音楽専門誌『ぴあMUSIC COMPLEX』連動企画
【インタビュー】sumika×国民的作品『ドラえもん』をきっかけに生まれた「Honto」。同曲を含む全4曲で描かれる、sumikaの“ほんと”とは?
PMC編集部
第252回
(伊藤由圭=写真)
sumikaの2026年第一弾となる新曲「Honto」は、『映画ドラえもん 新・のび太の海底鬼岩城』の主題歌。国民的作品である『ドラえもん』にしっかりと寄り添いながら、でも同時に今のsumikaだからこそ歌えるメッセージの込められた、素晴らしい楽曲が誕生した。ここ数年、メンバーの体調不良などで3人そろっての活動がなかなかできていなかった中、アルバム『Vermillion’s』からはじまった2025年は3人で完走、アルバムやツアーで得た手応えは、またバンドを一つ強くした。さまざまな経験をしてきたからこそ、今の彼らが鳴らす音楽はとても優しく、とても正直だ。2月25日にリリースとなるシングル「Honto」に収録する全4曲はどれも、そんなsumikaの現在の姿をよく表していると思う。今回、同作について話を聞いた。
――『ドラえもん』の主題歌をやることが決まったときの気持ちはいかがでしたか。
小川貴之(Key&Cho) 最初は「嘘だ」って思いましたね。あまりにも予想していなかったことだったので。何しろ僕が生まれた時点ではもうドラえもんはいて、僕にとっても、みんなにとっても生活の一部で、当たり前の存在だと思うんです。だからこそ、そこで流れる音楽は信頼性を持っていないといけないなと思いました。
荒井智之(Dr) 同時にすごくうれしかったですね。昔から大好きだったし、自分たちが子どものころにワクワクドキドキした作品でもあったので、大人になって、今度はそのワクワクドキドキをドラえもんたちと一緒に伝える側で、一緒に肩を組んでお仕事できるっていうのは、すごく幸せなことだと思います。
片岡健太(Vo&Gt) でも仮に、これが1年前とかだったら結実しなかったのかもなと思ったりもするんです。たらればですけど。このタイミングだったから気持ちよく握手できたのかなと。ただ、その1〜2年前の大変な時期を身をもって知ったからこそわかる、人間のありがたさとか人間らしさというのを、すごく鮮度を持って表現できたと思います。
――『新・のび太の海底鬼岩城』という作品に対して曲を作っていくときに、いろんな切り口があったと思うんですけど、片岡さんの中ではどういうところに着眼して曲に向かっていったんですか。
片岡 一番大きいヒントになったのは、映画の中で、のび太くんが言っていた「人間って正解じゃないと思っててもやっちゃうことがあるんだ」という言葉で。その最たるものが、僕にとってはバンドなんです。「豊かな生活をしたいから、バンドを組みました」という理由でバンドを組むわけじゃない、むしろその真逆にあるというか。生産性とか合理性みたいなものの真逆にあるものを、ただやりたいからやっているっていう。それを続けてきた結果が今の自分なんですけど、そういった気持ちって、実は今、抱きづらい世の中になっているんじゃないかなと思ったんですよ。今はほとんどの方のスマートフォンの中にAIのソフトが入っていて、何かわからなくなったら相談して、合理的な、正確性の高い答えをすごいスピードで知れるわけじゃないですか。便利だからこそ、逆に正解じゃない自分の感情みたいなものを優先しづらい世の中にもなってきているかなと。だから、その中で自分の人生をちゃんと肯定するということも含めて、名前をつけることができたら、たぶんこの『新・のび太の海底鬼岩城』で伝えようとしているものと同じ速度で歩いていけるんじゃないかなって思ったんです。それでいろいろ思案を巡らせていった結果、「ほんと」っていうワードが出てきました。

