音楽専門誌『ぴあMUSIC COMPLEX』連動企画
吉井和哉が4年ぶりのソロ新曲「甘い吐息を震わせて」を発表。THE YELLOW MONKEYの完全復活を経て、駆け抜ける今を語る。
PMC編集部
第235回
吉井和哉 (Photo:藤井拓)
日本テレビ系ドラマDEEP『そこから先は地獄』の主題歌としてオンエア中の、吉井和哉の新曲「甘い吐息を震わせて」。THE YELLOW MONKEY「砂の塔」(2016)のストリングスアレンジも手がけた船山基紀を共同プロデューサーに迎え、吉井自身のルーツでもある歌謡曲〜昭和R&Bのテイストを濃密に漂わせる同曲は同時に、「2020年代のシーンに生きるソロアーティストの覚悟」をその歌とサウンドの奥にリアルに息づかせている楽曲でもある。
ソロとしては2021年の「○か×」以来約4年ぶりの配信シングルとなる「甘い吐息を震わせて」。ソロツアーの中断と闘病生活を経て、1年がかりのTHE YELLOW MONKEYのツアーで完全復活ぶりを体現した吉井は、楽曲制作の経緯のみならず、ソロとバンドの今の位置付けについて、さらには12月5日(金)公開のドキュメンタリー映画『みらいのうた』についてじっくり語ってくれた。
──9月3日に、THE YELLOW MONKEYのロングツアー「Sparkleの惑星X」がファイナルを迎えました。このツアーをどのように振り返っていますか。
吉井 個人的には、自分の喉の病気を克服するという大きなテーマがあるツアーでした。ツアーは、自分の人生の中で、要所要所で成長の記録として残るので。メンバー、スタッフ、オーディエンスの方々にご協力いただいて、新たな成長の記録として無事に終えることができました。ありがとうございました。
──メンバー自身からの「おかわり」によるセルフアンコールまで含め、約1年間に及ぶツアーになりましたが、吉井さんのコンディションもどんどん向上していきましたし、それがバンド全体のダイナミズムにも影響していったと思います。
吉井 そうですね。バンド自体が──「僕のことをサポートしてくれる」という部分を差し置いたとしても、すごく大きくなったと思いますし、音も強くなってる。そして、人間的な魅力も増したような気もします。相変わらずバカ言いますけどね(笑)。オーディエンスもやっぱり、同世代の方もいるし、僕のそういう姿を見てエネルギーにしてくださった方もいるようですし。そういう意味では、公演を重ねるごとにたくましくなって、本当にステージの上がったようなツアーでした。病気のステージは上がりたくないんですけど(笑)、人間のステージは上がったような気がします。
──今回は吉井和哉としてのソロ活動のニューシングル「甘い吐息を震わせて」についてのインタビューをさせていただくわけですけども。一体いつ録ったんだろう?というのがまず気になりまして。
吉井 確かに(笑)。2020年、コロナ禍にTHE YELLOW MONKEYは大変な1年があって。一度活動がお休みになり、ソロ活動がスタートしたんですね。曲も「みらいのうた」とか「○か×」ができたりして。で、アルバムに向けて楽曲をいろいろ作っていくうちの1曲が、この「甘い吐息を震わせて」でした。その後、THE YELLOW MONKEYをやりながら制作は進んでいたんですけど、僕が病気になって──その後バンドの東京ドーム公演の日程が決まってきたので、「まあ、THE YELLOW MONKEYのアルバムのほうが先だろう」ということで、一度ソロの制作が止まって。そうは言いつつ、船山(基紀)さんにストリングスとホーンセクションのアレンジをしていただいていて、THE YELLOW MONKEYの活動中に、歌入れを残すのみという状態まで、実は裏で進めていたんです。で、何曲かをタイアップのプレゼンに提案したら、この曲を選んでいただいて。なので、歌入れをやったのが……(千葉・)LaLa arena TOKYO-BAY(ツアーファイナル「Sparkleの惑星X -ネ申-」/9月3日)の直前かな。
──かなりスリリングなスケジュールですね。
