音楽専門誌『ぴあMUSIC COMPLEX』連動企画

入場規制を記録したMrs. GREEN APPLEのロングレポを含め、ALICIA KEYSがヘッドライナーを務めた「SUMMER SONIC 2025」DAY2をレポート

PMC編集部

第227回

Mrs. GREEN APPLE (Photo:川崎龍弥)

8月16〜17日、国内外のアーティストが集結するインターナショナルフェスティバル「SUMMER SONIC 2025」(以下、サマソニ)が東京・大阪の2ヶ所で同時開催された。8月17日、東京会場(千葉・ZOZOマリンスタジアム、幕張メッセ)2日目のレポートは、YMOやサカナクション関連のオフィシャルライターであり、『PMC』ではMrs. GREEN APPLEの取材・執筆を担当している布施雄一郎よりお届けする。

Mrs. GREEN APPLE(Photo:川崎龍弥)

フェス日和と呼ぶには少々強すぎる陽射しではあったが、何はともあれ晴天の下で迎えることができた「SUMMER SONIC 2025」東京会場の2日目。その熱狂に、開演前から驚かされた。

MARINE STAGE(ZOZOマリンスタジアム)への道のりは、最寄の海浜幕張駅から通常なら徒歩15分程度。混雑を予想し、時間に余裕を持って会場を訪れたつもりだったが、開演1時間前の時点で、既に入場口(リストバンド引換所)まで長蛇の列。迂回路も含めたその距離は約1.6kmもあった。要因は、すぐに思いつく。もちろん、スタッフサイドの不手際などではない。MARINE STAGEのトップバッター、Mrs. GREEN APPLEへの期待がそのまま“行列”という現象で可視化されていたのだった。

ここ数年にわたるMrs. GREEN APPLEの快進撃について、音楽ファンに対して今さら説明する必要はないだろうが、チャート上位を常時独占し、国内ストリーミング総再生100億回を達成した史上初のアーティストとなり、そして今年はデビュー10周年というアニバーサリーイヤー。7月26・27日には、神奈川・山下埠頭特設会場において2日間で計10万人を集めた記念ライブ「MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE 〜FJORD〜」も開催した。ただ、そんな彼らにとっても、この日はいつもとは違う。必ずしも観客は彼らのファンばかりではなく、ホームとは言えない環境。しかも、国籍も音楽ジャンルも多種多様な音楽ファンが集う「SUMMER SONIC」のステージだ。そこでMrs. GREEN APPLEがどんなパフォーマンスを観せてくれるのか、強い関心を持ってMARINE STAGEへ入ったわけだが、結論を言えば圧巻であった。

開演時間の午前11時を迎えようという段階で、すでにフィールド・スタンド席ともに満員に。スタンド席の通路は、もう空席がないため観客は動けず、まるで満員電車のような混雑ぶりであった(ほどなくして入場制限がかかり、Mrs. GREEN APPLEは前代未聞の、トップバッターとしての過去最高動員数を記録する)。そんな中でステージのライトが点滅し、LEDスクリーンがグリーンに染まると、3万5000人の大歓声が沸き上がる。スタジアムにモールス信号が響き渡り、大森元貴(Vo & G)が「熱中症、気をつけて!楽しい一日にしようぜ、よろしく!」と叫ぶと、「ANTENNA」からライブはスタートした。

野外という場でも、いや、野外という場だからこそ、大森の歌が持つ、張りのある芯の強さとソフトな声色のダイナミクス、低音域の響きから空に抜けるようなファルセットまでを自在に歌いこなす表現力に圧倒される。藤澤涼架(Key)は終始笑顔で観客に手を振り、若井滉斗(G)はギターヒーロー然とした寡黙な表情でタッピングソロを弾きまくる。サポートメンバーは、神田リョウ(Dr)、二家本亮介(B)、兼松衆(Key & G)という先の記念ライブと同じ盤石の布陣で、安定感のさらに一歩先を行く、実にアグレッシブな演奏を聴かせてくれた。そこに、ウォーターキャノンやスモークといった演出までが加わり、まるでワンマンライブを観ているかのようなステージングだ。

Mrs. GREEN APPLE(Photo:川崎龍弥)

それに対する観客の反応はと言うと、先に「ホームとは言えない環境」と述べたが、この1曲目で、それは間違いであったことをあっけなく思い知らされた。間違いなく、MARINE STAGEは完全にホームであった。もっと正確に言えば、Mrs. GREEN APPLEが「ホームに変えた」のだ。観客の中には、当然ながら「何曲かしか知らない」という人や、「この機会に観てみるか」といった初Mrs. GREEN APPLEという人も少なくはなかったはず。そういう人たちに「ああ、Mrs. GREEN APPLEって、やっぱり本当にすごいんだな」と納得させるに十分すぎるステージであった。

