音楽専門誌『ぴあMUSIC COMPLEX』連動企画
BABYMETALはもちろん、YOASOBI、花冷え。、Paleduskなど注目のステージ満載。 BRING ME THE HORIZON主催「NEX_FEST 2023」レポート【写真34点】。
PMC編集部
第127回

「NEX_FEST 2023」よりBRING ME THE HORIZON「Kingslayer ft. BABYMETAL」Photo by Taku Fujii
今振り返ってみても、11月3日に開催された「NEX_FEST 2023」(幕張メッセ)は本当に楽しかった。かつて、音楽フェスはあらゆる人気アーティストが一堂に会するという豪華さが売りだったが、今やそんなことは当たり前で、それどころか「いつものメンツ」という意味で「いつメン」と揶揄されることもある。
しかし、7月に開催を発表した本フェスは違った。まず、イギリス出身で世界的な人気を誇るBRING ME THE HORIZONの主催フェスがイギリスではなく日本で行われるということに驚いたし、それ以上に衝撃的だったのは開催と同時に発表された出演者の顔ぶれだった。セカンドメインにBABYMETALの名前があった。これはわかる。BABYMETALは彼らの楽曲「Kingslayer ft. BABYMETAL」に参加したり、日本に招いて対バンをするなど、以前から深い交流がある。フライヤー上ではBABYMETALと並んで表記されていたYUNGBLUDも同様だ。
しかし、その下にある名前を見てギョッとした。「YOASOBI」とある。現在世界規模でブレイクしつつあるJ-POPの旗手が、一般的にJ-POPとは対極にあると思われるフェスに出演することに心地よい違和感があった。これは当日のステージでも本人の口から語られたのだが、YOASOBIのコンポーザーAyaseはYOASOBI結成前にメタルコアのバンドで活動をしていた時期があった。現在鳴らしている音は違えど、彼は精神的にブリングミーとどまんなかで共鳴しているのだ。ブリングミーとゆかりのあるバンド以外に関しても、有名無名を問わず実力派がそろった本フェスのキュレーションは多くの人々を興奮させた。

その結果、チケットは見事にソールドアウト。そのキュレーション能力の高さにはひれ伏すしかない。
結論から言うと、「NEX_FEST 2023」は本当に素晴らしいフェスだった。あまりなじみがないバンドでも積極的に観ようと思わせるポジティブなムードに満ちていた。バンドの人気ではなく、実力によって出演者が選ばれていることはわかっていたが、実際にどのアクトにも独自の演出があるなど見応えがあった。とんでもない人の数には少々参ったものの、大きな混乱もなく、いたって平和に進行していた。
海外では、“メタルフェス”とは言いつつ、パンク、ハードコアやヒップホップのアクトが出演することがわりと一般的だったりする。「NEX_FEST 2023」をきっかけに国内のフェスにも何らかの変化が起こるなら、いちリスナーとして本当にうれしい。そう感じるぐらい、「NEX_FEST 2023」は現代の国内音楽フェスとしてトップクラスの内容だったと断言できる。特定のジャンルに特化したフェスは数あれど、「NEX_FEST 2023」のようにそのジャンル内における“いい具合の振り幅”を提示してくれた大型フェスはこれまでになかったからだ。
前置きが長くなったが、実際に現場で起こっていたことを振り返っていきたい。まず、会場となった幕張メッセ周辺には午前中からとんでもない数の人があふれていた。メインステージNEX_STAGEのトップを務めるYOASOBIのために多くの人が押し寄せた結果だろう。しかし、YOASOBIファンばかりだったかというとそんなことはなく、むしろさまざまなメタルTシャツに身を包んだメタラーのほうが多かった。近年、音楽配信サービスの普及をきっかけに、特定のジャンルしか聴かないというリスナーは若者を中心に減ってきているが、これはそんな状況を証明するような光景だった。
本フェスで大きな注目を集めていたYOASOBIのライブは決してメタル側に媚びたものではなく、「全力のJ-POPを持ってきました!」というAyaseのMCにあったとおり、「夜に駆ける」からどまんなかの直球勝負。そんな潔い姿勢が非常に心地よかった。
ステージ上にはユニット名をかたどった電飾をはじめ、YOASOBI専用のセットが組まれていたのだが、これは彼らに限った話ではなく、もう一つのステージCHURCH_STAGEでもバンドごとに独自の照明が組まれていたり、CVLTEのようにバンドによっては映像も駆使するなど、出演者の表現をできる限り尊重した演出が可能になっていた。こういった配慮も本フェスを刺激的なものにした要素の一つだったと思う。

