音楽専門誌『ぴあMUSIC COMPLEX』連動企画
日記から生まれる等身大の歌 高知発、シンガーソングライター八生
PMC編集部
第246回
(山崎智世=写真)
高知県出身高知県在住のシンガーソングライター八生(やよい)が、2025年3月にリリースした初のEP「はじまりのうた」から怒涛のリリースラッシュを続けている。ドラマ『完全不倫-隠す美学、暴く覚悟-』(日本テレビ系)の主題歌になった「しゅらばんばん」など、シニカルにユーモアをまぶしたような歌詞をパワフルなボーカルで歌い届け、徐々に頭角を現している彼女は、12月17日にデジタルシングル「オニオンスープ」を発表。これは、玉ねぎを切っていたときに流れた涙をきっかけに感情があふれて泣いてしまった、というエピソードを元に作られたストレートなバラード。新人らしい勢いを感じさせる彼女だが、実は高校生活をひっそりと生き抜くために書きはじめた日記が歌詞を書くきっかけになったという。そんな彼女の芯に迫った。
――八生さんは、曲作りは早いほうですか。
八生 けっこう遅いと思います。歌詞は自分の日記から書き起こして、別で作っていたメロディにそれを当てはめていくという、パッチワークみたいな作り方なので、上手くハマらなかったときに、メロディを変えるべきなのか言葉を変えるべきなのかというところで悩んで、すごく時間がかかります。
――作詞家としての自分と作曲家としての自分が独立しているんですね。
八生 でも、メロディを優先しがちなところがあります。やっぱり人に聴いてもらったり歌ってもらうためにはより耳に馴染むメロディや譜割りじゃないといけないから、そこを意識しないといけないなと思っています。
――シンガーソングライターになる前、八生さんはバンドをやりたいとは思わなかったんですか。
八生 やってみたいとは思っていたし、高校時代には軽音部にも誘われたこともあったんですけど、陽キャみたいな子がいっぱいいて、「怖い怖い、入っていけない……」って(笑)。あと、学校が家から遠くて片道1時間半くらいかかるから、家で1人でやるほうがいいかって。でも、バンドはカッコいいなと思って憧れの目で見ていましたし、それと同時に悔しくもありましたね。そんな感じの学生生活でした。
――その高校に通っていたのは、地元では八生さん1人だったそうで。
八生 そうなんです。しかも、ものすごく人数が多い学校だったから、「どうやって馴染んでいこう……」って。さらに、女子と男子の割合が9:1くらいだったから、女子に目をつけられたらもう終わりなわけですよ。だから、小さな社会の中で波風を立てないように生きるのに必死で、周りに対していつもいい顔をする子だったと思います。
――そういう環境が八生さんに日記を書くきっかけを与えたんですね。
八生 もともと「これ言ったら嫌われるかな」みたいなことばかり考えちゃうから思っていることをちゃんと話せなくて。言いたいことが全然言えない、その代わりみたいな感じで日記をつけはじめて。で、ただ書いてるだけでもよかったんですけど、これを何か形にできないかなと思って歌詞を書きはじめたんです。