「SUMMER SONIC」に来るような音楽好きにも、彼らが持つ音楽性と技量がちゃんと伝わるんだということを証明したと言っても過言でないだろう。観客が自由に身体を揺らし、いつもとは違ったポイントで歓声が上がる光景は、実に痛快であった。

Mrs. GREEN APPLE(Photo:川崎龍弥)

中でも、「青と夏」と、そのセルフアンサーソングである「ライラック」がはじまった瞬間の大歓声には、この2曲がいかに世の中に浸透しているのかを実感させられた。その一方で、チャート的人気曲のオンパレードではなく、久々に歌われた「Blue Ambience」(原曲はasmiとコラボレーションした男女高速BPMデュエット曲であり、それを大森がソロ歌唱するというレアパフォーマンスでもあった)や、ジャジーなグルーブの「Feeling」などをセットリストに入れ込んでくるあたり、全7曲でもきちんとストーリーを描くあたりもさすがのひと言。ファンのみならず、Mrs. GREEN APPLEビギナーにも新たな発見がたくさんあったステージだっただろう。

「Mrs. GREEN APPLEだから、楽しい」という人と、「楽しい音楽が、Mrs. GREEN APPLEだった」という人が入り混じる光景は、まさに多様性を具現化したこのフェスの醍醐味そのものであり、彼らが2025年、「SUMMER SONIC」のMARINE STAGEに立ったことの意義に深く頷いたパフォーマンスであった。

JO1

その熱気を引き継ぎつつも、独自のスタイルで新たな熱気へと導いたのが、続くJO1だ。誰もいないステージに指揮棒を持った川尻蓮が登場し、深々と一礼すると、仮面姿に黒いマントを羽織ったダンサーが合唱団かのごとく、次々とステージに現れる。彼らが、川尻の指揮と生バンドの迫力ある演奏に合わせてダイナミックなダンスを披露すると、ほかのメンバーはいつ姿を見せるのかと期待は最高潮に。その瞬間、聴こえてきたのは「BE CLASSIC」のイントロであり、すると仮面と黒マントを脱ぎ捨てたメンバーが次々に登場するという驚きのスペシャルパフォーマンスで、観客をいきなりヒートアップさせた。「Love seeker」のコール&レスポンスや「Test Drive」でのタオル回しで会場を一体にさせたかと思えば、豆原一成が「秦基博さんが提供してくださった新曲です!」と紹介し、柔らかいピアノがフィーチャーされた新曲「ひらく」を初披露。JO1の多角的な魅力を存分に凝縮し、発揮したステージで観客を楽しませた。

BE:FIRST

続いてMARINE STAGEに登場したのは、5年連続出演を果たしたBE:FIRST。初のワールドツアー「BE:FIRST World Tour 2025 -Who is BE:FIRST?-」を7月5日に終え、3年ぶりのMARINE STAGEでよりワールドワイドに成長したパフォーマンスを披露してくれた。

重低音のヒップホップビートとともにメンバーがゆっくりとステージに登場。「GRIT」「Mainstream」で観客のグルーブをしっかり掴むと、ここから生バンドのサウンドをバックに「Set Sail」へ。メンバー全員がステージ上手から下手まで広がり、多くの観客とコミュニケーションをはかると、「Brave Generation」では力強いダンスブレイクで観る者を魅了。「Don’t Wake Me Up」では、しっかりと歌をスタジアムに届けた。「Great Mistakes」の間奏では、SOTAが「オレたちが初めて立ったステージがここMARINE STAGEなんで、めちゃくちゃ感動してます」と語り、続いてLEOの「ワンピース好きな人、どれくらいいる?」という呼びかけから「Sailing」へ。「Bye-Good-Bye」で盛り上がりをダメ押しすると、最後に「夢中」を披露し、それまでの会場の熱気に、軽やかな風を送り込んだ。

その後、MARINE STAGEにはラテン音楽界のスーパースター、J BALVINが登場。コロムビアが誇るヒップホップとレゲエを融合させた本場のラテン音楽=レゲトンでスタジアムをハッピーな空気で包み込むと、フィールドの観客は、南米などラテン各国のフラッグを振り大いに盛り上がった。それと近い時間帯にSONIC STAGEで初来日のステージを飾っていたのがSOMBRだ。この春、アメリカとイギリスのSpotifyチャートで急上昇した注目のソングライターで、日本ではデジタルシングル「back to friends」しかリリースされていないが(8月22日にアルバム『I Barely Know Her』が配信開始)、彼が放つカリスマ性を感じさせる独特のオーラ、The 1975を彷彿とさせる歌の色気、そして洗練されたサウンドで、実に素晴らしいステージであった。