話は戻って、YOASOBIのパフォーマンスはikuraの突き抜けるようなボーカルが素晴らしかったし、Ayaseの熱のこもった演奏やMCも観客を熱くさせた。自分は上手前方にいたので気づかなかったが、フロアではモッシュだけでなくクラウドサーフまで起こっていたらしい。おそらく彼らのライブにおいてこういった形でフロアが沸騰したことは過去にはなかっただろうが、これは同じ価値観やカルチャーを共有する観客が多かった「NEX_FEST 2023」だからこそ可能だったことで、そういった意味でも非常にレアな光景だったと言える。
最大のピークを迎えたのは最後に披露した「アイドル」。場内を包む大歓声の中には欧米人と思しき声も目立った。Suicide SilenceのTシャツを着た若者が両腕を掲げて歓声をあげている姿も見た。一つの音楽が国境やジャンルを飛び越える瞬間に立ち会えたことに得も言われぬ興奮が湧き上がった。
NEX_STAGEの音が止んだすぐあと、CHURCH_STAGEから同期を駆使したど派手なSEが鳴り出した。花冷え。の登場である。彼女たちは今年夏にメジャーデビューを果たしたばかりの新鋭だが、すでに海外では絶大な支持を受けている。8月にはEU、9月から10月にかけてアメリカを巡業し、各地でソールドアウトを続出させた。その前に行われた初の東名阪ツアーの東京公演の会場は渋谷WWWだったが、それから約3カ月を経た幕張ではNEX_STAGEよりも規模こそ小さいがCHURCH_STAGEをパンパンにしていた。4人にとっておそらく過去最大の集客だったのではないだろうか。YOASOBIからの流れも非常に よく、NEX_STAGEの熱を冷ますことなく「超次元ギャラクシー」からはじまる8曲を怒涛の勢いで叩き込んだ。

厳しい海外ツアーを経たバンドの音は、たった3カ月前と比べても飛躍的にパワーを増していたし、ボーカルのユキナを中心としたステージングは巨大なステージでも映え、フロアの奥までしっかり音が届いていた。普通のバンドなら数年もかかるところを、4人はほんの数カ月という驚異的なスピードで成長している。そして、今後もそれは続くだろう。
来年、花冷え。はイギリス「Download Festival」や「ROCK am RING」「ROCK im PARK」といった著名な海外フェスへの出演がすでに決定しているが、日本での人気拡大も確実。今月24日にSpotify O-WESTにて開催される単独公演はすでにソールドアウトしている。
アメリカ・デトロイト発のI PREVAILは緩急のあるパフォーマンスもさることながら、メンバーがMCで「(結成してから)9年の間でこんなにたくさんの人の前でプレイするのは初めてだ!」(日本語訳)と感動をあらわにする姿が印象的だったし、日本のメタルファンとして誇らしくもあった。

これ以降も出演者すべてが本当に素晴らしいパフォーマンスを繰り広げ、マキシマム ザ ホルモンの重量級の演奏、ナヲのMCも最高だったが、いくつか日本のアクトをピックアップして紹介していきたい。すさまじくカッコよかったのがKRUELTY。アンダーグラウンドなシーンで活動するバンドの音を幕張メッセというデカ箱で浴びる機会は貴重で、本当にすごいバンドというのは狭いライブハウスで観てもメッセのような場所で観てもカッコいいんだという当たり前のことを再確認した。ちなみに、彼らは来年1月からアメリカツアーを行う。1月14日から9日連続という気合の入ったスケジュールに震える。

