音楽専門誌『ぴあMUSIC COMPLEX』連動企画
「SUMMER SONIC 2023」の初日レポ。ヘッドライナーのブラーやNewJeansのほか、BMSG陣、ENHYPEN、YOASOBIも!
PMC編集部
第111回
ブラー
8月19〜20日、国内外のアーティストが集結するインターナショナルフェスティバル「SUMMER SONIC 2023」(以下、サマソニ)が東京・大阪の2ヶ所で同時開催された。
昨年はコロナ後に訪れた怒涛の来日ラッシュの年であり、サマソニも3年ぶりに完全復活を遂げたが、今年はブラー、ケンドリック・ラマーというヘッドライナーはもちろん、NewJeans、ジャニーズWEST、YOASOBIら話題性のあるラインナップが次々と発表され、5月29日、史上最速でTOKYO & OSAKA両会場全券種のチケットが完売したことが伝えられていた。実際、東京会場各日6万2500人の12万5000人、大阪会場は各日4万5000人の9万人、さらにサマソニ前夜のオールナイトフェス「SONICMANIA」では2万5000人を動員。合計24万人という盛り上がりをみせた。
8月19日、「SUMMER SONIC 2023」(東京会場:千葉・ZOZOマリンスタジアム、幕張メッセ)初日。同フェス最大キャパとなるZOZOマリンスタジアムのMARINE STAGEでは、韓国発の5人組NewJeansが注目の的となっていた。これまでも「KCON 2022 JAPAN」や「2022 MAMA AWARDS」で来日し、パフォーマンスは披露していたが、その後もヒット曲を連発し、米「ロラパルーザシカゴ」への出演で世界中の注目を集めた後のサマソニである。観客の期待はとりわけ高く、実際、初出演ながら最大キャパの会場に約3万人が集まり入場規制を記録。猛暑の中ではあったが、「Ditto」から「Super Shy」「ASAP」まで全11曲を披露し、約40分のステージをやりきった。
この日、同ステージのヘッドライナーを務めたブラーも印象深く、8年ぶりとなるニューアルバム『The Ballad Of Darren』を携え、アルバムからの新曲はもちろん、「Country House」「Parklife」「Song 2」「Tender」といったキャリアを網羅するセットリストで、バンドの歩みやメンバー間の今の関係性までエモーショナルに伝わってくる感動のステージを繰り広げ、今のバイブスでしか表現できないストーリーが見えてくるものだった。
一方、砂浜のBEACH STAGEでは「“so sad so happy” Curated by Gen Hoshino at SUMMER SONIC BEACH STAGE」と銘打つ星野源のキュレーションステージで、海風のもと、ラテンポップのアイコンCAMILO、夕方からALI SHAHEED MUHAMMAD(A Tribe Called Quest / DJ SET)、DJ豊豊(松重豊)、星野源、JACOB COLLIERという布陣で、サマソニならではの多彩なステージの中で、星野源が提示する極上の音楽体験が届けられた。
そういった並いるステージの中、幕張メッセ内最大となるMOUNTAIN STAGEも充実のラインナップだった。東京会場初日は、オープニングアクトとして登場したBMSG期待の新人グループMAZZELから、SKY-HI、BE:FIRSTまで、SKY-HI率いるBMSG所属アーティストがMOUNTAIN STAGEをジャック。MAZZELは初のサマソニ出演となるが、デビュー曲「Vivid」からオーディション最終審査の課題曲としてもお馴染みの「MISSION」まで、堂々のステージを務めあげ、BMSGのBossであるSKY-HIにバトンタッチ。
そのSKY-HIはサウンドチェックから本気のラップをぶちかまし、早くも会場は大盛り上がり。そんな観客の様子に「あくまでサウンドチェックなんで。やりすぎちゃった(笑)」とにっこり。さらに、「ENHYPENのNI-KIくんを『I-LAND』(Mnet)で観たのが自分がオーディションをやることになったきっかけ」と明かし、このあとに登場するENHYPENを待ち構えるENGENE(ENHYPENのファンネーム)を大いに喜ばせた。