J BALVIN

また、音楽ストリーミングサービスSpotifyが注目する次世代アーティストが出演するSpotify Stageでは、ボーカルAsakuraのしなやかな表現力とバンドアンサンブルの完成度が高かった福岡在住4ピースバンドmuque、菅田将暉やKing & Princeに楽曲提供を行いつつ、自身もアーティストとして活動するマルチクリエイターMega Shinnosukeのサウンドが耳を引いた。

SOMBR
muque

そしてMOUNTAIN STAGEに登場したのは、ヒップホップシーンで独自のスタイルを貫き君臨するラッパー・プロデューサーの21 SAVAGE。彼がステージに出てきた途端、会場は異様な盛り上がりを見せ、誰もが21 SAVAGEの来日を待ち望んでいたことがひしひしと伝わってきた瞬間であった。もちろん、それに応えるに十分すぎるほどのパワフルなステージを彼は展開し、この日のベストアクトに21 SAVAGEを挙げた観客は多かったことだろう。

ALICIA KEYS

すっかり空は夜の気配をまとい、MARINE STAGEの全ての照明が消されると、静寂の中で柔らかく艶のある歌声が響き渡った。そして、ステージ中央にスポットライトが当たると、そこに浮かび上がったのはピアノを弾きながら「Fallin'」を歌うALICIA KEYSの姿だ。グラミー賞17冠というソウルディーバソングライター。その12年ぶりとなる来日ステージに観客は沸き立つものの、歓喜すると言うよりも、彼女の歌を聴き逃すまいと耳と心を傾けようとする静的な熱量がスタジアムに充満していった。

そんな観客のある種の緊張感を和らげるかのように、グルービーな「New Day」へとつなげていくと、とにかくMCなし、曲間もほぼなしで(曲によってはつなげて)、唯一無二の歌声とバックミュージシャンのグルーブだけで約70分のステージを熱狂させるのはさすがというほかない。しかも、愛と自由に満ちたエネルギーで満たしながら、「これぞフェス」と言うべき彼女自身の代表曲を惜しみなく披露していった。

そしてスタジアムを驚かせたのは、ALICIA KEYSの「シスター!」のかけ声でステージに姿を現した、Awich、NENE、LANA、MaRI、そしてAIというサプライズコラボレーション。この6人による「Bad Bitch 美学 Remix」は、想像を超えた化学反応を起こしただけでなく、女性の地位向上を目指す活動に長く取り組むALICIA KEYSの思いを強く感じさせる彼女の“姿勢”でもあった。

こうして会場の熱気がピークを迎えたあとも、全米No.1ソング「Empire State of Mind」では“NEW YORK”というフレーズを“TOKYO”と替えて歌ったり、ダンサーが登場してのEurythmicsカバー曲「Sweet Dreams」からラテンテイストの「In Common」へのつなぎで観客を大いにわかすと、ラストの「No One」では再びAIがステージへ。何とAIの代表曲「ハピネス」とのマッシュアップを披露した。これには、スタジアム全体が歓喜に包まれ、互いにリスペクトを込めた2人のパフォーマンスは実に感動的だった。

ALICIA KEYS

そのエンディング。2人で手を取り合いセンターステージへと歩みを進めると、そこでALICIA KEYSはAIとハグを交わし、最後に観客に語りかけた。この10日間ほどを日本で過ごし、各地で優しさ、親切さ、寛大さ、そして光を感じたことに対して感謝を述べ、観客にスマートフォンを夜空に掲げてスタジアム全体を照らそうと伝える。その光は、“一人一人の内面=本当の姿”だ、と。

「私にみなさんの本当の姿を見せてくれ、この世界がどれほど美しいものなのかを教えてくれたことに、心から感謝しています。この光を、どうかどこへ行っても輝かせ続けることを忘れないでください。そして、憎しみを消し去りましょう。偏見を消し去りましょう。私たちの、本当の姿ではないもの全てを、消し去りましょう」

彼女の言葉だからこそ心に響く、深みと重みを持つ強く温かいメッセージ。続けてALICIA KEYSは、自身のバックバンドと今夜共演した「すべてのクイーンたち」への拍手を求めると、最後に「自分自身を愛する気持ちを聴かせてください!」と呼びかけ、センターステージから全ての方向に手を高々と上げ、大歓声に応えた。すると、MARINE STAGEの後方からフィナーレを告げる花火が上がり、感動的なALICIA KEYSのステージ、そして2025年の「SUMMER SONIC」は幕を閉じた。

ALICIA KEYS

Text:布施雄一郎