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音楽専門誌『ぴあMUSIC COMPLEX』連動企画

動員数2万人超のBAND-MAID米ツアーへ。渡米したライター阿刀大志の完全ルポ【前編】

PMC編集部

第50回

「BAND-MAID US TOUR 2022」(2022.10.30 EAST RUTHERFORD, NJ AMERICAN DREAM) 写真:FG5

『PMC Vol.25』では、世界的な人気を誇るBAND-MAID、3年ぶりのアメリカツアーを特集。現地を訪れたライター阿刀大志による追加2公演のレポートと帰国後のメンバーインタビューを掲載しているが、ここでは、ルポルタージュ完全版の前編をお届けする。

5人組ハードロックバンドBAND-MAIDが約3年ぶりとなるアメリカツアー「BAND-MAID US TOUR 2022」(2022.10.9〜11.1)を成功させた。前回は5公演だったが、今回は自身最大規模となる13公演。そのうち2公演は予想以上のチケットの売れ行きを受けて追加されたもので、最終的には12公演がソールドアウトとなった。チケットの総売上枚数は2万枚超だ。

アメリカにおけるBAND-MAID熱の高まりについてメンバーたちは「ONLINE OKYU-JI」(配信ライブ)のおかげ」と言う。メイドをコンセプトにしたロックバンドは世界中を見渡しても彼女たちしかいない。他に類を見ないバンドのライブがどんなものになるのか予想がつかず、そのせいで強い興味がありつつもライブ会場にまで足を運ぶに至らなかったファンが多かったと言うのだ。コロナ禍を受けて挑戦したオンラインお給仕の反応が思いのほかいいという話を当時からメンバーはしていたが、ここまでの成果を収めるところまでは想像できていなかっただろう。

この盛り上がりを受け、筆者は現地に飛ぶことを決めた。メンバーはおそらく覚えていないが、数年前のインタビューの終わりに「いつか海外まで観に行きます」と約束していたことも背中を押した。世は円安のまっただなか。でも、「行かなきゃきっと後悔する」と思ったのだ。

訪れたのはツアー最後の2公演、ニュージャージーとシカゴだった。

2022.10.30 EAST RUTHERFORD, NJ AMERICAN DREAM

10月30日、ニュージャージー公演はAmerican Dreamという会場で行われたのだが、American Dreamというのは厳密には会場名ではなく、ウォーターパーク、スケートリンク、水族館、遊園地といった様々なアミューズメント施設を含む巨大モールで、BAND-MAIDがライブを行ったのは遊園地内の特設ステージだった。American Dreamは今回のライブのために作られたステージなので、当然音楽ライブ向きではない。

問題は、自分はそのことをまったく知らなかったのだ。今回の旅で自分はマンハッタンのど真ん中に宿をとった。そこからAmerican Dreamへ向かうためにはバスしかない。自分はペーパードライバーなのでレンタカーという選択肢はないのである。

バスが発着するポート・オーソリティ・バスターミナルはマンハッタンの西寄りにある巨大ターミナル。バスタ新宿の4、5倍は広かった気がする。そのせいでターミナル内で迷い、乗るつもりだった直行バスをまんまと逃し、途中下車してからUberを使って、なんとかAmerican Dreamにたどり着く。

だが、まだ安心はできない。何と言っても超巨大モールだ。会場の場所を探すだけでもひと苦労。フードコートの店員に「ここにライブハウスがあるはずなんだけど……」と聞いたものの、「いや、そんなのないはずだけど……」と苦笑いされる始末。結局、レコード会社の担当者に連絡をとり、ようやく見つけたのが特設ステージだったというわけだ。

ステージを見たときは驚いたし、正直、かなり不安になった。なにせステージの眼の前にジェットコースターがあるのだ。ステージの両サイドに設置されているスピーカーもそこまで大きなものではなかったし、ちゃんとした音響で楽しめるとはとてもじゃないけど思えなかった。

観客の中で目立ったのは多岐にわたるメタラー。BEHEMOTH、GHOST、SABATON、JUDAS PRIEST、ARCH ENEMY、DREAM THEATER、PIG DESTROYERなどのTシャツを着ている人たちの姿が目に入った。当然、そればかりではない。ハロウィンシーズンということもあってコスプレ勢も多かったし(もちろん、メイド姿が一番多い)、年齢層は幅広く、若者も少なくはなかった。生粋のメタル/ハードロック好きというよりも、もっと広い層に愛されている雰囲気を感じた。少なくとも、過去に参加した欧米のメタルフェスで感じたものとは異なる。

