ASOBOiSM/PIA SONAR MUSIC FRIDAYインタビュー
注目のシンガーソングライター/ラッパー・ASOBOiSM流の音の表現とは?
特集連載
第30回
伝えたいことがあれば、その体験を書きたいし、リアルをもっと追い求めたい
── キャリアのスタートは2015年シンガーソングライター「たなま」としてで、そこからラップをやるようになってASOBOiSMの活動が始まるわけですが、ラップというものがしっくりきたっていう感覚があったのでしょうか?
今でも自分からラッパーって名乗ることはあまりなくて。ずっと弾き語りで曲を作ってたんですけど、自分が作るポップスの限界を感じていた時期があったんですよね。20歳くらいの時に。その時にMOROHAさんのライブを観に行ったんです。そしたら、ポエトリーラップとギターっていうスタイルにまずは感銘を受けて、自分のやっている音楽ももっと幅を広げられるんじゃないかって思いました。そこから日本語のヒップホップを聴くようになって、自分も楽曲の中にラップを取り入れてやってみようっていう感じから始まりました。だから、しっくりきてるかって言われたら、自分が弾き語りでやっていた時よりも単純に言葉数が多いから、リアルに自分の体験だったりをリリックに乗せることができるので、やっぱり自分にはすごく合ってるなって思いますね。
── 表現できることの幅が広がったという感じですか?
そうですね。弾き語りでやっている時は、どこか抽象的な表現とか、きれいにまとまる感じのものが多くて、でもラップのスタイルを取り入れてからは、サビに至るまでにいろんなことを語れるんですよね。それだけで自分の表現したことの幅は広がりますから全然違います。
── とにかくMOROHAの定型から逸脱した表現のインパクトが強烈だったということですね。
当時、自分自身で自分のやっていることは100番煎じくらいだなっていう、ネガティブな自負があったので(笑)。MOROHAさんのライブを観た衝撃っていうのは、この人たちにしかできない音楽ってこういうことだなって思ったし、リリックの内容にもすごく感銘を受けて涙を流したし。それこそAFROさんが歌っていることって、自分の体験じゃないですか。そこになんで共感をして涙を流すんだろうって思ったら、もちろんその人の体験ではあるんですけど、伝えたい思いの強さで自分にも通じるものになるということを身をもって知ったんですよね。だからわたしに伝えたいことがあれば、その体験を書きたいし、リアルをもっと追い求めたいって思いました。かっこ悪いことでもそこから勇気や希望を感じてもらえたらいいなって。リスナーに逆体験させたいというか。
── 自分のリアルを吐き出すということに躊躇はありませんでしたか?
うーん、あんまりなかったですね。さっき言ったみたいに、もともと自分のやっていたことが抽象的すぎたので、全然跳ねなかったんですよね。だからその逆というか、リアルを追い求めて吐き出すことをやるしかないというか、それをやらない理由はないっていう感じでした。とにかく売れたい!って思ってましたし、自分を切り売りしてでもやるんだって、全然抵抗はなかったですね。
── そうやって、ラップによって自分を曝け出す表現方法に行き着く道のりも含めて今のASOBOiSMの表現になっているように思いました。つまり、抽象的で型にハマった表現方法を一回通ったからこそ出せるオリジナリティがあるのではないかと。
それは間違いないですね。自分が聴いてきた音楽はJ-POPなんです。そこはやっぱり大事にしたいんですよね。YUIさんみたいなシンガーソングライターになりたいって思ってこの世界に飛び込んだわけだし、だから今でもそこを捨てているとは思ってないです。
── ASOBOiSMのオリジナリティって、誰もやっていないことを発見しようとするのではなく、多くの人がやっていることの中に自分しか取り出せないものがあって、そこを表現しようっていうことなのかなって思いました。
ああ、そうですね。曲に対する遊び感覚だったり、もしかしたらそういうことかもしれませんね。
── ラップでしか表現できない思いや言葉というのはありますか?
自分で言うのもあれなんですけど、わたしの声って結構スウィートな感じなんです(笑)。だから普通に歌うと、ドスの効いた感じが出せないというか。真正面から言いたいことがちゃんと伝わらないかなって思ったりしてて。そうすると、ラップっていう表現であれば“地の自分”を出せるんですよね。
── “地の自分”を出す、ということでの質問なんですけど、今も昼間は働いてらっしゃるんですよね?
はい。
── それは、自分の音楽をやる上で必要なことだから、だったりするんですか?
