音楽専門誌『ぴあMUSIC COMPLEX』連動企画
DIYで人気を拡大するCRYAMYと時速36kmの2マンライブをレポート。いびつだからこそ美しい、そのロック本来の魅力に迫る。
PMC編集部
第40回

CRYAMY(クリーミー)と時速36km(ジソクサンジュウロッキロ)。どちらも野外フェスの常連と言えるようなバンドではないし、ロック系メディアから特別大きな注目を集めているわけでもないが、9月28日に恵比寿LIQUIDROOMにて行われた彼らの2マンツアー「POWERFUL SUN, NOISY MOON TOUR」の東京公演はほぼ満員。CRYAMYに至っては音源配信すら行っていないのに、だ。この場所で自分は久しぶりにロックのヒリついた空気を感じた。

予定調和なんてない。数分先に何が起こるか想像できない。実際、CRYAMYのライブはカワノ(G&Vo)のMCが長尺になったこともあり、90分にも及んだ。時速は60分でまとめていたが、本来のタイムテーブルがどうだったのかは不明だ。少なくとも、本人たちにステージをうまくまとめようなんて気持ちがないことは伝わった。
MCでは、ジャンルを問わず近年の定番であるコロナのコの字も口にしていなかったし、この日は完全に「俺たち」(演者)と「お前ら」(観客)と「あいつら」(対バン相手、つまり仲間)という狭いライブハウスの中だけで完結する物語を激情とともに描き切っていた。その様は本当に気持ちがよかったのと同時に、「そういやあ、ロックって本来こうだったよね」とかつて当たり前だったことを思い出させてくれた。
いいバンドにはいい客が付いてくるもので、フロアは開演前から雰囲気がよかった。これからライブを観るというロックに対する純粋な興奮のようなものが感じられた。ステージ上でスタッフがチェック用に鳴らしたベースの低音につられて、観客が1歩2歩とステージへ向かって進む。そんなかつて当たり前だった光景がうれしい。

先攻はCRYAMY。「よろしく」というカワノのラフな挨拶のあとに放たれたのは強烈な音塊だった。技術よりも感情が先行する演奏のインパクトに1曲目からハッとさせられる。なんというか、「あ、この音を忘れてた」という感覚。いつの日かの忘れ物がふいに届けられたような。特にフジタ レイによるリードギターがとにかく気持ちいい。そんなうれしい感覚は最後まで途切れることはなかった。
自分は『#4』の音源しか持っていないので知らない曲ばかりだったが、そんなことは何の問題にもならない。4人の激情はフロアの一番奥まで十分に届く。しかも、1曲目の「完璧な国」から「まほろば」まで7曲連続で感情を殴りつけるようなパフォーマンスが続いた。カワノのボーカルは徐々にクリーンよりもシャウトの割合が増えていき、それと比例するようにこちらの感情も揺さぶられていく。乱暴ではあるけれど、カワノのボーカリストとしての技術は高いと思う。クリーンからシャウトへとまるでスローモーションのように移行していく様には気持ちよさすら感じる。

フロアは盛り上がるというよりも、見入る、釘付けになるという表現のほうが近かった。4人の邪魔になりそうで曲終わりに拍手を送ることすら憚られるぐらい、4人は演奏に入り込んでいた。
MCでカワノは時速について言葉を尽くして語った。今回のツアーではCRYAMYのローディと物販を時速のスタッフが手伝ってくれたこと。かつては同じライブハウスで切磋琢磨して、どっちが観客の鼓膜を破るか争ってたけど、だんだんそういう戦いではなくなってきたということ。最も印象深かったのは、時速はフラフラ歩いてる人がいたら手を引いて家まで連れて帰ってくれるバンドで、CRYMAYは「別に家になんて帰る必要はない」と言うバンドだという話。抽象的なたとえだけど、なぜだかすごくしっくりきた。カワノの言葉からは、バンドとして以前に人間としての時速への愛情が伝わってくる。だって、「(仲川)慎之介がすごく緊張してたのでこのあとやさしくしてあげてください」なんて、普通は言わないと思う。字面だけだとからかっているようにも見えるけど、実際は言葉通りの意味合いで彼は観客に語りかけていた。

カワノのMCは止まらない。あふれる思いが彼をしゃべらせ続けた。持ち時間なんて気にする様子もない。体調不良で人に支えられながらフロアを離脱する観客が数人出るぐらい長かったが、「愛してるよ」と伝えられるまで待っていてくれてありがとうございました、とカワノはいったん結んだ。

