森 大翔/PIA SONAR MUSIC FRIDAYインタビュー
16歳で世界一のギタリストに 森 大翔にとって音楽とギターは自分のすべて
特集連載
第32回
朝から晩までギターを弾き続けるという修行のような日々を送っていました(笑)
── ギターを初めて手にしたのはいつになるんですか?
小学校3年生の時でした。いとこのお兄ちゃんがギターを弾いているのを見て憧れて、僕も始めたんですけど、一回挫折してるんですよ、実は。
── あ、そうなんですか!
それで少し間があいて、ちゃんと始めたのが小学校6年生ですね。その親戚のお兄ちゃんが仕事で地元を離れることになって、「これをおまえに授けよう」って、使っていたギターを譲ってくれたんです。そこからギター漬けの日々が始まりました。
── やっぱり憧れていた人から譲り受けたギターを所有しているっていうことが、最初のモチベーションになったんですかね。
そうですね。結構いいやつだったので、弾けるようになりたいって思いました。
── エレキですか? アコギですか?
エレキです。
── ちなみにどんなギターだったんですか?
ESPのTHE CRYING STARっていう、星形をしたすごくカッチョいいやつです。今も実家に大切に保管しています。
── それまで、ギター以外での音楽体験で言うと何かありますか?
ほとんどないに等しいんですけど、田舎なので車での移動がメインになるんですよ。買い物に行くにも、車で1時間くらいかけてショッピングセンターに行くっていう感じなので。だから、そういう時に車の中でかかっていたコブクロだったり、ゆずだったり、ポルノグラフィティの曲を歌うのは好きでした。
── じゃあギターに没頭し出してから聴く音楽も変わっていった?
変わりました。まず、メタルの沼にハマりまして(笑)。速弾きができるようになったのはそのおかげなんです。メタルの沼で朝から晩までギターを弾き続けるという、修行のような日々を送っていました(笑)。
── 10代そこそこで(笑)。
はい。朝早く起きてすぐ速弾きして、学校から帰って来てすぐ速弾きして。
── 部活も遊びもやらずに速弾き。
速弾きです。小学校6年生まではサッカーをやっていて、わりと外で体を動かすのが好きだったんですけど、ギターを始めてからは、誰よりもギターを速く弾くことが目標になりました。
── そこには音楽的な楽しみももちろんありつつ、どんどん難しいフレーズをクリアしていくゲーム感覚みたいな楽しみもあったんですか?
それはありましたね。うわ、これは弾けねー、悔しい……ってめちゃくちゃ練習して、次の朝起きたら弾けるようになっていたっていうことが結構ありました。それがすげえうれしかったのを覚えていますし、今でもその感覚はあり続けますね。
自然が感じられるものを目指したい、表現したい
── そうした修行の日々を重ねて転機が訪れるのが16歳の時ですよね。イギリス・ロンドンで行われた「Young Guitarist of the Year 2019 powered by Ernie Ball」(16歳以下のギタリストによるエレキギターの世界大会)に出場して世界一になるのは。
そうですね。
── 12歳で本格的に始めて4年しか経ってないんだ!
そっか。そうですね。
── ものすごい成長曲線を描いてますね。
(笑)。もうギターしか弾いてませんでしたから。遊ぶのもテレビ見るのもゲームするのも全部やめちゃって、時間があったらギターを弾くことに費やしていました。
── ほかにも熱中したものはあったんですか?
ないですね。ハイパーヨーヨーとかも一瞬ハマったりしましたけど、すぐに飽きちゃいましたから。
── ギターがそれまでの森さんの世界を変えたんでしょうね。ギターのどこに魅きつけられたんですか?
まず音ですね。アンプから出ている音をそのまま聴いた時の「カッチョいい!」って感覚は、ほかの何とも違っていました。それとやっぱりさっきも言ったように、どんどん上達していくのが自分で確かめられるので、そこが一番のめり込んでいった理由だと思います。
── できないことができるようになるってすごい体験ですもんね。結構自由に音が出せる環境だったんですか?
そうなんですよ。隣の家の人からも「大翔、音出していいぞ」って言われていたので、ガンガンにやっていました。
── 16歳で世界大会優勝。ギターの腕前が認められたということは、テクニックだけではなく、センスも含めたオリジナリティが評価されたのが大きかったのではないか、と想像します。ギターの練習に打ち込む日々の中で、自分のオリジナリティはこういうものだなと、認識することはあったんですか?