うーん、まあ、半々ですかね。現実的にまだ音楽だけで食べていけない状況というのはリアルにあるんですよ。だから働いてるっていうのはまずあります。でもそうやって社会にいることで感じられる悩みっていうのは絶対にあって、そういうものって働いてないとわからないじゃないですか。単純に言ってしまえば曲のネタになるっていう側面も半分はあるという感じです。わたしは生活に根づいた音楽をしたくて、リスナーの人たちがよりリアルに感じられるためには、自分も同じ目線というか同じ場所にいないといけないのかなって思ったりします。例えば〈満員電車に揉まれて〉っていう表現があったとして、それを日常的に経験していない人が歌うより、実際に体験している人が歌った方が言葉の重みが違うから響くと思うんですよね。こんなに自分のことをひけらかさなくてもって一方では思うんですけど(笑)、でも歌詞を書いているとそうなっちゃうんです。
明日はくるって言ってるけど、来ないこともあるんだよなって、ふと思ったんです
── 1月12日(水)に配信リリースされたシングル「明日はくる」ですが、メロディや曲のちょっとチルな雰囲気だったり、リリックの内容だったり、これを1日の終わりに聴いてその日を強制終了して眠りたいって思いました。
すごいうれしい(笑)。
── この曲もだから、普通の日常生活を送っている人にしか出せないリアリティをすごく感じますね。
「明日はくる」はギターのリフを思いついて、これで曲を作りたい!って形にしていった曲なんですよ。そのギターのフレーズを思いついた時に、これは関口(シンゴ)さんとまたやりたいって思いました。
── アルバム『OOTD』収録の「あまのじゃく」以来、2度目ですね。
はい。すごく温かい音作りをしてくれるんですよね。人としても信頼できるし。だから音も素敵なんだなって思うんですけど、このギターのフレーズだけ残したいのであとは自由にお願いしますって言っただけで、あの素敵なアレンジになって戻ってきました。「あまのじゃく」の時もそうだったんですけど。
── 歌詞の内容は、どういうことをイメージしたのですか?
まずはギターのフレーズをループで貼り付けて、そこにドラムを入れて、どんな曲にしよっかなって考えてた時に、数年前に祖父が亡くなった時のことを思い出したんです。亡くなってすごく悲しかったんですけど、一番辛いのはやっぱり祖母で。その祖母の姿を見ていたらまた辛くなるというか……。けど、周りの状況というか、世界というか、止まらないじゃないですか。いくら悲しくても辛くても次の日はやってくるし、そこに止まることはできないんですよね。あとは、友達と取り返しのつかないケンカをしてしまった思い出とか。そういう体験を歌にしたいっていうのはずっと思ってて、ようやくこの曲で形にできました。
── 歌詞に出てくる〈じーちゃん〉っていう言葉のリアリティが泣ける(笑)。
あはははは。でも、そういう体験って誰もが通る道じゃないですか。大事な人が亡くなるって悲しいことだけど、自分が亡くなる可能性だってあるわけだし。で、これを書いている時に、明日はくるって言ってるけど、来ないこともあるんだよなって、ふと思ったんですよ。でも、明日はくるってどこかで信じたいなって自分は思っていて、そういう後押しにもなれればっていう思いもあって、サビで強く言いたいっていうのがありました。
── さっき強制終了って言ったんですけど、例えばその1日がしんどかったりした時に、明日がくるのかって思うと結構辛いじゃないですか。また繰り返されるような感じがして。でも、一旦そこで強制終了してしまえれば、明日は明日で考えればいいやって開き直れるというか。その感じがすごく伝わってくるんですよね。
一回ログアウトして、次の日また立ち上げてって。そうやっていかないと気持ちも切り替えられないしっていう時はありますよね。
── 〈振られて泣いても明日は来た バイトでミスっても明日は来た じーちゃんが天国に旅立ったあの日も いつだって明日は来た〉ここのリリックには特別なことは何も描かれてなくて、だからこそリスナーが自分のものとして感じられるという特別さがあります。
そうなんですよね。特別じゃないことが特別なんですよね。っていうことを曲の中で書くから自分も気づかされるし。特にそれはAFROさんがやっていることで。自分のリアルを歌って、それがすごく響くっていうのは。言葉にしていないけどみんなが感じていることを代弁しているんだなって思ったから、その感覚が自分の曲の中でも体現できてすごくうれしいです。
── そして、〈生きてる意味?なんてわかんねー だけど自分できっと掴んでく 時に傷つきながら学んでく 音楽に答えを今も探してる〉という部分は、まさにさっきおっしゃった“地の自分”が滲み出ているし、しっかり自分にオチをつけているのもいいなと思いました。