ぱっと見では1000人くらいのファンが集まっているように見えた。決してアクセスがいいとは言えない場所にこれだけ集まったという事実に驚く。カメラマンがドラムセットの後ろから客席に向けてカメラを構えると一斉に大声が上がった。そして、「BAND-MAID! BAND-MAID!」の大合唱。これだけでも彼らの興奮が伝わってくる。

ライブはSEとともに始まった。メンバーが一人ずつステージに現れ、各々の持ち場につき、鳴らされたのは最新EP『Unleash』に収録されている「Sense」。驚いた。音がいい。これは後日『PMC Vol.25』のメンバーインタビューでわかったことだが、気心の知れた日本人PAがオペレートしていたことが大きい。さらに、この特殊な会場に対応するために、スタッフが入念な事前準備を行っていたらしい。

「BAND-MAID US TOUR 2022」(2022.10.9 SACRAMENTO, CA「AFTERSHOCK FESTIVAL」)

メンバーのパフォーマンスも堂々たるものだった。メタル系フェス「AFTERSHOCK FESTIVAL」を含め、ここまでに積み重ねてきた12本のお給仕が大きな自信となり、とまどうどころかこの環境を楽しんでいた。これも後日インタビューでわかったことだが、なんと本ツアーで最もやりやすかったのがこの公演だったという。なんというたくましさだろうか。2曲目に披露した「Play」の時点ですでに5人の何かがこれまでと違うと感じた。もちろん、いい意味で。

5人はとにかく楽しそうだった。SAIKI(Vo)と小鳩ミク(G&Vo)の両ボーカリストの調子もよく、むしろ「BAND-MAID PRE US OKYUJI in JAPAN」(2022.8.17~9.9)以上のパワフルさを感じさせた。AKANE(Dr)とMISA(B)のリズム隊も絶好調。会場の作りによる音の薄さを懸念していたが、二人はしっかりとボトムを支え、BAND-MAIDサウンドの輪郭をくっきりと浮かび上がらせた。そして、縦横無尽に駆け抜けたのはKANAMI(G)のギター。彼女の複雑で特徴的なギターソロは、アメリカ人を飛び跳ねさせるほど歓喜させたのだった。

「BAND-MAID US TOUR 2022」(2022.10.30 EAST RUTHERFORD, NJ AMERICAN DREAM)

バンドと観客のつながりの強さにも驚かされた。SAIKIが右手を掲げ、5本の指をクイッと前後に動かすだけで一斉にハンドクラップが起こる。彼女は完全に広大な空間を支配していた。貫禄がすごい。とても初めて来た場所とは思えない。これもこのツアーで獲得した自信なんだろう。

最初のブロックが終わり、MCパートでは小鳩が英語で呼びかけた。「Welcome back, my masters and princesses! We are BAND-MAID! I’m so so so happy-po because you are here to see us!」そして、ひときわ大きな声で彼女は叫んだ「ようこそBAND-MAIDのお給仕へー!」。その瞬間、BAND-MAIDはこれまでのキャリアの最高地点にたどり着いた。少なくとも自分にはそう見えた。それぐらい堂々たる姿だった、全精神が乗っていた。高揚感で鳥肌が立つ。

「endless Story」では大シンガロングが湧き起こり、「Daydreaming」ではイントロの数秒で曲を察知した女性客の歓喜の声が響き渡った。どの客も曲がしっかり体に入っているようだ。攻撃的にたたみかけるのではなく、日本と同様にじっくりと緩急をつけてストーリーを展開させ、観客の興味をそらさないように。そんな意図がここアメリカでもしっかり伝わっているのを感じた。

アメリカで大人気なのはMISAだ。MCではMISAコールが頻繁に起こり、それに応えるかのようにMISAは缶ビールをあける。それに続いたのは恒例のおまじないタイム。ある意味、アメリカ公演で最も驚かされたのはこの時間における観客のレスポンスのよさだ。コロナ禍前、日本でのお給仕ではおまじないタイムで観客が恥ずかしそうにしているのを小鳩があおるというのがよくある流れだったが、アメリカでは最初から全員が100のテンションで返してくるのである。小鳩は「You must join!」とフロアを見張るが、どう見ても最初から全員ノリノリで参加している。これだけノリのいい客がいるとBAND-MAIDは強い。水を得た魚である。正直、日本で観るのと印象が非常に異なる。