実家が知床・羅臼で大自然が目の前にあるんです。ギターに熱中するようになってからメタルを中心に聴いてはいたんですけど、どこか自然を感じられるサウンドが、僕の好みなんだなっていうのはだんだん自覚していきました。メタルの中にもそういうサウンドって、実は多かったりするので。メタル以外にもいろんなギタリストのプレイを聴きながら、その中に自然が感じられるものを自分は目指したいなって思うようになりました。自然を表現したいというか。
── じゃあ例えば誰々に憧れるということよりも、こういう感じのサウンドっていう志向性があったんですね。
そうですね。もちろん好きなギタリストはたくさんいるんですけど、その中でもこの人のこの曲は自然を感じるな、もしくはあまり感じないなというので好みの線引きはありましたね。でもそれは中学3年生くらいまでの聴き方で、そこからはより多くの、いろんな音楽を聴くようになりました。それにつれて好きな音楽も増えていったっていう感じです。今でもランニングするときはメタルを聴きますし、家でゆっくりするときはチェット・ベイカーの古いジャズを聴いて、彼のトランペットのフレーズをギターでやって面白いなっていう発見をしたり、本当にいろいろなものが好きですね。
── 作曲はいつぐらいからするようになったんですか?
ギター1本での曲っていうのは中学生の時にはすでに作り始めていて、でも1分とかそういう短い感じのものでしたけど。
── 歌詞を書いて歌を歌おうと思ったのは?
もともと歌ものは好きで、自分が歌を歌っていろんな人に聴いてもらいたいっていう想いが芽生え始めて、それが確信になって曲を書き始めたっていう感じです。それがちゃんと形になったのが、1stシングルの「日日」でした。
自分でも不思議なくらい曲を作りたいって思っています
── 改めて振り返ってデビュー曲の「日日」は自身にとってどういう曲ですか?
まず、歌詞にすごく苦労しました。ギター以外のインプットがほぼゼロな男だったので(笑)。ちょうどその時に、母が谷川俊太郎さんの『二十億光年の孤独』という詩集を勧めてくれて、それを読んだら、自分が日々感じていたモヤモヤしたものってこういうことだったんだってスッキリしたんですよね。どことなく感じてはいたけど言葉にできない感情みたいなものが鮮明になってくる感じで、そこから一気に歌詞が書けました。
── 「日日」はギター1本と歌声のみのシンプルな曲で、そこはやっぱり最初の1曲は他に何もいらないという気持ちがあった?
そうですね。何より得意なのはギターだし、ギターのスキルこそがまずは僕の個性だと思ったし、そこを前面に出して歌おうって思いました。
── 歌詞を書くのは好きですか?
今は好きになりました。歌詞ってやっぱりひとつのストーリーじゃないですか。その全体の流れで何かひとつのことを伝えていくっていうのは、すごくやりがいのあることだなと感じています。
── 「日日」の歌詞に苦労したとおっしゃっていましたけど、僕は「日日」を聴いた時に、ギターはもちろんなんですけど、歌詞がすごくいいなって思ったんですよね。
本当ですか? めちゃくちゃうれしいです。
── 枠に収まりきらない部分があるというか、言葉から感情がはみ出している感じがあって、きっとこの人にしか伝えられないものがあるんだろうなっていう、生々しさみたいなものを感じたんですよね。
やっぱり自分が思っている以外のことは伝えられないし、自分に正直でありたいとも思ったし、それを全部吐き出したっていう感じですね。
── 今回リリースされた「台風の目」は、どのようなきっかけでできた曲ですか?
実家にいる時に台風が接近していて、外は雨で窓に流れる水滴を見ていたら、そういえば台風って台風の目があるよなってふと思ったんです。台風の目っていうワード自体がその時の自分にすごくしっくりきて、そこにテーマになるような何かがあるような気がしたんですよね。台風の目の中は穏やかだけど、少し外れると風がぐるぐる吹いて雨が降っている。それとその時自分が感じていた、自分とまわりの物事との距離感というか、何かがどんどん変わっていくことへの寂しさみたいな感情があって、それをどうにか歌にできないかなっていうのが始まりでした。
── 具体的な言葉からイメージや感情を膨らませていって音楽にしていったわけですね。曲自体のイメージは最初どのようなものでしたか?
