音楽専門誌『ぴあMUSIC COMPLEX』連動企画

夢と現実の間でもがく──flumpoolが今を描いたコンセプトEP「ここからの歌」を携え、全国8会場11公演のホールツアーへ。

PMC編集部

第269回

flumpool

flumpool(フランプール)はこれまでにも、コンセプトディスク『FOUR ROOMS』(2015年)やコンセプトアルバム『A Spring Breath』(2022年)をリリースしているが、それらは音楽的なルーツやアプローチの面での「コンセプト」だった。一方、「コンセプトEP」と銘打たれた新作EP『ここからの歌』は、今この時代を生きる大人として/アーティストとしてのflumpoolの誠実なマインドそのものが、作品全体を貫く明確なコンセプトとして息づいている画期的な作品だ。まばゆいばかりの高揚感越しに「特別な主役になれない日常」をも躍動させる「STAR EXTRA」。手放すことも一つの愛だ、というメッセージを“見送る側”からの珠玉のウエディングソングに重ねた「Ring」。常識も正義も揺らぐ価値観の中を歩み続ける決意を掲げたロックナンバー「Twist & Shout」。杉本雄治(ONCE)の編曲による「スノウゴースト(Special ver.)」も含め、日々己を磨きながら進み続けるflumpoolの「今」が凝縮されたEPであることは間違いない。『ここからの歌』に通底するコンセプトが生まれた経緯について、9月から開催される全国ホールツアーについて、山村隆太(Vo)&阪井一生(G)に訊いた。

──今回、コンセプトEP『ここからの歌』では何を「コンセプト」に掲げようと思ったのでしょうか。

山村隆太 去年『Shape the water』というアルバムが出て──あれはどちらかと言うと、コロナ禍であったり、活動休止であったり、そういうものを経てバンドとして鳴らしたい、30代の集大成のようなアルバムだったんですよ。世の中のいろんな問題を後回しにせずに、今生きている命や時間を、『Shape the water』というタイトルの通り、水をかたどるように掴み取っていこう、伝えていこうというアルバムができて……燃え尽きたというか(笑)。

──それだけ『Shape the water』での達成感があったんでしょうね。

山村 そうですね。「次は何を歌にしていこう?」というところが、この作品のはじまりでした。「自分には特別な意味がある」と思っていた10代・20代と違って、大人になっていくに従って「輪郭の薄れ」みたいなものを、僕ら自身もすごく感じるし。世の中的にも、SNSとかの中で誰もが「主役」になれるけれども、社会の中では「脇役」であるジレンマがあったり、AIに取って替わられる人間の気持ちなども含めて、昔は感じなくてもよかった怒りみたいなものが、今はすごく充満しているような気がするんですよね。大人が自分の存在を証明することが大事なようでいて、でもそれができない葛藤や苦しさがあるんじゃないかなって。そういうことを、今年の初めにメンバーといろいろ話して、「この音楽を聴いた人が『自分が主役』になれるような歌を作っていけたらいいね」というところからはじまりました。

──そういうコンセプトの提案に対して、阪井さんはどうアプローチしようと思いました?

阪井一生 そういうテーマを聞いて、まず「ウエディングソングを作れたらいいな」っていうところからはじまっていきましたね。

山村 「自分が主役になれる日」というかね。

阪井 そう。だから、1曲目の「STAR EXTRA」みたいな曲は、最初はそもそも作るつもりがなかったんですよ。ウエディングソングをメインとして作ろうと思っていて、去年からずーっとバラードしか作ってなかったので……自分の底を見ましたね(笑)。「もうこれ以上は行けません」っていうぐらいの数のバラードを作りました。

flumpool「STAR EXTRA」Music Video

──バラード1000本ノック状態だったわけですね。

阪井 マジの1000本ノックでした。「もうしばらく作りたくない!」となるぐらい作ってました(笑)。まあ、ウエディングソングにもいろんなパターンがあるので、もっとハッピーなウエディングソングもあるんですけど、もっと穏やかで落ち着いた曲にしようっていうことで、この「Ring」に決まりました。そこから「いろんなパターンも作ってみよう」ということで、アップテンポな曲にも挑戦してみようとか、いろんな流れの中でできたのが「STAR EXTRA」だったり「Twist & Shout」だったりしたわけです。

──メロディや楽曲はウエディングソングの定番曲になりそうなぐらいの名曲に、「手放すことも愛の一つ」という“見送る側”からの視点の歌詞が乗っているのもいいですね。

山村 確かに、楽曲はストレートなラブソングでも行けるよな。

阪井 もっと狙ってる曲も作ってたもんな(笑)。

山村 3連の、ワルツのリズムの曲を、僕が1曲書いてほしかったんですけど、それは僕の中では「ブライダルソングで」という意味ではなかったんでよね。「ブライダルソングを作りたい」と「3連の曲を作りたい」という別々のテーマで話していたんですけど、一生の中ではその二つが一つになって「3連のバラード」が生まれて、めっちゃいい曲やなあと思って。メロディとしても、新しいけど懐かしい、日本っぽい切なさもあるし。で、この曲をただのラブソングじゃなくて、「手放すことも愛の一つ」という歌にしたかったのは──さっき言ってた「主役になりたい、でも主役になれない現実」がある中で、音楽の中でこそ自分たちの理想が少し後押しされたらいいな、と思って曲作りをはじめたんですよね。でも、それだと……今の自分の心境としっくり来なかったんですよね。

──それは何だったんでしょうね?