「BAND-MAID US TOUR 2022」(2022.10.30 EAST RUTHERFORD, NJ AMERICAN DREAM)

時計が21時を超えたあたりからは後半戦。小鳩が「Rock in me」をハンドマイクで熱唱する。ステージ前まで乗り出す姿からは気合いがにじみ出ている。ツアー後半でも声に疲れは感じられない。喉は強くなっているような気がする。

「onset」「from now on」とインスト曲が続いたあとは、SAIKIも参加しての「HATE?」。実はこの曲、事前にもらったセットリストには入っていなかった。おそらく急きょ追加されたものだろう。この日に限らず、ツアーを通してライブのセットリストは臨機応変に変えていたようだ。「この曲を試してみたい」「本当にこの曲がウケるかどうか確認したい」など、理由はさまざまだろうが、一番は自分たちが楽しみたいということだろう。

MCもそうだ。MISAの乾杯、小鳩のおまじないタイムに続き、終盤ではSAIKIによる日本語講座(この日チョイスしたフレーズは「やったれやったれ」)とAKANEのバナナ一気食いが行われた。異常な光景だけど、ステージもフロアもとにかく楽しそうなのが印象的だ。年配の客も拳を突き上げているし、60代ぐらいの女性も椅子に座ってはいるけど、膝をバシバシ叩いてノッている。日本ではまだどちらかというとニッチな存在だが、アメリカでは全世代が楽しめるエンターテインメントとして受け入れられつつあるのが見えた。

バンドの勢いは最後まで落ちなかった。ラストの「DOMINATION」ではKANAMIが気合の入った超絶ギターソロをかまし、それに対して観客も飛び跳ねて応える。最後は会場一体となって「Hello Hello Hello Hello」の大合唱で大団円。

InstagramなどのSNSを中心にツアーの熱気は伝わってはいたが、まさかここまでだったとは。終演後、物販コーナーにできた長蛇の列を見ながら、「こりゃあすげえ……」とひとりごちながら超巨大モールをあとにするのだった。

余談だが、帰りも一筋縄にはいかず、シカゴ在住の日本人夫婦に助けてもらい、どうにかマンハッタンまで帰ることができた。改めて、よくこんな会場にあれだけの人を集めたなあ。

「BAND-MAID US TOUR 2022」(2022.10.30 EAST RUTHERFORD, NJ AMERICAN DREAM)

阿刀大志=取材・文 FG5=写真

BAND-MAID US TOUR 2022

10.9 SACRAMENTO, CA  AFTERSHOCK FESTIVAL
10.12 SEATTLE, WA NEPTUNE
10.14 SAN FRANCISCO, CA AUGUST HALL
10.15 LOS ANGELES, CA BELASCO
10.17 SAN DIEGO, CA HOUSE OF BLUES
10.19 PHOENIX, AZ CRESCENT BALLROOM
10.21 DALLAS, TX HOUSE OF BLUES
10.22 HOUSTON, TX HOUSE OF BLUES
10.25 WASHINGTON, DC THE FILLMORE
10.26 PHILADELPHIA, PA TLA
10.28 NEW YORK, NY IRVING PLAZA
10.29 BOSTON, MA PARADISE ROCK CLUB
追加公演
10.30 EAST RUTHERFORD, NJ AMERICAN DREAM
11.1 CHICAGO, IL HOUSE OF BLUES

<CD info.>
「Unleash」

now on sale/(CD+Blu-ray)¥5,900、(CD+DVD)¥3,500、(CD)¥2,500/PONY CANYON

<LIVE info.>
2023.1.9
「BAND-MAID TOKYO GARDEN THEATER OKYUJI」
東京ガーデンシアター

※配信チケットは12月23日(金) より発売。
詳細はこちら:
https://bandmaid.tokyo/contents/534358

「BAND-MAID PRE US OKYUJI in JAPAN SHIBUYA EGGMAN」

12月24日(土) 14:00より配信開始 ※ファンクラブ会員のみ配信チケット購入可能
詳細はこちら:
https://bandmaid.tokyo/contents/604878

2023.5.18~22 ※米現地時間(BAND-MAIDは5.18に出演)
「WELCOME TO ROCKVILLE 2023」

https://welcometorockville.com/