いざ本番のステージとなると、プロフェッショナルなアーティスト・SKY-HIがそこにいた。「帰ってきたぜ、「SUMMER SONIC」!」とシャウトしてはじまった「Happy Boss Day」では緩急のあるラップで魅せたかと思えば、「このパーティの主役は俺だが、同時に君だぜ!」とおありまくり、観客を跳ねさせ、会場を熱く燃やす。続く「Limo」はメロウなメロディとスピーディなラップを行き合いながらSKY-HIがステージを縦横無尽に駆け、会場全員の両手が上がった「Dramatic」では自由自在に変化するテンポに乗って、速射砲のような高速フロウで場を圧倒。
その勢いのまま「Double Down」ではドラムだけを伴って雷鳴のようなラップを叩きつけ、場内からは思わず拍手が漏れたほど。これまでは飛び跳ねたり、手を叩いたりしてきたオーディエンスも、この曲では声をあげて思いっきりはしゃぎ、その様子をうれしそうに眺めたSKY-HIは「俺にできるお返しはないか」と考えた結果、「まだやってない新曲があった!」と、アニメ『範馬刃牙』のOPテーマソング「Sarracenia」を披露。曲のラストには作者・板垣恵介が描き下ろしたジャケットが映し出され、大いに盛り上がった。
ちなみにこの日は最高気温35℃超えの猛暑日を記録。屋内にもかかわらず、MOUNTAIN STAGEもかなりの暑さだった。SKY-HIもそんな過酷な会場を思いやって「譲り合い、助け合い、SKY-HIでやっていきましょう」と冗談めかして注意を促す。湿度で息苦しいけれど、数年前よりは幾分マシ、と語りはじめたのはコロナ禍で苦しかったころの話。「本当につらかったとき、口座から1億円引き出してオーディションをやったのが、人生の大きい転機だった」とかつてを振り返った。
そんな彼だからこそ、夢に向かってがんばろうとする人を応援したいと思うのだろう。BE:FIRSTを生み出したオーディション番組『THE FIRST』のシグネチャーソング「To The First」へ。<その炎を燃やせ><怖くても進め>と、情熱的な応援の気持ちを乗せた曲を歌い終えると、人差し指で天を指差した。 最後の「The Debut」では自由奔放にステージを遊びまわり、大の字に寝っ転がってエンド。「次はあいつらに託すぜ」と言い残してステージを去っていった。
SKY-HIからバトンを受け取ったのは、昨年サマソニ初出演ながら圧巻のパフォーマンスで度肝を抜いたBE:FIRST。今年は去年以上に会場の期待の高さがうかがえたが、1曲目の「Boom Boom Back」から挨拶代わりのジャブとばかりにパワフルなパフォーマンスで畳み掛け、続く「Milli-Billi」では初っ端から攻撃力マシマシのラップで攻勢を仕掛けたかと思えば、インタールードのダンスパートではプリミティブなリズムに合わせたアグレッシブなパフォーマンスを見せ、オーディエンスの大歓声を引き出した。
ハードなギターリフとJUNONの澄んだハイトーンボイスではじまる「Brave Generation」は彼らのボーカル面での成長がうかがえるステージ。気持ちをぶつけるかのようなエモーショナルさは、このあとに続くSOTA、SHUNTO、RYOKIによるユニット曲「Spin!」でも存分に発揮された。ラストの歌詞<Move On>は、続く曲に合わせるように、「Move On」ではステージが真っ赤に染まり、一転、重々しいメロディに合わせてRYUHEIからMANATO、JUNON、そしてLEOへとつながるボーカルラインの朗々たる歌声が場内に響き渡る。パワフルなだけじゃない、重みを感じさせるステージに会場からは大きな拍手が沸き起こった。
LEO、MANATO、JUNON、RYUHEIによるユニット曲「Softly」はミドルテンポのしっとりバラード。メロウなメロディに乗せて感情豊かに歌い上げる4人の異なる声質が耳に心地よく、BE:FIRSTがパフォーマンスだけのグループではないことを証明してみせた。そしてラスト、RYOKIの「ぶつかろうぜ!」という叫びではじまった「Scream」は、彼らの魂のこもった歌声とアドリブが何重にも重なり合い、最後にふさわしい豪華さで2年目のサマソニを締めくくった。
BE:FIRSTに続いてマウンテンステージに登場したのは、中華圏の張惠妹。aMEIという愛称で知られる彼女はアジアのみならず、アメリカを含めたワールドツアーを何度も成功させているトップシンガーの1人。彼女の持ち味は、豊かな声量に乗せたド迫力のボーカルだが、1曲目の「単刀直入」という意味を持つ「開門見山(Straight Up)」からそんな彼女の魅力が全開。ケレン味のあるギターとコブシの効いた阿妹の歌声がメロディアスメタルな世界観を作り上げていく。