吉井 「おかわり公演」をやりながら、歌詞を書きながら、レコーディングしてたから(笑)。歌い出しの1行目とか、サビの1行目だけは、デモの段階からできていて。他のパターンも考えてみたんですけども、どうもそこから抜けたくないという気持ちがあって。でも、今は年齢も年齢だし、コンプライアンスに抵触するような内容の歌詞になるのも嫌だなって悩んでいたんですけど。逆にそのタイアップが、夫婦の三角関係の話で、そのストーリーを元に、自分の今の気持ちとか、命のこととか、欲望とか、そういう部分を歌おうかなと思いました。これはもう、〈ネコニャンパリ〉(THE YELLOW MONKEY「CAT CITY」)のパターンですね(笑)。
──ドラマ『そこから先は地獄』も、タイトルもですが、公式サイトのキャッチコピーは「全員、不倫 誰かが死ぬ」と強烈ですからね。
吉井 (笑)。でも『そこから先は地獄』って、まさに僕の病気がそうですよ。発覚したときには「ここから先は地獄かな」みたいな。人生は一寸先は闇で、いつ地獄の扉が待っているかわからないし、逆にいつ天国の扉が待ってるかもわからない、っていうところで歌詞を書きはじめました。
──船山さんにアレンジをお願いしようというイメージは当初からあったんですか。
吉井 病気をする前は、自分的にもソロの方向性を悩んでいた時期でもあり、THE YELLOW MONKEYの方向性にも悩んでいたので、「バンドとソロとどう住み分けするのか?」「どうしていこうかな?」ってなかなか定まらなかったんですよ。なので、THE YELLOW MONKEYでもソロでもプレイしてくれている鶴谷(崇/Key)くんに、「メロディはこのままで、コードだけアレンジしてみてくれない?」とお願いして。僕のデモも活かしつつ、「ここはこういうコードもいけますよ」ってやってもらって、それが一風変わった響きになっていて、すごく新鮮でした。これにストリングスやホーンセクションを加えて、昭和R&Bみたいなテイストにしたかったので、たとえばアメリカのスタックスレコードとかフィリーソウル(フィラデルフィアソウル)とか、それに影響を受けた昭和48年〜49年ぐらいのあの感じをミックスさせいなと。それで、必然的に船山さんの顔が浮かんできたんですね。で、船山さんから内沼映二さんという、御年81歳のレジェンドエンジニアの名前が挙がり──「長崎は今日も雨だった」(内山田洋とクール・ファイブ/1969年)がほぼ処女作、という方なので。僕としてはぜひ、お元気なうちにお願いしたい!と思いました。
──日本の音楽史に連なる制作でもあったわけですね。
吉井 そうですね。音楽ファンとしてもすごくワクワクしたし。その2人が見守る中で歌入れもしたので、ほんと新人みたいな感じですよ(笑)。そもそもはKinKi Kids(当時)に提供した「薔薇と太陽」で初めて船山さんとご一緒させていただいて、THE YELLOW MONKEYの「砂の塔」でもアレンジをお願いしたんですけども。船山さんのディスコグラフィを見ていただければ、それこそ「勝手にしやがれ」とか、僕が子どものころに聴きなじんだ楽曲ばかりなんですよ。今もやっぱり、その感じに触れると、泣きそうになるぐらい興奮するし。それは歌謡曲だけじゃなくて、当時のベースになっている洋楽も含め、何か琴線に触れるものがあって。結局、「みんなに口ずさんでもらう歌」「みんなが覚えやすい歌」「いつまでもどこかで流れている歌」が好きなんだなと。もちろん、若い人の音楽も気になるし、いいと思う音楽もたくさんあって。例えば、海外だと、若い方がクラシックロックとか、古いものへのリスペクトの仕方があった上で新しいものを出していますけど、そういうものにそこはかとない魅力を感じるし。カントリーが根付くとともに、アップデートしたシーンもあったり、クラシックロックが根付いているシーンもあったりする中で、そういう軸は忘れたくないなって。多少時代遅れだって思われてもいいやって(笑)。この曲、極端に間があるんですけど、それも、時代へのアンチテーゼ的なところがあるのかもしれないですね。普段だったら、もっと間を埋めてると思うんですけど、一つのパートの中で、歌がないところは2小節空いてますからね(笑)。日本のシーンにおいては、今の若い方には、2小節空けることなんて無理だと思う。
──THE YELLOW MONKEYの活動もあり、当初の制作から時間は空きつつも、そういう吉井さんの核心と今のモードが反映された楽曲であることは伝わってきます。