言葉をすべて吐き出したあとの演奏は明らかに一段ギアが上がっていた。心理状態が演奏にそのまま反映されるバンドだということがよくわかる。特別に上手いというわけではないけど目が離せない。パフォーマンスも特に派手ではないけど見入ってしまう。ラストの「世界」では長尺のインプロビゼーションを挟み、2マンでは異例とも言える90分のステージを終えた。

このあとに出てくる時速36kmは絶対にやりづらい。しかし、彼らはCRYMAYからの感情の流れを丁寧に引き継いだ。アルバム『輝きの中に立っている』のラストを飾る、スローでエモーショナルなナンバー「サテライト」からスタートし、「つらくて明日なんて来なければいいと思ったけど、明日も動けるようにがんばったからこそ今日がある。がんばるしかないならがんばる。夜は夜明け前が一番暗いっていうぜ」という仲川の言葉のあと、「夢を見ている」の演奏を始め、フロアの最後方まで一斉に手が上がった。
形は違えど、CRYMAYと同様、時速36kmというバンドも誠実で、切実だ。音楽のおかげで今の自分があるということを隠そうともしないし、それがいかに幸せなことか我々に伝えてくる。サウンドは彼らが敬愛するbloodthirsty butchersからの影響を感じさせるが、彼ら独自の“いびつさ”がしっかりある。

CRYMAYも時速もいびつだ。だからこそ美しい。淀みないステージ運び、感動的なMC、物語性のあるセットリストなどが揃っているのがいいライブっていつからなったんだろう。なんでそんなライブを多くのバンドが目指すようになったんだろう。これは本当に思ったことなので書いてしまうが、どんな人気バンドよりも彼らのほうがロックじゃないか。でも、その一方で、ドラムの松本ヒデアキが4つ打ちのキックを踏み込むのに合わせて起こった観客の手拍子に対して、「こういう光景を否定してたのが恥ずかしくなるぐらい気持ちいいっスね」と素直に認めて笑う仲川もなんか良かった。
仲川は、CRYAMYがいいライブをするだろうけど自分たちが失敗したらどうしようと夜も眠れなかったそうだが、そもそも失敗なんてあるんだろうか。4人の音が出ていればそれで正解だと思わせる説得力が時速にはある。演奏をミスろうが、音を外そうが、それでもなおカッコいいし、彼らの楽曲には容易に消費させない芯の強さがある。これはCRYAMYも同様だ。

この2組ならではだと思ったのは、ボッコボコに音で殴り合いながらも、終始空気が温かかったこと。切実だけど緊迫はしていない、不思議な感じ。それは対バン相手に対する思いと、観客に対する思いがしっかり結ばれていたからかもしれない。仲川は言った。「CRYAMYというバンドは大事な友だちで、特別なんですね。友だちだし、ライバルだし、友だちだし、すげえ大好き」本当なら「ライバル」と言ったところで止めるべきところだ。きっと、彼の中で「いや、やっぱり友だちだ」という思いが最後にもう一度「友だち」と言わせたんだと思う。美しすぎるだろ。

長尺だったCRYAMYに対して、時速のステージはあっという間に終わったように感じた。あの場の温かさと切実さは過去に味わったことのない種類のものだった。「同じライブは二度とない」とはよく言うけれど、「前にもこんな感じのライブ観たなあ」と思うことは正直いくらでもある。でも、この日のような夜は本当に二度とない。
今後、どちらのバンドも間違いなく飛躍していくだろうし、今は成長過程だ。でも、この日の空気感はずっと大事にしてほしいと思った。もう、バンドやライブハウスの先輩が言うことになんて耳を傾けなくてもいい。自分たちのやりたいようにやってほしい。彼らが構築する新しい世界を見てみたい。
文=阿刀大志 撮影=春
▼CRYAMY セットリスト
1.完璧な国
2.鼻で笑うぜ
3.crybaby
4.戦争
5.マリア
6.月面旅行
7.まほろば
8.WASTAR
9.ディスタンス
10.GOOD LUCK HUMAN
11.世界
▼時速36km
1.サテライト
2.夢を見ている
3.ポップロックと電撃少年
4.ムーンサルト
5.優しい歌
6.花束
7.動物的な暮らし
8.鮮烈に
9.かげろう
10.ハロー
アンコール
11.stars
12.スーパーソニック
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