山村 陰とか闇みたいな、自分の中のネガティブなものを、全部消して音楽にするんじゃなくて、それを背負っていくことが、今の自分たちがやるべきことなんじゃないかなって思ったんですよね。もちろん、「主役になれない自分が、すてきな人と出会えて、晴れの日を迎えて……」みたいな主役感もいいけど、もうちょっと現実味がほしいというか……「これじゃ刺さらないな」と思ったんですよ。「大人じゃないな」というか。なので、主人公を変えて、式の主役の2人じゃなくて、参列者の側にしたんです。両親だったり、もともと新郎新婦に片思いをしていた友人だったり、そういった視点からの主観を描くことで、切なさはもちろん、そこにちゃんと生きている愛情を描いたほうが、聴いてくれる人の心に触れられると思ったんですよね。

──私自身も「自分自身の限界」を常に感じながら生きている大人世代側の1人として聴いて、そういう山村さんご自身のモードの変化がリアルに響いてきました。

山村 みんな、夢と現実の折り合いをつけて生きてると思うんですけど、音楽はエンタメなので。誰かに聴いてほしいメッセージがあるとすれば「折り合いをつけてる自分の姿」ではなくて、「それでもちゃんと一生懸命に自分を燃やそうとしている姿勢」そのものがエンタメだと僕は思っていて。そういう視点で自分たちを考えると、ステージに立っているのなんて、1年のうち何時間かしかないんですよ。でも、普通の生活を生きている中で、そこを一生懸命に生きていることが、何よりもメッセージに、エンタメになるんじゃないかなって。折り合いをつけて生きていくことは、大人らしくてかっこいいんだけど、そこでもがこうとしている姿を見せられると、「折り合いをつけてる自分」もまたかっこよく見えるんじゃないかなと思うんですよね。そういう生き方をできたらいいなと思っています。

──「STAR EXTRA」は、サビっぽい高揚感のBメロの後でさらにサビが訪れる、という展開も含め、かなり綿密に楽曲全体のドラマ性が構成されている印象があります。

阪井 いや、まさに。もともと、できたときはBメロがサビだったんです(笑)。で、聴かせたときに「もう一個サビがあったらどう?」っていう山村のアイデアがあって──「なんで?」とは思ったんですけどね(笑)。今回はそういう、山村の意見が結構面白かったんですよね。僕は直感というか、感覚で曲を作っていくんですけど、山村はしっかり聴いて、分析した上で、いろいろアイデアを乗せてくるんで。この曲だと、その「サビもう一個」もそうですし、転調するところのフックの部分もそうですし、僕やったらこうせえへんな、みたいなアイデアがどんどん出てきて。いちばんギリギリまで時間かけたのもこの曲でしたし、こだわりポイントを全部詰め込めたのはよかったと思いますね。だいぶトリッキーですけど、意外としっくり来たし、「新しい展開としてはいいんちゃう?」って言ったら──。

山村 「……あんまりやなあ」って。

阪井 自分から言ったのに(笑)。

山村 逆転してたな(笑)。サビの〈キラキラリ〉とか、地に足の着いてない言葉だし、大人がキラキラしようとすることって──。

──ちょっと度胸が要りますよね。

山村 そうなんですよ。そういった「恥をさらす」とかっていうことが、この時代の中で──たとえばオーディション番組がはやってて、たとえ恥をかいても、それでも一生懸命にやってる姿に心打たれるわけですよね。みんながキラキラしたSNSの世界を見て、現実で自分の陰を見ちゃう。でも、それを見て「自分もがんばろう」という自分自身へのエールも含めて、恥をかいてる人、がんばってる人を応援したい気持ちがあるんだろうな、と思うと──Aメロ行ってBメロ行って挫折挫折で、モヤモヤしたところに華やかなサビが来るっていうのは、この曲に僕らが背負わせたかった気持ちですよね。

──「Twist & Shout」は、不確かな時代だからこそ、その中を踊り進んでいく、というタフな決意の曲ですね。怒りや逆ギレの爆発力以外のものを燃料にしたロックナンバーというか。

山村 これはもう、曲がかっこよかったから、先にできてたよな?