――まさにそうやって、作品のテーマというか、裏側にあるものまで潜っていって、自分とリンクするところを探して生まれたのがこの「Honto」という曲だと思うんです。「作品と親和性が高いよね」というレベルの話じゃないなと。
片岡 この作品自体が、かなりわかりやすい二項対立が続いていく形になっているんですよ。地上と海底とか、海底の中にも文明が2つあって対立していて。映画で「水中バギー」のバギーちゃんというひみつ道具が出てくるんですけど、これはテクノロジーで、感情がわからないけど合理的な答えを出せる。対してのび太くんたちは、機械の感情、機械がなぜわかってくれないのかがわからない。そうやって対立しているものが、ずっとあり続ける中で、相容れないものに対してどう理解していくか、そんなクエスチョンがはっきりと出ていたんですよね。そこは現実でも、テクノロジーと人間がどうやって距離感を作っていけばいいのかってみんなわからないし、僕もわかっていないので。そういう、常日頃考えていたことが自然とリンクしてきたから、書きやすかったですね。
荒井 この「Honto」の歌詞はすごいです。このバランスを取れる人ってどのぐらいいるんだろうって思います。難しい言葉を使えばいいわけじゃないし、かといって、今回みたいなお話だと、簡単すぎてもダメだと思うんです。すごく難しいバランスなんじゃないかなと思う。片岡は「書きやすかった」って言いましたけど、大変だったと思いますよ(笑)。難しいワードは並んでいませんが、呼びかける言葉というか、「いいよ」とか「しよう」とか、そういうワードの印象がすごく強くて。そこも今まであまりなかったような気もする。
片岡 うれしい。
――本当におっしゃる通りで、人を巻き込んでいくというより、手を取り合っていく感じがこの歌詞にはすごくあって、「ほら、そうだよね」と仲間にしていく感じがすごくある。「俺はこれが言いたいんだ」と押し付けない。しかも、この曲、絶対に説教になっちゃいけないじゃないですか。
片岡 そうなんですよ。その「説教臭くない」というのはすごく大事なところだと思っていました。それは言い換えると「目線の使い方」で。大人から子どもに向けてってなると下を見るようになりますし、目線を合わせようとすると、大人が屈んで合わせにいくような感じになるんですよね。そこをどういうイメージで言葉にしていけばいいのかなっていう。
――なるほど。
片岡 そんなときにごはんを食べに行ったんですけど、そのお店がちょっと辛いものを出すお店だったんですよ。そのとき、僕の向かい側に、お父さん、お母さん、お子さんの3人家族がいたんですが、子どもに辛い食べ物を普通に与えていて、美味しそうに食べていたんです。そのとき、そもそも「子ども味」を作ってるのは大人なんだなと思ったんですよ。「辛いだろうから」って最初に転ばぬ先の杖を置いちゃうっていう。それは危険だなと思って。そのとき、今回やるべきなのは目線を合わせようとせずに、「目線はどこに行っても必ず合う」と信じることなんだと思いました。大人の目線、子どもの目線みたいな、目線の角度をつけずに作っていくことが、『ドラえもん』をスポーツに例えるならば、それがルールなんじゃないかなって思って、それでバーっと書けましたね。

――それこそ「正解」じゃなくて「ほんと」っていうことですよね。どうしても、うっかり正解を探しちゃうというか、やっぱり「子どもには子ども味がいいよね」みたいなことをよかれと思って押し付けてしまうみたいな瞬間はあるけど、それをしないようにするっていう。
片岡 そうですね。最後の〈本当をしよう〉のところもそうだし、サビの〈みれば〉という言葉にはかなり救われました。〈みればいい〉というのは本当にドラえもん的立ち位置だと思うんです。「笑えばいい」「泣けばいい」じゃなくて、「笑ってみればいい」「泣いてみればいい」。これはどこから見ても目が合うドラえもんのすごさだなって。僕自身もすごく勉強になりました。本当にいいタイアップだと思うんですけど、今までの数々のミュージシャンの方もそうですし、クリエイターの方々も、ドラえもんを通して得たものをその後のクリエイティブに活かしていった人がたくさんいたんだろうなと思うと、なんか宇宙を見てるみたいな気持ちでした(笑)。
――だから、そのまさに「どこから見ても目が合う」っていうのを、我々は今のsumikaに感じるわけですよ。
片岡 うれしいです。
――もともと来るもの拒まずだけど、よりそうなっていってるというか。曲やライブ、話す言葉にも、そうありたい、そうあるべきだと思っているのが表れていて。ドラえもんは、そう見えているんだなって思いました。
片岡 そうですね。ちゃんと弱いし、ちゃんと壊れているところがあるし(笑)。『ドラえもん』という作品名なのに、「ドラえもんがいないことをどうしよう」みたいな回もあったりするから。そこに関しては確かにリンクするというか。sumikaのライブなのに「ボーカルいないけど、いいのか」みたいなこともありますからね(笑)。
――それはよくないよ(笑)。
片岡 驚異のリンク(笑)。不完全な状態や満たされないときに、そこから救い上げてくれるものが芸術だと思うし、僕自身、そういうときに音楽を聴いちゃうんです。「人生最高だな」と思うときより、ちょっとうまくいかないときのほうが、音楽にすがってしまうものだったりするから。そういう弱ったマインドに対して手を差し伸べられる音楽を作りたいなと、改めて思いました。
――そんな「Honto」を表題曲として、このシングルには4曲収録されていて。おがりん(小川)は「Honto」と対を成すというか、双子みたいな「Blue」という曲を書いています。これはどういうふうに生まれた曲なんですか。
小川 ちょうど「Honto」を作り終えたタイミングと重なるんですけど、『ドラえもん』とずっと寄り添っているときに、改めてインスパイアされたというか。身の回りで起きていることや、自分自身のことを見回したときに、幼いころのほうが成長していくことの尊さを顕著に感じていたなと思い出したんです。ドラえもんはそういうヒントを与えてくれて、成長の過程を思い出として残してくれる存在だって思って。この「記憶として残すこと」って、すごく大切な行動だなと思ったんです。大人になった今でも、たとえば人と人の出会いを通して、得るものがたくさんあると思うので。その一つ一つを貴重に、尊く思えることは、人生の豊かさにつながるんじゃないかなと思ったんです。それを表現するために、自分自身に優しくなれる曲を書こうと思ってできました。