――でも、歌詞には他者に対するネガティブな思いはストレートに反映されていないですよね。必ずユーモアを交えて表現していて。
八生 うん、笑ってほしいんですよね。ガツンといくのもいいんですけど、クスッとくるくらいの笑いもあればいいなって。
――ストレートにネガティブな感情を吐き出すのはちょっと抵抗があったりする?
八生 めちゃくちゃあります。どっちかというと明るい人だと思われたいんで。人って陰な部分と陽な部分、どっちも持っているじゃないですか。高校時代には自分の陰の部分に気づかされたけど、もともとは明るい要素もあるんだというところを作品を通じて表現したいんですよね。
――八生さんの歌からは人間性が垣間見えますよね。「この人、絶対いい人なんだろうな」って思いますもん。
八生 「いい人でありたい」っていうのがベースにあるのでうれしいです(笑)。でも、その裏側にあるのは、嫌われたくない迷惑をかけたくないっていうことで、それが音楽活動にいい影響を与えることもあれば、ストッパーになってしまうこともあるので、そこは活動を通してどう折り合いをつけていくのかを学びながら成長していけたらなと思っています。
――新曲「オニオンスープ」について聞かせてください。これはほろ苦い失恋ソングですが、オニオンスープという存在があることで、優しくて温かくて、悲しいだけで終わらない。そのバランスが心地いいと思いました。ピアノとストリングスを軸にしたサウンドもシンプルで、こういったJ-POPは久しぶりに聴きました。これはどんなときに浮かんだ曲なんですか。
八生 ある日、玉ねぎを3玉ぐらい切らなきゃいけないときがあったんですけど、常温保存してたのを切ったものだから涙が止まらなくて。しかもそのときは、仕事で大きなミスをしちゃっていろんな人に迷惑かけた時期だったこともあって、なんかわかんないけどそのまま泣いちゃったんですね。そのときに、「この涙を玉ねぎのせいにできないかな」と思って、そこからこの歌詞を書きはじめたんです。で、私の友人が2、3年同棲してた彼と別れるという大きな失恋をして、そのときに、1人分の料理って絶対作らないけど、恋人のためならどんなに手間暇がかかっても作るんだよねって話をして。だから、玉ねぎを切ったことをきっかけに書き始めて、友人とした失恋話によってできあがった歌になります。
――オニオンスープは僕も作ったことありますけど、飴色になるまで玉ねぎを炒めるのが本当に大変ですよね。
八生 しかも、ちゃんと見てないと焦がすし。
――そうそう。で、ようやく炒め終わったと思ったら、たくさんあったはずの玉ねぎがほんの少ししか残らなくて。料理は誰かのために作るからがんばれるというのはありますよね。愛情ですよ。
八生 そう、愛情。それを自分にも注いだれよって思うんですけど、誰かのためだからこそできるんですよね。私の同郷の大先輩、やなせたかしさんが生前に、「人生は喜ばせごっこ」とおっしゃっていて。それはアーティストとしてもそうなんですけど、ひとりの人間としても、人に喜んでもらうことを大切にしたいと思いながら生きてきたからこそ、オニオンスープをきっかけにいろいろと思い出せたのかなと思います。
八生「オニオンスープ」MV
――今はまだ地元の高知に住んでいるということですけど、拠点を東京に移したら歌うことも変わってきそうですね。東京に引っ越したいとは思わないですか。
八生 昔はめちゃくちゃ思っていました。そのためにオーディションもたくさん受けていたんです、「私はこんなド田舎を抜け出してやる!」って。でも、高知に住んでいるうちに、ここでしか書けない歌もあるのかなって思うようになって。今後、私のがんばり次第で東京に出てくることもあるかもしれないですけど、それまでは高知で書ける歌をしっかり書いていこうと思ってます。
――自分の成長に伴って、歌うことがどんどん変わっていきそうですね。
八生 そうだと思います。今は暗い歌が多いですけど、最近いろんな人に歌を聴いてもらえるようになって、ライブの後に物販でお客さんとお話をしているうちに、ちょっと暗い歌ももちろんいいって言ってくださるとは思うんですけど、もう少し晴れやかな歌もつくりたいなと思うようになってきました。
――シンガーソングライターとしての活動は、八生さんの成長物語でもあるんですね。
八生 うん、いい意味で変わっていってるな、成長しているなって思ってもらえるアーティストでありたいと思います。
――では最後に、2026年の目標を教えてください。
八生 これまでの話が台無しになるかもしれないですけど……売れる(笑)!
――いや、素直でいいと思いますよ(笑)。
八生 長いこと聴いてもらえるような曲を作るためには、まずはたくさんの方に私のことを知っていただかないとなと思っています。春に初のフルアルバムが出るんですけど、人生にはいいこともあれば悪いこともあるという感じで、山あり谷あり的な、波うったアルバムになるかなと思います(笑)。
――アルバムが出るということは、2026年はかなり大事な1年になりますね。
八生 そうですね。ライブも予定していますし。でも私、高校1年生のときに初めて東京でオーディションを受けたんですけど、肩に力が入りまくっていたんですよ。そしたら、一番聴かせたいところで声が裏返ってしまって……。その経験から、いい結果を出したいときは肩に力を入れすぎちゃダメで、いつもどおりに楽しまないといけないって思ったんです。だから、2026年もいつもどおりに、楽しんでがんばります!

阿刀大志=取材・文 山崎智世=写真
DIGITAL SINGLE info.
「オニオンスープ」
available now

配信リンク:
https://lnk.to/OnionSoup_dp
LIVE info.
「SANUKI ROCK COLOSSEUM 2026 -MONSTER baSH × I♡RADIO 786-」
3月21日(土) & 22日(日) 香川・高松市内各会場
※八生は3月21日(土)出演
イベント公式サイト:
https://www.duke.co.jp/src/