ちょっと恥ずかしいですけどね(笑)。今もそうなんですけど、自分が音楽をやっていて、どうなりたいのかっていうことも考えるし、でも考えてもしょうがないことってあるから、とにかく今日を過ごして明日またがんばろうっていう感じですね。
── 何をどうやったらいいか全然わからない時ってどんなことにもあって、でもわからないながらもやり続けていると、いつの間にかできるようになっていることってあるじゃないですか。例えば自転車に乗れなかったのに、3日後急に乗れるようになっていたとか。なんか、取っ組み合ってるその物事なりが、向こうから迎えに来てくれる瞬間ってありますよね。
それこそ去年の『M-1グランプリ』で錦鯉さんが優勝した時に、「ずっとやり続けていて良かった」っていうようなことをおっしゃっていて、結局見切りをつけるのって自分しかいないんだなって思ったし、やり続けるってすごく大切なことなんだなって。すごく感動しました。わたしの答えはこれだなって思いました(笑)。
── この5年間で、自分の進むべき方向とか、やりたい感じというのは掴めたという実感はありますか?
そうですね。歩みはすごく遅いんですけど、着実に前には向かっているかなって思っています。自分の作る音楽に共鳴してくれる人がいるんだなっていうのは確実にわかった5年間でした。あとは自分が積み上げてきたものを爆発させて、世の中的にも爆発できるようなことをやっていかなきゃなって思っているので、ここからがまた勝負というか。まずは3月にワンマンライブが決まっているので、そこも勝負していきたいですね。
── 3月19日(土)の表参道WALL & WALLですね。そこが初めてのワンマンライブなんですね。
ずーっとワンマンライブをやりたいなって思いながらだったんですけど、コロナ禍のこともあったりとかで、ようやく3月にワンマンライブをやることが決まりました。でもワンマンライブってすごく大きな一歩のような気がしていて、早くやりたいとは思っていたんですけど、結果、今このタイミングで決まったっていうのは良かったなって思います。やっぱり、アルバムをリリースしたり、いろんな人たちと一緒にやらせていただいたり、ようやくたくさんの人たちに聴いてもらえているのかなっていう実感も湧いてきたので。
── ちょうど5周年でもありますしね。
いつの間にか5年も経ってるんだ!って感じですね(笑)。
Text:谷岡正浩 Photo:吉田圭子
ライブ情報
“ASOBOiSLAND” -ASOBOiSM 5th Anniversary / 1st Oneman Live-
2022年3月19日(土)開場17:00 / 開演18:00
会場:表参道WALL&WALL
チケット代:前売3,500円 / 当日4,000円 ※入場時ドリンク代が必要
チケットはこちら
リリース情報
2022年1月12日(水)配信リリース
「明日はくる feat. 関口シンゴ」
プロフィール
1994年生まれ、神奈川県横浜市戸塚区出身のシンガーソングライター、ラッパー。2017年、活動半年でTOWER RECORDS渋谷店の未流通コーナーで初登場1位を獲得。アサヒ飲料「WILKINSON」や、hoyu「Beauteen アンティークカラー」のWebCM曲を担当。2019年夏のシングル「UCHOTEN feat. TACK」がApple Music『今週の New Artist』(8月2日付)に選出。なみちえやサイプレス上野とのコラボを経て、ラッパーとしても注目を集める。2020年10月に発表した1stアルバム『OOTD』が“APPLE VINEGAR Music Awards 2021”にノミネートされるなど、ミュージシャンからも高く評価されている。また、その柔軟性と引き出しの多さから作家としても活躍。テレビ・アニメ『ねこねこ日本史』(NHK Eテレ)第5期ED主題歌や、原宿発の5人組アイドル・ユニット=神宿への楽曲提供、TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』×「モンスト」コラボ第2弾CMソングにラップ&歌唱で参加するなど、ジャンルの垣根を超えて楽曲を提供。
関連リンク
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番組概要
放送局:J-WAVE(81.3FM)
番組名:PIA SONAR MUSIC FRIDAY
ナビゲーター:櫻井海音
放送日時:毎週金曜 22:30~23:00
番組HP:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarfriday/
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