――サウンドもメロディもとても美しい曲で、そこに片岡くんが歌詞を書いています。
片岡 物語が一つあったとして、その見方って一つじゃないので。同じものを見つめていても逆サイドがある、太陽側から見ていたから今度は月側から見てみよう、みたいな考え方で。改めて『新・のび太の海底鬼岩城』の曲をもう1曲書くぞ、という気持ちで書いていきましたね。そこで一番大きいのは、小川くんがボーカルをやるというところで。僕じゃないもう1人のsumikaのボーカルが主題歌をやるという気持ちで書きました。
――歌の表現がすばらしいですよね。
小川 これは『ドラえもん』と作品を作っていく上で、優しさや温度感みたいなものが歌に入り込んだ感覚がかなりあって。一期一会じゃないですが、一つ一つを大切にしていくことがつながっていくんだなと改めて思いました。
――「Honto」と「Blue」って、真ん中にある気持ちは同じな気がするんですよ。「Honto」も優しい歌だし、「Blue」も優しい歌。その優しさの出し方、見せ方、表現の仕方が違う。それを象徴しているのが2人の声の違いなんだろうなと思います。そして残りの2曲も、すごくここにある意味がある。「赤春歌(feat. 幾田りら)」はもともとFM802のキャンペーンソングで片岡くんが書いた曲ですが、あれこそいろいろな人がいろいろなふうに歌う曲なわけじゃないですか。それをsumikaのセルフカバーとしてやるぞとなったときに、今度は幾田りらさんを連れてくるという。
片岡 去年のFM802バージョンは、オムニバス映画のようなイメージというか。sumikaで作るならどうしようかと思ったときに、もうちょっと長い、長編映画のようなものを作りたいなと思ったんです。曲の構成上、登場人物がもう1人必要で、対になる方がいてもらわないと成立しないなと思っていたときに、幾田さんの「吉祥寺」という楽曲を聴いて、こんな風景描写力を持ったボーカリストと一緒に「赤春歌」をやれたらめちゃくちゃよくなりそうだな、と思い浮かんで。ご一緒したいとお伝えしたんです。
――すごくいいデュエットになりましたよね。
片岡 声のキャラクターも全然違いますしね。育ってきた環境や年齢、いろんなものが違う2人でやっているという距離感が大事でした。近いから仲よくなったわけではなく、遠いからこんなにひかれ合ってるみたいなところをこの曲の歌詞では伝えたかったので、そういう距離感がほしかったんです。テンポや曲調はさておき、バラードっぽくなったなと思うんですけど、「1対1感」があってこそで、そこにsumikaでやる意味を見出せたのかなと思います。
――もともとこの曲が生まれた経緯も人の縁であり、回り回ってsumikaの曲としてシングルに収まったというのはsumikaらしいなと思います。そして残り1曲、「ルサンチマンの揺籠」という、謎のラッパーをフィーチャーしている曲がありますね(笑)。
片岡 ははははは! 謎のラッパーTが。
小川 Tは俺だったっていう(笑)。これは最初、瞬間火力のように、脈がパンと上に跳ね上がった瞬間をピアノで表現したいなと思ってリフを作ったんですよ。そして、そのピアノリフに合うビートを重ねていって。じゃあ「これに合う歌って何?」となったら、「もうラップしかない」と。もともと2人で歌う想定だったので、片方がラップをやって片方がメロを歌うというコントラストをつけられたらなと思っていました。
――作るきっかけはどういうものだったんですか。
小川 「怒り」とか、自分の中のモヤっとしている部分も曲にしたいなと思っていました。たぶん自分1人だけでは生まれなかったと思うので、この曲も人と人の出会いがあって見えた曲でした。

