「すっげえ面白いことが起きてる。それに加担してくれてるみなさんも最高におもろいです」内田怜央(Vo&G)は会場を埋め尽くしたオーディエンスを見渡してそう言った。――昨年6月の開催発表から8ヶ月、ついに実現した神奈川・ぴあアリーナMMでの初のアリーナワンマン「Kroi Live Tour 2024-2025 "Unspoil" at PIA ARENA MM」。それはまさにKroiが企ててきた「面白いこと」の極みであり、もう少し大げさな言葉を使うならば「革命」だった。どこまでもディープなグルーブをもつKroiのようなバンドが作る音楽がでっかい会場を震わせてぶち上げる光景は、とても痛快だった。だからといってかしこまったところは皆無。巨大なステージでもKroiはいつもどおり、音と戯れ合うように、あるいは格闘するように曲を鳴らし、あうんの呼吸でグルーブを練り上げ、オーディエンスと一緒になってライブを楽しみ尽くしていた。
開演時刻、真っ暗なステージの後方にあるLEDスクリーンに「Kroi」のロゴが映し出される。そのロゴがギラギラと光る中、バンドによるジャムセッションがはじまった。そのテンションが高まったところで、内田が歌い出した1曲目は「HORN」。オーディエンスがその歌声に歓声を上げ、せきを切ったように踊り出す。関将典のベースと益田英知のドラムが生み出すパワフルなリズムに合わせ、生き物のようにうごめき、形を変えていくアンサンブル。「Psychokinesis」から「Network」へとシームレスに楽曲をつなぎながら、Kroiはのっけから会場を自分たちのグルーブで塗りつぶしていった。長谷部悠生のギターソロに怒号のような歓声が起き、内田のシャウトがさらに興奮をあおる中、早くも最初のハイライトが訪れる。イントロからオーディエンスの声が上がった「Balmy Life」だ。パッと明るくなったステージ。それまでよく見えなかったメンバーの表情を見ると、それぞれ楽しげな笑顔を浮かべている。そこに重ねられたのがハードロッキンなサウンドがけたたましい「dart」。真っ赤なライトの中、ソロ回しにもオーディエンスはビビッドに反応。怒涛の序盤から早くもぴあアリーナMMはステージの5人を中心に最高の雰囲気に包まれていった。
内田怜央(Vo&G) Photo:Kaito Ono
いきなり濃密な音が詰まった最初のセクションを終えたところで、「おーい、はじまったぞ! 記念すべきKroiちゃん、初アリーナワンマン!」と内田が挨拶。それを受けてメンバーから「ひくほど(人が)いる」と率直な感想が飛ぶ。益田はロックスターらしい(かどうかはわからないが)ハイトーンボイスで「みなさん、盛り上がってますかー!」と雄たけび。そこに長谷部が「ギュイーン」とかっこいいギターサウンドを鳴らしてロックスター感をさらにアドオンする。このへんのコンビネーションはさすがである。初の大舞台と言えど、会話のテンションはいたって(いつもどおり)ユルい。そのユルさが加速して、話が早くも若干グダリはじめたと見るや、内田は「曲やろ」とMCを切り上げる。そのへんの感覚もさすがである。冒頭3曲の音の波に呑まれるような圧巻の体験と、その後のゆるゆるトーク。ストレートで攻めてスローカーブで打ち取るピッチャーのように、緩急織り交ぜたバイブスが、ぴあアリーナMMをあっという間にKroiの色に染めていく。
そして再開したライブ。「Green Flash」の<あーもう1回>で沸くぴあアリーナMMは、その後もどんどん高揚感と一体感を高めていく。ドープなリズムが展開していく「Monster Play」では曲の途中でおもむろに内田が「今日は特別な日ということで、久々に益田さんにギターソロを弾いてもらおうと思います」と宣言。おおー、というどよめきが起きる中、意気揚々と前に出てきた益田のヘアスタイルをよく見ると、髪の毛を固めた2本のツノが飛び出している。「今日はみんなにギターを見せるため、人間から鬼になってここにやってきました」と言いつつ鮮やかなソロを弾きはじめる益田。彼と交代してドラムを担当する内田が叩くビートも最高だ(念のために言っておくと、益田はもともとギターから音楽に目覚め、内田は小さなころからドラマーだった)。ツノ頭でギターを弾く益田は鬼というよりAC/DCのアンガス・ヤングのよう。ドラマーがいきなりギターソロを弾くというのはもちろんネタとしてもバッチリだが、重要なのはそのギターソロが音楽的にもKroiの曲に新鮮な風を吹かせている点だ。言うまでもないが、スモーキーなその音はどう考えても遊びではない。
曲が終わり、千葉大樹(Key)の弾くピアノに乗せて彼は語り出す。ずっとブルースが好きで、名ブルースギタリストのジョニー・ウィンターにあこがれてギブソン・ファイヤーバードを買ったことを切々と話し、「アリーナでギタリストとしてギターを弾けて、俺は幸せだ」と感慨深げな益田。そして「では聴いてください、「明滅」」と次の曲の曲フリまでやって大拍手を浴びる。さっき「遊びではない」と書いたが、違った。これはKroiによる本気の遊びなのだ。そして益田がドラムセットに戻っていくと、予告通り「明滅」がスタート。スクリーンにHi-8風のレトロなフィルターをかけた映像が映し出される中、緩から急へとダイナミックにシフトチェンジしていくこの曲がオーディエンスの身体と心をさらにアップリフトしていった。