KRUELTYの次にCHURCH_STAGEに登場したVMOは、あまりの轟音に途中でその場を離れる観客が続出するほど独自の世界を展開。インダストリアル、ハードコア、ハードコアテクノ、ノイズといった音を飲み込んだエクストリームミュージックは、強烈なストロボライトを基調とした過激で美しい照明やスモークとともに我々の鼓膜と網膜を容赦なく刺激した。これまでの人生で味わったことがないような高音が耳に飛び込んできた瞬間、身の危険を感じてイヤホンをした。過去に友人から彼らのライブに誘われた際、なんとなく怖くて毎回断っていたのは正解であり、失敗だった。こんなショーは何度でも味わいたい。

CHURCH_STAGEはNEX_STAGEに比べるとステージは小さいが、上記のように普段あまり触れる機会がない実力派のライブも体験できたという点でとても有意義だった。
この日NEX_STAGEに登場したBABYMETALも最も大きな注目を集めたアクトの一つ。今年、彼女たちはSU-METAL、MOAMETAL、MOMOMETALからなる新生BABYMETALとして、コロナ禍が明けるとともに本格的に活動を再開し、過去最高の100本近いライブをこなすために世界を駆け回っている最中だ。
この日はフェスではあるが、ライブスタート前から自然にハンドクラップが起こるなど、まるでホームのような雰囲気がフロアに充満していた。客電が落ちて恒例のオープニングムービーが流れ出すと、少し危険を感じるぐらいの勢いで人がフロア前方へ押し寄せ、人口密度が一気に高まる。

1曲目は「BABYMETAL DEATH」だったのだが、あまりの人の数に音が吸われているような感覚があった。今年、単独公演以外でBABYMETALがライブをするのは「SUMMER SONIC 2023」「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO」以来3度目で、2人体制のときには披露されることがなかったこの曲を久しぶりにライブで観たという人も多かっただろう。しかし、3人は感慨に浸る間を我々に与えない。
「ギミチョコ!!」のスタートを告げるあの印象的な男声に引き寄せられるように、観客はさらに前へと突進し、「PA PA YA!! (feat. F.HERO)」のラスサビではSU-METALが歌の代わりに“Jump! Jump!”と観客をさらに煽る。今年の夏以降に練度を高めてきた流れだけあって、これまで以上の重厚さと鋭さを感じる。過去、その楽曲と存在感でメタルシーンにおいて独特な立ち位置にあった彼女たちだが、活動開始から10年以上の間にさまざまな困難を乗り越え、切磋琢磨してきた結果、今や世界のメタルシーンの中心的な存在へと成長し、さらに勢いは増している。「NEX_FEST 2023」でのパフォーマンスはその片鱗を味わうには十分すぎるパワーがあった。

それを最も感じたのは「BxMxC」だ。BABYMETALが誇るトラップメタルチューンは、メロディアスでキャッチーな楽曲が多いBABYMETALの中では異質な存在だが、今の3人のすごみを伝えるには最も適した1曲だと言える。パフォーマンス中に起こったどよめきは初見の観客を中心に起こったものかもしれない。
その一方で、熱心なファンが唸ったのは「Brand New Day (feat. Tim Henson and Scott LePage)」だ。ライブで披露するのは約2年半ぶり4回目という超レア曲。これを生で聴けただけで満足だという観客も多かったはず。

ここから「Monochrome」へとつなぐ流れはよかった。観客に呼びかけてステージが一斉にスマホライトで照らされる光景はもはや定番化していると言っていい。この楽曲が収録されているアルバム『THE OTHER ONE』はコンセプトアルバムということで従来の作品とは毛色が異なるものだったが、結果としてBABYMETALの世界をさらに拡充することになった。全11曲というショートセットにもかかわらずこれまで以上の深みが感じられるのはこのアルバムの存在が大きいのではないだろうか。

「メタり!! (feat. Tom Morello)」という重量級の“わっしょいソング”が誕生したことも大きい。一聴してそれとわかるTom Morelloの特徴的なギターフレーズと和モノの融合を実現した最新曲は、フロアを一瞬にして一つにした。

「メタり!! (feat. Tom Morello)」という相棒を手にしてさらなる輝きを放った「メギツネ」を受け、ラストを飾ったのは「Road of Resistance」。広大なフロアの最後方まで手が挙がる光景を眺めながら、BABYMETALが新たな領域へと踏み込んだことを感じた。実力、人気ともに彼女たちのピークはもっともっと先にある。