最初はもっと土臭くて、弾き語りのイメージでした。ちょっと男っぽいというか、叫んでいるような感じというか。そこにアレンジが加わり、サウンドが上品になって広がりのある感じが加わって、すごくいいなと思いました。
── アレンジには野崎良太(Jazztronik)さんを迎えて、ピアノ、ストリングス、そしてリズムトラックも加わり、ものすごくサウンド自体が雄弁になった印象ですね。
曲の持っているイメージがめちゃくちゃ広がったアレンジになったなって思っています。
── イントロの速くてメロディアスなギターフレーズが印象的なんですけど、ピック弾きっていうのもびっくりしました。
元々メタルで速弾きを習得したので、ピック弾きの方が得意かもしれないですね。でも指弾きもいつの間にかできるようになっていて、「日日」は指弾きです。ギターの奏法に関しては結構なんでもできるかもですね。「台風の目」のリフのフレーズはすごく気に入っていて、あれが出てきた時に、あ、台風の目だ!って思いました。
── 台風の目だ!っていう確信にはどのようなイメージが含まれているんですか?
ネガティブな中でも自問自答しながら答えを出して進んでいくっていうようなイメージですね。そこの導きであのフレーズが出てきました。
── 台風の目って安全な場所に見えて、全然安全じゃない場所ですよね。
そうですね。その、大丈夫か?っていうような混沌とした感じも表現できたらなっていうのは曲を作る段階から思っていました。
── 「日日」もそうだったんですけど、わりと今いるここはネガティブだぞっていう現状認識から逃げないというか、そこからこうして行こうよっていう決意を森さんの言葉から感じます。「台風の目」の中で驚いた歌詞の一節が〈僕らの想う結末なんか来ないから〉っていう部分で、それをわかっていながら抗うというか、前に進むというか。真っ当にポジティブというか。すごくぼんやりした質問ですけど、どうしてそんなふうに思えるんだろう? だって、〈僕らの想う結末なんか来ない〉のに。
なんでだろう? 意外に昔から前向きな性格ではあったんですけどね。
── 深読みかもしれないんですけど、その決意の持ち方が森さんの音楽をやる理由に、直結しているような気がしたんですよね。
ああ、あるかもしれないですね。曲を作るのってもちろん楽しいですけど、苦労もあるわけですから。でも、それでもやりたいって純粋に思うし、どうしても作りたいって気持ちがあるし、これからもやっていきたいって思っていますから。自分でも不思議なくらい曲を作りたいって思っています。もう音楽なしの生活は考えられなくなってて、空港で特に何の意識もせずにパッと音楽を聴いていて、あれ? 俺ってこんなに音楽が必要だったっけ?って自分で思うくらい、ほとんどすべてと言ってもいい感じになっています。
── もし、ギターだけを追求する人だったらそこまで音楽と密接になっていただろうか?と想像したりもします。やっぱり言葉を吐き出して、歌って、自分の想いを誰かに伝えることをやっているからこそ、そういう心理になるんじゃないかなと。
そうですね。ギターはひとつの手段というか。自分が表現したいということに対してのもっとも有効な手札がギターという感じですね。
── そしたら──すごく意地悪な質問かもしれないけど──自分の表現したい世界にギターが必要ないと思ったら捨てられる?
本当に必要ないと思ったらそうすると思います。でも、どこまでギターで表現できるかというのは限界まで追求したいんです。やっぱり僕からギターを取ったら……って今は思います。ギターとは一緒にいたいです。
── ごめん、捨てられるわけないよね(笑)。
はい(笑)。ギターは僕のあらゆる感情を乗せられるもので、自由自在に操れるものなので、やっぱり一番心強いです。
── 今後、どういうアーティストを目指したいですか?
「日日」と「台風の目」という2曲をリリースして、どっちもネガティブな感情から出発しているんですけど、もちろんそれだけではないので、今後はいろんな感情にフォーカスを当てて、いろんな音楽を作っていけたらいいなと思っています。
Text:谷岡正浩 Photo:吉田圭子
リリース情報
2022年1月26日(水)配信リリース
「台風の目」
https://A-Sketch-Inc.lnk.to/yamato_mori_Taifunome
プロフィール
北海道・知床 羅臼町出身、2003年6月生まれの18歳。小学6年の頃、従兄弟からの影響でギターを始める。インターネットで様々なギタリストから影響を受け培ったギターテクニックと、大自然で育まれた感性から生み出される楽曲を武器に、16歳の時にイギリス・ロンドンで行われた「Young Guitarist of the Year 2019 powered by Ernie Ball」(16歳以下のギタリストによる エレキギターの世界大会)に出場。英国・米国など100人を対象とする審査を勝ち抜き優勝し、世界一に輝く。卓越圧巻のギター演奏と無垢な歌声、そして独創的な作曲センスを持つ新世代の才能で、2021年9月、デジタルシングル「日日」でデビュー。2022年1月26日に第二弾配信シングル「台風の目」をリリース。その非凡な才能は開花されたばかりでまだ底知れない。
関連リンク
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