――人との出会いって、ポジティブな面もあれば、ネガティブな感情が生まれることもありますからね。この歌詞の人も、こんなに怒っているのは「あいつ」がいるからですし。
小川 そうですね。自分と比べる人がいるからこそ生じる感情みたいなものは嫌なものでもあるので。それが悪なのか善なのかはさておき、心の針がふれた瞬間みたいな。
――ちなみにラップはもともとお得意だったんですか。
小川 いや、めちゃくちゃ噛みやすいタイプなんで(笑)。ラジオでも早口言葉がコーナー化されるくらい苦手なんですけど。もともとは僕が歌う想定で進んでいましたが、片岡さんからの提案で、僕と逆さまになって挑戦してみようということで、片岡さんにディレクションをしてもらいながらやっていきました。
――ラップのディレクション?
小川 「もうちょっと面白いのちょうだい」って(笑)。
片岡 嫌なディレクターだな(笑)。
小川 本当にこの4曲の中のコントラストをちゃんと強められる1曲だと思うので。sumikaが今まで持っていた毒要素というか、ポップできれいなものだけではない、いろいろな失敗を重ねてきてここまで来ているわれわれの体の中にある毒みたいなものも、表現できているなと思っています。
荒井 デモの段階でいい曲だったし、選曲会議をやるときも「この曲はいいから、シングルに入れたいね」と話をしていて。得意分野を入れ替えてやってみるという新しい挑戦だし、今後のsumikaの「やってやるぞ」みたいな雰囲気を伝えられるのかなとは思いますね。それをこの4曲の中に入れるっていうのは、なかなかいいバンドだなと(笑)。

――いいバンドですよね。sumikaらしいなと思います。なんというか、『ドラえもん』の世界にもジャイアンとかスネ夫が必要なわけですし。
片岡 はははは! そうですね。ジャイアンとスネ夫がいない世界、僕は怖いと思う。「ジャイアンになりたくない」っていう人もいると思うけど、「それもいいだろう」っていう。「そういう感情、みんな本当はあるだろう」って、これからも隠さずにやっていきたいなと思います。
――そして4月からはツアーがはじまります。今回は「Unique」と名づけられています。
片岡 「ほんと」にたどり着いた人って、ほとんどの方がユニークになると思いました。ユニークって直訳すると「独特」という意味ですけど、ユニークと独特って同じ意味であっても、「ユニークですね」って言われるのと「独特ですね」って言われるのでは全然感じ方が違うと思うんです。見方を変えれば必ず活路があるということを僕らも活動の中で感じてきたし、その面白さを、1人1人に伝えられるようなライブができたらいいなって思っていて。それを楽しさとともに伝えられたら、すごくいいツアーになるんじゃないかなと思っています。
小川 やっぱり生活の中でライブ会場に足を運ぶことって大変だと思うんです。だからこそ本当にありがたいなと年々思うようになってきていて。今回のツアーで初めて行く場所もありますし、ファイナルでは久しぶりの日本武道館もありますが、それぞれの選択の先に「来てよかった」という気持ちが生まれるようなライブをしたいなと。
荒井 今、いろいろと準備をしていますが、実際にツアーを回って、ブラッシュアップしていきながら、各地を回らせていただいて、ファイナルのときにはどういうものに仕上がっているかというのが自分でも楽しみです。

小川智宏=取材・文 伊藤由圭=写真
CD info.
「Honto」
2.25 release



https://sumika.lnk.to/Honto_SG
LIVE info.
sumika Live Tour 2026 『Unique』
4月4日(土)千葉・市川市文化会館
4月11日(土) 福島・いわき芸術文化交流館アリオス アルパイン大ホール
4月12日(日)宮城・東京エレクトロンホール宮城
4月17日(金)石川・金沢歌劇座
4月19日(日)長野・キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
4月24日(金)高知・高知県立県民文化ホール オレンジホール
4月25日(土)愛媛・松山市民会館 大ホール
4月28日(火)愛知・愛知県芸術劇場 大ホール
4月29日(水)愛知・愛知県芸術劇場 大ホール
5月9日(土)北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru
5月10日(日)北海道・旭川市民文化会館 大ホール
5月15日(金)岡山・倉敷市民会館
5月16日(土)広島・広島文化学園 HBGホール
5月20日(水)大阪・フェスティバルホール
5月21日(木)大阪・フェスティバルホール
5月29日(金)埼玉・大宮ソニックシティ 大ホール
5月31日(日)静岡・アクトシティ浜松 大ホール
6月6日(土)奈良・なら100年会館 大ホール
6月7日(日)京都・ロームシアター京都(京都会館)
6月12日(金)群馬・高崎芸術劇場 大劇場
6月13日(土)茨城・ザ・ヒロサワ・シティ会館
6月20日(土)大分・iichikoグランシアタ
6月21日(日)福岡・福岡サンパレス
6月27日(土)兵庫・アクリエ姫路(姫路市文化コンベンションセンター)
6月28日(日) 兵庫・神戸国際会館 こくさいホール
7月3日(金)福岡・福岡サンパレス
7月4日(土) 福岡・福岡サンパレス
7月23日(木)東京・日本武道館
7月24日(金)東京・日本武道館
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=D8160015