阪井 そうですね。でも、こんなにトゲのある感じになるとは思ってなかったんですけど。歌詞ができてみたら「……だいぶ尖った感じやね」って思って(笑)。でも、それがよかったんですけどね。曲とハマったのもあるし、レコーディングしてても、ちょっと風邪引いてる?ぐらいの荒い感じで録っていったりして。僕の思ってたイメージとは違いましたけど、最終的にすごくいい形になりましたね。

山村 『ここからの歌』で「主役じゃない場所からも精一杯に歌っていこうよ」って地に足を着けようとすることに対して、世間はあまりに早く変わっていってしまうと思うんですよ。特にAIかな。そうなったときに、自分がここで地に足を着けようとしていることがナンセンスなんですよね。価値観なんて上書きしないといけないし、アップデートできない人は追い越される時代なので、ミュージシャンが地に足着けたらダメなんじゃないかなって。どっちの視点も持ってるんですよね。

──その両方の視点が、今作には特に活きてますよね。

山村 「今この場所でできること」と「次の場所に行かなきゃダメじゃないか」の狭間の、足場のない状態ですよね。でもそこで、僕の精神が顔を出してきて。「足場がないから、こんなことも歌になるじゃん」っていうことですよね。そうやって、揉まれなければ生まれない音楽もたくさんあるんじゃないかなって思って。「Twist & Shout」の最後に<腐っても自由だ>って歌ってるんですけど、表現するなら、これはこれでできる歌がたくさんあるんじゃないかなって。それをそのままぶつけたのがこの曲です。自分たちは、怒りや反骨心でロックをドーンと鳴らして中指立ててる感じはないと思うし、かと言ってラブソングばっかり歌えるほどまっすぐ生きてるわけでもないし。「揺れ」ですよね。どっちつかずの生き方だと思うんですけど、それが「らしい」んでしょうね。その「揺れ」の中で生きている人がいるなら、そういう人に届けばいいなと思いますね。

flumpool「スノウゴースト」(Special ver.)

──杉本雄治さん(ONCE)編曲による「スノウゴースト(Special ver.)」も含め、アルバム的な奥行きも備えた作品になっていると思います。そして、今年9月から11月にかけては、全国8会場11公演のホールツアーが開催されます。埼玉・千葉・東京の3会場は、ワンマンと対バンの2DAYSという独特の構成ですよね。

山村 対バンは3年前のツアーで初めてやったんですけど、他のアーティストと同じ音響・照明・ステージの上でやると、はっきりと違いが浮き彫りになるし。比べられるのは嫌ですけど、そういう場に自分たちをさらしていくのも大事だろうな、っていうのは最近のムードとしてあるので。そういう意味でも対バンを入れたかったんですよね。対バンツアーじゃなくて、ワンマンと対バンが入り混じってもいいんじゃないかなって。

──同じツアー中でも、ワンマンと対バンではセットリストも変わってくるでしょうね。

山村 そうですね。そこは変えようと思ってます。

阪井 大変やね、これ。

山村 めっちゃ大変! (笑)。ツアー自体も、結構こだわろうと思っているんで。代表的な曲もあれば新曲もあって、どっちもあるから一番いい、っていう形を模索したいなと思っているので。いろいろアイデアはあるんですけど、それも大変になりそうで……。

阪井 「STAR EXTRA」がライブでどうなるのかな? って(笑)。ライブで再現するのはなかなか難しいと思うんですけど、ライブでの変化がまた楽しみですし。新しい曲はもちろん、懐かしい曲もいっぱい出てくると思うんで。今回のツアーは、今までにないセトリになると思うので。ぜひ遊びに来てほしいですね。

山村 <出来ることは昔より ずっと増えたはずなのに><僕しか出来ないことは 減ったようでさ>って「STAR EXTRA」の歌詞にも書いたんですけど、それがまさにこのツアーで伝えたいことかなと思いますね。誰かのために生きることに追われて、生き方を見失ってしまうっていう現実に対して、このツアーで僕らが何か届けられることがあればいいなと思っているので。「そんな自分でいいんだ」って──悩んできたことはネガティブなことじゃなかったんだ、と思えるから、僕はライブの空間が好きなんですよね。自分を肯定できるというか。そういうものになればいいなと思っています。

取材・文:高橋智樹

Release info

Concept EP「ここからの歌」

6月24日(水)CD & DIGITAL release

Live info

flumpool tour 2026「ここからの歌」

9月12日(土) 大阪・オリックス劇場
9月18日(金) 埼玉・狭山市市民会館
9月19日(土) 埼玉・狭山市市民会館 <対バン:BLUE ENCOUNT>
9月26日(土) 宮城・仙台電力ホール
10月3日(土) 千葉・森のホール21 大ホール <対バン:miwa>
10月4日(日) 千葉・森のホール21 大ホール
10月10日(土) 愛知・岡谷鋼機名古屋公会堂
10月17日(土) 福岡・福岡国際会議場 メインホール
10月18日(日) 広島・広島JMSアステールプラザ 大ホール
11月7日(土) 東京・LINE CUBE SHIBUYA <対バン:後日発表>
11月8日(日) 東京・LINE CUBE SHIBUYA