「みんなの声(聴かせて)」と日本語で何度もオーディエンスをあおった「你想幹什麼(What D’ya Want?)」ではデスなサウンドに阿妹ののびやかな歌声が重なり、カタルシスを感じるほど。一方で、観客がスマホのライトでステージを照らした「最親愛的(My Dearest)」、おそらく日本のオーディエンスのために準備したであろうテレサ・テンの「時の流れに身をまかせ」では透明感ある歌声で切々と歌い上げ、幅の広さを見せつけた。ラストはライブの定番曲「三天三夜(3 Days 3 Nights)」。疾走感あふれるメロディに阿妹の美しい高音が響き、イントロがかかった瞬間から会場は待ってましたといわんばかりの盛り上がり、サビではみんなで一斉にジャンプ! 夏のフェスにふさわしいさわやかな盛り上がりを見せた。
そして、ENHYPENのステージへ。BTS、TOMORROW X TOGETHERを擁するHYBE所属のアーティストで、SKY-HIがサウンドチェックで言及したオーディション番組『I-LAND』で誕生したK-POPグループだ。日本人メンバーのNI-KIは弱冠14歳でオーディションに参加し、見事デビューを勝ち取った。ENHYPENの魅力はいわゆる“カル群舞”と言われるシンクロ率の高いダンス。生声でもほとんど声がブレず、高難度の振り付けを数曲続けて踊ることができるフィジカルの強さが圧倒的なパフォーマンスを生み出している。
一方で、ダークな世界観を持つ楽曲も彼らの特徴のひとつ。1曲目の「Tamed-Dashed」は夏の日差しとその裏に潜む翳りを思わせる曲で、スタートからENHYPENらしさでステージを彩った。「みなさんと一緒に東京の夏をアツく盛り上げたいと思います」とJAYが相変わらず流暢な日本語で挨拶すると、そこからは「Always」、「Forget Me Not」、「Polaroid Love」と夏らしい爽やかな楽曲が続く。
新曲「One and Only」はこの日がライブ初披露。「ポケットモンスター」の音楽プロジェクト「Pokémon Music Collective」の取り組みとしてリリースされたこの曲ではステージに4体のピカチュウが登場するサプライズも。メンバーもピカチュウに顔をうずめたり、肩を組んだり、手を握ったり、ピカチュウとのコラボを存分に堪能した。「僕たちのステージはここからがはじまりです」と宣言してはじまった一連のステージは、まさにENHYPENの真骨頂。バンパイアをモチーフにした「Bite Me」にはじまり、「Blessed-Cursed」「Future Perfect (Pass the MIC)」まで、生バンドをバックに豪華なサウンドと切れ味鋭いダンスを見せ続けた。目の前のオーディエンスの反応ににこにこ笑顔をこらえきれないキュートな姿も印象的。初サマソニのステージを思う存分楽しんでいた。
オープニングからBMSG、張惠妹、そしてENHYPENとアジアのパワーが観られたが、その後のMOUNTAIN STAGE には日本好きでも知られるエレクトロデュオHONNEや元ONE DIRECTIONのメンバーNIALL HORANといったUK勢も登場。特にNIALL HORAN はONE DIRECTIONの「Story of My Life」も披露し、ファンを喜ばせた。また来年の5月15日には東京ガーデンシアターで単独ライブを開催することも発表。今後の動向にも期待したい。
そんな注目度の高いステージを経て、グローバルチャートを席巻中のYOASOBIが満を持して登場。会場は入場規制がかかったほどだった。MCではサマソニの思い出を話す中で、実はAyaseはかつて「出れんの!?サマソニ」に落ちたことがあると告白。過去の夢が現実となり、MOUNTAIN STAGEのトリを務めた今、大ヒット中の「アイドル」を最後に披露し、思う存分はしゃいでサマソニを楽しんだ。
もともと音楽に国境はないけれど、世界との距離感はここ数年でさらにグッと縮まった。そんな中、10年以上前から世界で戦ってきた張惠妹、多国籍なメンバーで構成され今年7月から2度目のワールドツアーをスタートさせたENHYPENとグローバルに活躍するアジアのスターたちの活躍が凝縮されていた19日のMOUNTAIN STAGEは、サマソニの多彩なステージの中で、日本発のアーティストたちの存在感も世界に広がりつつある今、BMSGのアーティストからYOASOBIまで、新たな夢を抱かせてくれた。
Text:尹秀姫
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