚起されてくる音のイメージもあったそうなので。僕からのアプローチとSTUTSさんのアプローチがうまく溶け込んでいるんじゃないかなって思います。

── 「YOU NEVER KNOW」はまた違う方法ですか。

butaji こちらは僕がコード進行と、鼻歌くらいのメロディを入れたボイスメモをSTUTSさんに送ってというまっさらな段階から、共同で作りはじめたんです。こんなビートはどうですかねってやりとりをしながら組み立てていく作業の段階で、どんどん歌詞のイメージが喚起されて。最終的な段階でやっと歌詞をかけたという感じですね。

── 互いにインスパイアし合うという、まさに共同作業ですね。

butaji いい時間でした。

── J-WAVE SONAR TRAXに選曲された「free me」はtofubeatsさんがリアレンジをしたという曲です。

butaji 歌詞に関していえば、社会的に規定されている自分と、自分が考える自分の乖離、その乖離のために悩まされてしまうというか。外側の目とは関係なく、自分は自分であるということを自分がちゃんとつかんでおく、そのためのテーマ曲というか。そういう思いで書いた曲だったんです。もともとマスタリングまで済ませた僕のバージョンがあったんですけど、もっとクラブオリエンテッドなものにしたいとか、現場で響いてほしい気持ちがあったので。そのトラックをtofubeatsさんに送って、新たにコーラスを足したり、ブレイクを足したりと、組み直していただいた形ですね。

── tofubeatsさんとはお付き合いは長いんですか。

butaji いえ、これもまた今回が初めてなんです。初めてづくしでした(笑)。

── そうだったんですか。面白いのは、歌に対してシンセやビートもすごく攻めたものになっていて。互いの思い切りの良さというか、遠慮がないなっていうのがすごく良かったです。

butaji その遠慮しないというのは歌詞にもあるかもしれないですね、怪我しても構わないなんて歌詞もありますから(笑)。実際、とくにコンセプト的なところの話はしていないんですが、上がってきた音に対してリアクションをしてという感じで、音でやり取りしていたところがありました。チアフルなものというか、奮い立たせるようなものにしたかったので。ビートの方はどんどんきてもらいました(笑)。

── いいコラボレーションが続いていますね。今回の作品でいろんな方とやってみようというのは、何がきっかけだったんでしょう。

butaji 前作『告白』はひとりで全部やりきってしまったので、次の挑戦としてあった課題だったのかもしれないですね。ほかの人とやりとりをする、他人と仕事をするっていうのは自分が考えているものより、いいものができる可能性がもちろんあるんですよね。ひとりで作品を作っていると、自分の考える幅でしか作品は完成しない。だから、ほかの人の手助けがいつも必要なんです。

── そこで新しい扉がまた開いていった、そういうアルバムですね。

butaji そう思います。

── 1曲、1曲がとても濃く、また同時に1曲目「calling」で呼び覚ました感情や様々な感覚を、最後の曲「春雷」で浄化していくようなアルバムだなと感じました。「春雷」は、とても美しい曲ですね。

butaji 「春雷」も同じく石橋英子さんとの演奏、プロデュースで録音した作品で。僕自身も「春雷」みたいな曲ができたことが本当にうれしかったんです。とてもシンプルじゃないですか。空気感も60年代というか。影響を受けてきたもの──キンクスやジョニ・ミッチェルであったり、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルであったりとか、そういったものに対する僕なりのリアクションがようやくできた曲でもあって。できたときはうれしかったですね。

── では「calling」の方はどうですか。

butaji きっかけは散歩の途中でてきたメロディだったんです。コロナがはじまって、昨年6月頃にできた曲で。その空気感は如実に出ている曲になりましたね。歌詞も何回も書き直していて。今回は、全体的に10回くらい書き直しているんですけど。それくらいどうしてもフィットさせたかったんですよね、曲にも、今の心情的にも。「calling」があるから、なおさら今の現状の、私たちがいる日常を踏まえた上での“今”、“RIGHT TIME”というコンセプトがくっきりしたんじゃないかなと思っています。

── 時代の空気というのも、練りこまれていますし。何よりコロナ禍で日常がどこか麻痺してしまったような感覚もあって、「calling」という曲は何か、自分の人間的な部分、内側の部分を呼び起こしてくれる作用をしてくれる曲だなと、個人的に感じています。

butaji どういうふうでもいいので曲が日常に作用してくれたら、機能してくれたらいいなと思うんです。支えになってくれたら、ありがたいなと思っていますね。傲慢なことかもしれないけれど、そのためにずっと努力をしてきたんですよね、僕は。そういう作品を作りたいと思ってずっと作ってきたから。何かの支えになってくれたら本当にうれしいなと思います。

