音楽専門誌『ぴあMUSIC COMPLEX』連動企画
【WEST.レポート】7人の個性と観客の共鳴。WEST.がアリーナツアーで音楽を遊び倒す!
PMC編集部
第209回

「WEST. LIVE TOUR 2025 A.H.O. -Audio Hang Out-」5月2日 神奈川・横浜アリーナ (Photo:ハタサトシ)
5月2日、WEST.が9都市28公演で287,500人を動員予定している「WEST. LIVE TOUR 2025 A.H.O. -Audio Hang Out-」の神奈川・横浜アリーナ公演を行った。当日は、ライブ中メンバーが何度も「雨の中、来てくれてありがとう!」と口にするほどの悪天候だったが、そう言われるたびに「そういえば外は雨だったか」と思うくらい、7人はとびきりのエンタテインメントを見せてくれた。
筆者が彼らの単独公演を観るのは、昨年8月に開催された「WEST. DOME TOUR AWARD ~10th Anniversary~」の東京ドーム公演以来。前回は、10年の歴史を振り返ることがテーマの一つとしてあり、初見の人間ですら泣きそうになるくらい感情を揺さぶる壮大なライブとなった。今回は11枚目のフルアルバム『A.H.O. -Audio Hang Out-』を引っ提げたツアーとして、“令和7年のWEST.”としての色合いが濃い、“Audio Hang Out=音で遊ぶ”に全振りした内容となった。
この日、2時間半の間に繰り広げられた音楽性は多岐にわたった。ニューアルバム『A.H.O. -Audio Hang Out-』の楽曲を基軸に展開し、AHO全開のタイトル曲「A.H.O.」はもちろん、メンバーそれぞれが制作に関わった7曲も全て披露。ロック、ポップス、ソウル、ヒップホップ、ダンス、EDM、沖縄民謡……これでもまだ挙げていないジャンルがあるんじゃないかと思うくらい、全33曲にわたって幅の広いサウンドに歌を乗せ、演奏し、踊る7人。普通なら絶対にまとまらないような音の集合体を、1本のコンサートとして完璧に成立させているのがすごい。
王道のダンスチューン「Beautiful」では藤井流星を中心に抜群の表情管理と軽やかなステップでファンの心を打ち抜き(自分も思わず声を上げた)、センターステージに設置された、ベッドルームを思わせるムーディーなセットで展開した「Sweety」では小瀧望がとろけるようなファルセットを響かせ、梅田サイファーが手がけたストレートなヒップホップチューン「WESTraight」では神山智洋がルードかつ、キレのあるラップで切り込む。かと思えば、沖縄ソング「ティダ」では桐山照史が穏やかな笑顔で三線を奏でる――といった具合に、各メンバーが自身の武器を存分に振り回し、全体を牽引する。個性派揃いの7人によるユニゾンは、10年を経て、なんとも温かく、絶妙なコンビネーションを得ていた。ツアーの演出を藤井が手がけていることも、自分たちの中にあるWEST.像を自ら形にすることが、パフォーマンスの説得力につながっていることは間違いないだろう。そうでないとこの2時間半を作り上げることはできない。
重岡大毅が作詞作曲、また振付まで手がけたという「それいけベストフレンド!」を聴きながら思い出したことがある。前回の東京ドーム公演でハッとさせられる瞬間があったのだ。それはライブ終盤での中間淳太のMC。あの日、彼は「アイドルって夢を見せる仕事でしょって言われるけど、逆やなと。みんなに夢を見せてもらってる。僕らが見せてるのはまぎれもない現実です」と伝えた。「それいけベストフレンド!」では<頑張ってんだろ ヘイどうだい?><勝てなくてもいい ただ負けないで>と歌われるが、たしかに、WEST.は夢みたいなことは歌わない。幻想も見せない。しかし、たとえ普段の生活がため息の出るようなくだらないものだとしても、「まあ、もう少しがんばってみるか……」と思わせてくれる。<それいけ頑張ろう>とやさしく背中を押し、隣で寄り添ってくれる。7人のパフォーマンスにはそういうパワーがあった。それもまた、WEST.というグループがもつ天性の能力であり、10年以上の時間をかけて大切に培ってきた感覚ではないだろうか。
「エスコートしますので、よかったら一緒に歌ってください」と濵田崇裕が優しく観客を導いて大合唱した「この旋律よ 誰かの歌になれ」もそうだ。<二度とはない感情 歌うよ 全部 歌うよ 世界中の賞賛より 誰かの歌になれ>と歌われるこの曲に、WEST.というグループの本質が詰まっているように思う。生きづらく感じることの多い世の中だが、彼らの一挙手一投足を受け止め、ともに声を上げて歌っていると、ふと心が軽くなる瞬間が何度もあった。