千葉大樹(Key) Photo:Kaito Ono
「明滅」を終え、益田は「いやー、ソロ弾けたわー」と安堵の声を漏らす。めちゃめちゃ練習していたようで、普段弾いていないからタコができておらず指が痛いとか、そもそも内田のギターの弦のゲージが太いとか、いろいろぼやいているが、それでもどうしてもソロがやりたかったのだという。なんでもライブのセットリストが決まる前から「ギターソロを弾きたい」と宣言していたらしい。「ファイヤーバードが喜んでいる」。先ほど語っていたように音楽を志した少年時代から抱き続けてきた夢だったのだろう。確かに先ほどの彼のギターソロはとても純粋でキラキラしていた。ときにひねくれた音でリスナーを煙にまき続けるKroiだが、こうしたシーンに彼らがいかに純粋に音楽に向き合い続けてきたかという真実が顔を覗かせている。つかみどころがないようでじつは誰よりもピュアなバンド、Kroiの真骨頂である。
中盤では長谷部のレスポールが火を噴いた「sanso」から、内田のタンバリンさばきも鮮やかな「Pass Out」、さらに千葉のピアノソロがロマンチックに広がった「Shincha」を経て、「ぴあアリJAM」と題された短い曲を披露。ハンドマイクでステージを練り歩く内田の「ぴあアリ!」の声に客席のボルテージもどんどん高まっていく。一転してメロウな「帰路」をイエローのレーザーが飛び交う中届けると、ライブはもう折り返しである。結成7年が経ったことを告げ、「ありがとうございます」と内田。そこから冒頭に記した言葉につながっていったのだが、返す刀で益田に「疲れてる? 心なしかツノも元気なくなってる」とツッコミを入れたりしていて、MCのノリは相変わらずだ。
メンバー全員で視線を合わせながら会話をするように音を重ねる「侵攻」から「selva」へと流れ込むと、長谷部と関がソロでバトルするスリリングなシーンも挟みながら演奏の熱と勢いはさらに増していく。ステージ上に大量のスモークが発生する中披露された「Sesame」、そして野性的なリズムがアリーナにこだました「Amber」と楽曲を重ねた先で投下された「Hyper」では、内田の「Singin’!」という声に応じて客席から〈ややこいややこい〉の大合唱が巻き起こる。約1万人の人が生み出すその光景はまさに圧倒的。内田も思わず「すげえ」と声を漏らしていた。
そして「ラスト1曲になりました」という内田の声から鳴らされた本編最後の曲は「Fire Brain」。曲の途中で演奏を止めると、内田は「毎度言ってますが」と前置きしつつ「Kroiは行けるところまで行きます」とバンドの意思を言葉にする。そして「小さいころ、死ぬのが怖くて、何か分身を作ろうと考えた」と曲づくりの原点を口にすると「本当に曲を作っててよかったなと思います。みんなありがとう」とメンバーのほうを向いて語りかけた。突然訪れた感動的なシーンから突入したクライマックス。最後にはステージの床でのたうち回りながら叫ぶ内田の姿がとてもエモーショナルだった。
アンコールでは益田が来場したファンがどこから来たのか、沖縄、鹿児島と南から全都道府県確認しようとしたり、関が客席にネオンカラーの服を着た人を見つけて「めっちゃ光ってる人いる!」と叫んだり、千葉が長谷部を指して「こいつ、口座の残高4000円しかない」と衝撃の事実を暴露したり(現金がないため、長谷部はQUOカードで生活しているらしい)、いつもどおりかいつも以上にユルいMCで和ませつつ、「トレンド」(曲が終わるとメンバー全員で「ムズいて」と叫んだり、演歌ノリの歌に「何この曲!」と笑ったり楽しそう)や「Jewel」を披露。そして最後に鳴らされたのは「Juden」。Kroiらしいクセと切れ味がてんこ盛りのこの曲が、5人全員の見せ場とともに届けられた。
クレジットが映し出される中ジャムセッションですべてを出し切るようにしてライブは終了。その後、スクリーンでは2026年に開催される初のアリーナツアーの情報が告知された。スケジュールは2026年1月11日に大阪・大阪城ホール、23日に東京・国立代々木競技場第一体育館。もはやアリーナも完全にものにしたKroiが見せてくれる新たな風景を、今から楽しみにしたい。
Text:小川智宏
2025年2月1日神奈川・ぴあアリーナMM
「Kroi Live Tour 2024-2025 "Unspoil" at PIA ARENA MM」
セットリスト
01. HORN
02. Psychokinesis
03. Network
04. Balmy Life
05. dart
06. Green Flash
07. Monster Play
08. 明滅
09. sanso
10. Pass Out
11. Shincha
12. ぴあアリJAM
13. 帰路
14. 侵攻
15. selva
16. Sesame
17. Amber
18. Hyper
19. Fire Brain
<アンコール>
20. トレンド
21. Jewel
22. Juden
LIVE info.
Kroi Arena Tour 2026
2026年1月11日(日) 大阪・大阪城ホール
2026年1月23日(金) 東京・国立代々木競技場第一体育館
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