── ご自身も音楽というものにそうした支えになってもらったからこそ。

butaji 恩返しがしたいというだけですけどね。ずっと音楽に支えてきてもらったので。そういったものを次の世代というか、将来に引き継いでいきたいという気持ちはあります。

── 11月22日には、渋谷WWWでのワンマンライブ「RIGHT TIME / RIGHT PLACE」が予定されています。すでにゲストにSTUTSさんの出演もアナウンスされていますが、ライブに向けてひと言お願いします。

butaji まだ内容を練っている段階ではないんですけど、レコーディングに参加してくれたバンドメンバーと同じステージに立ちますし、過去の曲もまたアレンジも加えたりとか、ライブならではの見どころを用意したいと思っています。STUTSさんとももちろんアルバムの曲もやるだろうし、もしかしたら「Presence」もやるかもしれません(笑)。11月の段階で世の中がどういう状況になっているかは誰にもわからないことですけど、無事開催できて、みなさんと元気に会場で会えたらいいなと思ってます。

Text:吉羽さおり Photo:吉田圭子

リリース情報

ニュー・アルバム『RIGHT TIME』
2021年10月6日(水)リリース
レーベル:SPACE SHOWER MUSIC
品番:PECF-1186
定価:3,080円(税込)

<収録曲>
01. calling
02. free me
03. acception
04. YOU NEVER KNOW (feat. STUTS)
05. I'm here (feat. STUTS)
06. 友人へ
07. トーチ
08. RIGHT TIME
09. 中央線
10. 春雷
作家・滝口悠生による書き下ろし掌編小説「タッチ」収録

ライブ情報

TheCreators2021(福岡)
2021年10月23日(土)・24日(日)
※butajiは23日に出演
詳細は⇒http://the-creator.jp/

butajiワンマンライブ「RIGHT TIME / RIGHT PLACE」
2021年11月22日(月)開場18:00/開演 19:00
会場:渋谷WWW
出演:butaji
Band:樺山太地 (Gt./Taiko Super Kicks)
山本慶幸 (Ba./トリプルファイヤー)
坂口光央 (Key./石橋英子 with もう死んだ人たち、見汐麻衣 等)
岸田佳也 (Dr./トクマルシューゴ、吉田ヨウヘイgroup 等)
Guest:STUTS
チケット代:3,500円(税込)
※入場時ドリンク代別途必要
詳細⇒https://www-shibuya.jp/schedule/013776.php

プロフィール

butaji
東京在住のシンガー・ソングライター。幼少期からクラシック音楽に影響を受けて作曲を始める。コンセプト立てた楽曲制作が特徴で、生音を使ったフォーキーなものから、ソフトシンセによるエレクトロなトラックまで幅広い楽曲制作を得意とする。2013年に自主制作したep『四季』が話題を呼び、1stアルバム『アウトサイド』、2ndアルバム『告白』を発売。BECKや七尾旅人に影響を受けており、ライブでは弾き語りを中心にバンド、デュオなどさまざまな形態で演奏する。STUTSと共作した「大豆田とわ子と3人の元夫」(2021年4月~7月放送・フジテレビ系)の主題歌「Presence」が「第108回ザテレビジョン・ドラマアカデミー賞」を受賞。2021年10月6日に壱タカシ、tofubeats、STUTS、石橋英子らを迎え制作したニュー・アルバム『RIGHT TIME』をリリース。
これまで、シンガー・ソングライター・入江陽とのユニット「入江陽とbutaji」、ラッパーのMETEOR、ビートメイカーのKOYANMUSICとのユニット「青い果実」、ライター・スズキナオとのユニット「遠い街」としても音源をリリースするほか、現在はトラックメイカー・荒井優作とのユニット「butasaku(ブタサク)」としても活動中。

関連リンク

free me [Rearranged by tofubeats] (Official Music Video) : https://www.youtube.com/watch?v=Tq0Nvobtjjw
Instagram : https://www.instagram.com/butaji_insta/
Twitter : https://twitter.com/butaji_tw

番組概要

放送局:J-WAVE(81.3FM)
番組名:PIA SONAR MUSIC FRIDAY
ナビゲーター:櫻井海音
放送日時:毎週金曜 22:30~23:00
番組HP:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarfriday/
番組twitter:https://twitter.com/SONAR_MUSIC_813
ハッシュタグ:#sonar813
番組LINEアカウント:http://lin.ee/H8QXCjW