もちろん、シリアスな場面ばかりではない。彼らのライブでは恒例となっている笑いがあふれるコントコーナー「中間ん家物語」があるのもいい。実は、アイドルによるコントに対して筆者はあまりいい印象をもっていない。大抵の場合、お寒い結果になるからだ。しかし、WEST.は違う。しっかり面白い。声を出して笑える。コントだけでなく、ほかにもいい意味で“AHO”な時間が多々あった。もちろん、誰のことも傷つけはしない。自分たちの見せたいものを押し付けるのではなく、ファンに寄り添いすぎるわけでもない。こういったバランスのとり方がWEST.は本当に巧みだ。このコントのあとに用意されていた曲もよかった。5月7日にリリースされたばかりの新曲で、トータス松本が作詞作曲を手がけたファンクチューン「ウェッサイソウル!」を絶妙に組み込んできた。本公演のベストモーメントの一つはここだ。

本ツアーの参加を控えている人たちのためにネタバレはなるべく少なくしたいのだが、演出についても触れておきたい。無線制御型のペンライトが非常に効果的だった。“AHO”ほど客席がカラフルになり、ここぞという場面で真っ白に点灯させ、楽曲の世界観に合ったカラーを放つ。それは、まるで観客一人ひとりがステージに参加しているよう。また、センターステージやバックステージ、さまざまなサプライズでメンバーとの距離をグッと近く感じる演出も随所にあった。ちょっとの工夫、ちょっとの心遣いで、コンサートをより楽しく、刺激的なものにしていた。このレポートを読んでいる人の中には、WEST.のライブを観たことがなかったり、結成10周年を超えたグループだからライブに参加しづらいと尻込みしている新規のファンがいるかもしれないが、7人はいつだって両手を大きく広げて待っている。そこに飛び込むことができた自分は幸運だと思う。
5月10日(土)、WEST.は「METROCK 2025」に登場する。2022年に同フェスの大阪会場に初出演を果たし(2021年にも出演が予定されていたが、コロナ禍のため中止)、昨年の東京会場に続き、東京・海の森公園に会場を移した今年は「GREEN FOREST」ステージのトリを任されることとなった。横浜アリーナ公演でも明かされたWEST.初主催となる野外フェス「WESSION FESTIVAL 2025」(10月12・13日大阪・万博記念公園)のプロローグとして、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか。本当に楽しみだ。
なお、5月21日(水) 発売の『ぴあMUSIC COMPLEX(PMC)Vol.36』では、同横浜アリーナ公演と「METROCK 2025」におけるWEST.のライブレポートを掲載。そちらもぜひともチェックを!
Text:阿刀大志 Photo:ハタサトシ
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MOVIE info.
WEST.7人主演映画『裏社員。-スパイやらせてもろてます-』
公開中
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PROGRAM info.
WEST.新音楽番組スタート「WOWOW×WEST.“WESSION”」
6月29日(日) 午後9:00スタート(全5回)
#1 MONGOL800
LIVE info.
「METROCK 2025」
WEST.の出演は5月10日(土) 18:05〜GREEN FORESTステージ
https://metrock.jp/index.html
「WESSION FESTIVAL 2025」
10月12日(日)・13日(月・祝) 大阪・万博記念公園 東の広場
※各日の出演アーティストは後日発表
https://www.wowow.co.jp/event/wession/
「LIVE AZUMA 2025」
WEST.の出演は10月19日(日) 福島・あづま総合運動公園・福島あづま球場
https://liveazuma.jp/