そして、CHURCH_STAGEのトリを飾ったPaleduskのパフォーマンスも素通りするわけにはいかないものだった。今年、PaleduskはギターのDAIDAIがLil Uzi Vert「The End (feat. BABYMETAL)」の作曲と編曲を手がけたり、オーストラリアに続いてアメリカのレーベルとも契約を結ぶなど、徐々に活動の範囲を広げる一方、国内のシーンにおいても爆発的な支持を獲得している。「NEX_FEST 2023」におけるパフォーマンスではそんな彼らの現在地を知ることができた。POLARISとの全米ツアーを途中で切り上げて帰国したということもあり、気合が前面にあふれるパフォーマンスを展開。どの曲がどうだったということではなく、持ち時間全体で殴り込んでくるような塊感があった。それと同時に感じたのは、ステージとフロアの間にある壁を取り除くような温かな連帯感。夢をあきらめないことの尊さがMCを通じてまっすぐに胸に突き刺さった。全ての曲をプレイし終えるやいなやボーカルKaitoが叫んだ「(ブリングミーが待つNEX_STAGEへ)走って行け!」という言葉にもグッときた。

本フェスの大トリを務めたBRING ME THE HORIZONは圧巻だった。前回彼らが来日したのは2019年、アルバム『amo』がリリースされたタイミング。このときは数名の女性ダンサーを従えたり、巨大スクリーンを活かした演出が印象に残ったが、今回は彼らが愛する数々のTVゲームからの影響を感じさせるコンセプチュアルかつ、大掛かりなステージとなった。オープニングでは女性オペレーターがサイドスクリーンに現れてしゃべりだすのだが、英語ではなく日本語字幕が映し出されるという用意周到ぶり。後日調べたところ、このオープニングムービーは別パターンもあるようで、少なくともドイツで行われた「Rock am Ring」のファンカムを確認したところ、「NEX_FEST 2023」とは違う映像が流れていた。芸が細かい。

オープニングだけではなく、6曲目「MANTRA」のあとには、それまで象徴的にステージ後方のスクリーンに映し出されていた六芒星が破壊され、三つ首竜のようなモンスターが登場し、観客全員が驚愕する中、「Dear Diary,」をプレイするという演出まで飛び出した。明らかに彼らの従来のライブを超えたショーにブリングミーの志の高さを感じた。
選曲面でも予想外のファンサービスがあった。今年はアルバム『Suicide Season』のリリース15周年ということで、Oliverは「あまりやりたくはないんだけど……聴きたい?」(日本語訳)と少々ためらいながらも、初期のデスコア曲「Chelsea Smile」をプレイし、そこから今年リリースの新曲「LosT」へと展開し、本編終了。

アンコールではみんながどこかで期待していたことが起こった。BABYMETALの3人とともに「Kingslayer ft. BABYMETAL」をついに披露したのだ。この共演は「NEX_FEST 2023」「NEX_FEST -Extra-」(10.31神戸、11.1愛知、11.4東京で開催)が初。観客は狂喜し、演奏後にOliverと3人がハグをする姿にほっこりするのだった。これだけでは終わらず、「Drown」、そして「Throne」という大名曲を立て続けにプレイし、日本のヘビーミュージックの歴史に名を残すであろう1日は幕を下ろした。

しかし、こんなに素晴らしい1日がこの日だけというのはあまりに惜しいほど。フェスの新たな可能性を提示するという意味でも、非常に大きな意義のある1日だった。このフェスに影響を受けた人たちによって国内のフェスに何らかの変化が起こることを心の底から期待したい。
文=阿刀大志
<公演情報>
「NEX_FEST 2023」
11月3日(金・祝) 千葉・幕張メッセ
OPEN 10:00 / START 11:00
■ACTS
BRING ME THE HORIZON / BABYMETAL / YUNGBLUD / マキシマム ザ ホルモン / YOASOBI / I PREVAIL / PALEDUSK / CVLTE / 花冷え。/ VMO / KRUELTY / Alice Longyu Gao