吉井 あとは正直、年齢のこともあると思うんですよ。僕は来年60歳になりますけど、その年齢でここ1〜2年のTHE YELLOW MONKEYの活動──アルバムもリリースしてツアーもやって、それをやりつつソロ活動をやるって、結構なスピード感なんですよ。ただ、ソロ活動はツアーを途中で中止にして終わってしまっているので。それが自分的には一番心残りというか、あのとき楽しみにしてくれていたファンのためにも、やっぱり再開したいなと思うし、今、それができそうで。まずはよかったなと思いますね。
──今は本当に、バンドとソロと、両方いいスタンスで実現できていると思います。
吉井 そうですね。僕、ソロを始めた時って、歌詞のボキャブラリーに煮詰まってなかったんですよ。歌詞で書きたいことがすごくあって。文句も含めてね(笑)。それってアーティストにとって重要なことなんですよ。「書きたいことがない」っていうのが一番マズい。でも、今、すごくそれがあって。バンドはサウンドも含めて、みんなで作っていくよさがあるけど。ソロって、サウンドは人に任せてもいいし、下手したら作曲だって任せてもいいわけで。さすがに「歌唱を別の人で」っていうとまた違ってくるんですけど(笑)、僕のこの声でよければ、「この声で歌える僕の今の言葉」を、ソロではやりたいなと。言いたいことがあるうちは、ソロを辞める理由がないというか。

──他にも制作が進んでいる楽曲はあるんでしょうか。
吉井 そのレジェンドチームでレコーディングしている曲が他にもあって、自分でも納得のいく詞が乗っているので。それを仕上げつつ……あとはコロナ禍、病気の間に書き留めていた曲もデモとして残っているので、また別のチームにお願いしても面白そうだなと思っています。もうちょっと自分がラクをして、もっといい音を与えてもらうというのもいいかなと。今までは自分でやりたがりなところもあったけど、THE YELLOW MONKEYの活動も充実してきたし、そういう心のゆとりもありますね。
──ということは、近々アルバムも──。
吉井 アルバムも来年(2026年)には出したいですね。あと、映画『みらいのうた』(12月5日に公開される、吉井和哉に3年間密着したドキュメンタリー映画)もね、これ絶対観てください。たぶん、想像してる内容とはかなり違う作品だと思うので。
──エリザベス宮地さんが監督なんですね。東出昌大さんのドキュメンタリー映画『WILL』を撮られたり、異彩を放つ監督です。
吉井 あの人は持っていますよ。あの人がカメラ回したら、トラブルばっかり起きる(笑)。ハートがいい人だから、こっちもごほうびしてしまうというか。普通なら撮ってもらいたくないところもあるんだけど……やっぱり人間の才能がすごいんじゃないですかね。そうじゃないと踏み込めない領域にまで踏み込んでいるし。気づけば僕の実家にいましたから。親父の仏壇の前に……(笑)。作品の色合いも時代性も持っているし。愛の部分もシニカルな部分も、わざとらしくなく滲み出るじゃないですか。だから──僕の懐も炙り出されていると思います(笑)。
Text:高橋智樹 Photo:藤井拓
DIGITAL SINGLE info.
「甘い吐息を震わせて」
10月8日(水)配信リリース

DL /ストリーミング:
https://yoshiikazuya.lnk.to/amaitoikiwo-furuwasete
吉井和哉「甘い吐息を震わせて」Lyric Video
LIVE info.
「吉井和哉 TOUR2025/26 ⅣⅣI BLOOD MUSIC」
2025年12月4日(木)KT Zepp Yokohama
2025年12月13日(土)アイプラザ豊橋 講堂
2025年12月19日(金)ロームシアター京都 メインホール
2025年12月28日(日)日本武道館
2026年1月15日(木)Zepp Haneda
2026年1月20日(火)Zepp Fukuoka
2026年1月23日(金)名古屋COMTEC PORTBASE
2026年1月27日(火)Zepp Osaka Bayside
2026年1月31日(土)SENDAI GIGS
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2562600
MOVIE info.
映画『みらいのうた』
12月5日(金)全国公開
監督:エリザベス宮地 出演:吉井和哉 配給:murmur 配給協力:ティ・ジョイ
映画公式サイト:
https://mirainouta-film.jp
(C)2025「みらいのうた」製作委員会