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「ゆけ!ゆけ!歌舞伎“深ボリ”隊!!」今月の歌舞伎座、あの人に直撃!! 特集

中村雀右衛門 『金閣寺』雪姫 ― 歌舞伎の中の代表的なお姫様

第3回

中村雀右衛門

歌舞伎のお姫様が奇跡を起こす?

歌舞伎の時代物の狂言では、各方面をはばかって実名ではなく”匂わせ役名”を使うことが多い。今月の歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」で上演中の『金閣寺』でも、此下東吉(木下藤吉郎)や、佐藤正清(加藤清正)、そして戦国武将中トップクラスの暴れ者&趣味人、松永弾正久秀も松永大膳久秀という役名で登場する。歌舞伎の役柄の中でも「国崩し」と呼ばれ、「王子」というロン毛の鬘がふさわしいスケールの大きな役どころだ。

<あらすじ>
天下をもくろむ松永大膳は、将軍足利義輝を暗殺した後、金閣寺に立てこもっている。将軍の母の慶寿院と将軍に仕えた絵師の狩野之介直信を捉え、さらにその恋人である雪姫をも自分のものにしようと閉じ込めている。雪姫はこの大膳が父の敵であると知り敵を討とうとするが、逆に桜の木に縛り付けられてしまい……。

この雪姫も絵師雪舟の孫という設定から名付けられている。そして『鎌倉三代記』の時姫、『本朝廿四孝』の八重垣姫と並んで、歌舞伎の「三姫」に数えられる役だ。

歌舞伎に登場するお姫様といえば、たいてい赤綸子の振袖に打掛、吹き輪の鬘に豪華な銀の姫差しを挿し、腰元達にかしづかれ、世俗から離れた深窓で暮らしている。さぞ静かでゆったりとした優雅な日々かと思えばとんでもない、彼女たちは時に驚くようなことをやってのける。この雪姫も、大膳に立ち向かおうとするだけでもあっぱれなのに、縄で桜の木に縛りつけられると逆に何かの力に覚醒したかのように奇跡を起こしてしまう。

一度弾けると荒事も真っ青な彼女たちの行動。その時彼女たちの心と体に何が起こっているのか、そしてそれを歌舞伎ではどんなふうに表現するのか。

今回この雪姫を勤めるのは中村雀右衛門さん。これまでも雪姫を2度、時姫も2度、八重垣姫は3度勤めている、まさにお姫様役のエキスパートである。深ボリ隊は雀右衛門さんを直撃した。

Q:強くて艶やかな歌舞伎の中のお姫様。歌舞伎ならではの演じ方は?

『祇園祭礼信仰記 金閣寺』雪姫=中村雀右衛門(平成28年3月歌舞伎座) ©松竹

── 金閣寺では冒頭、大膳たちが碁を打っているその上手屋台の障子が開き、いよいよ雪姫が登場します。

雀右衛門 役者は出と引っ込みが大事と言われますが、まさにこの出で、大膳に囚われ、夫とも離され、愁いに沈んでいるお姫様という風情を感じ取っていただけると嬉しいです。狭い屋台ですし腰元もふたりいますから、手と首を少し動かすくらいで、基本的にあまり動けません。でも内心は夫も慶寿院も捉えられ、大膳からは自分のものになるよう言われ、かなり切羽詰まっているんですよ。

── そういえば雪姫は他の多くの姫たちと違ってトキ色の衣裳で、そして人妻なんですよね。

雀右衛門 そうなんです。かつては赤い衣裳の雪姫もあったそうですが、僕は父と同じトキ色のものを着ています。それに狩野之介直信という夫はおりますが、お姫様ということで衣裳は振袖です。振袖にしないと白拍子の静御前と見た感じが似てしまいますしね。

── 無理難題を言いつつも、大膳は雪姫に気があるからでしょうか、雪姫が三段を降りる際にちょっと雪姫の手を取りますね。観るたびに大膳の意外にジェントルマンな一面に一瞬ドキッとしてしまいます。でも雪姫としては手を取られるのも嫌……なのでしょうか、やはり。

雀右衛門 まあねえ、嫌は嫌なんですが目的のためには我慢するしかないというところですね。この後大膳が刀を滝にかざすとドロドロドロと龍が現れますが、ここは歌舞伎らしい表現ですよね。また大膳の刀が倶利伽羅丸(くりからまる:雪姫の父・雪村が所持していた刀で、「朝日にかざせば不動の尊体。夕日に向かえば龍の形」が浮かび上がるという名刀)と気づき、父の敵と知ってお互いハッと見合ってばーったりと極まるところ、このあたりも雪姫の強さ、エネルギーを感じていただけるところでしょう。

── でも結局、雪姫は桜の木に縄で縛られてしまいます。いっそのこと殺せばいいのに大膳はそうはしない。姫が縛られているその姿にグッとくるわけですよね。

雀右衛門 動きたいのに制約されている、縛られている姫の哀れさと同時に色っぽさ、大膳のサディスティックな気持ちを刺激するような、そんな雰囲気がある姿ですね。

── 夫の狩野之介が連れていかれるのを見て、追っていきたいけど縄にひっぱられて行けない、縄を木に擦り付けて切りたいけれどそれも無理。切ないところですね。その縄に注目していると、雪姫の動きに合わせて縄が長くなったり短くなったりしています。

雀右衛門 ここは雪姫を含めた舞台が絵面としてきれいに見えるよう、また雪姫が動きやすいよう、後見が長く出したり、ひっぱって短くしたり、かなり細かく調整してくれています。雪姫はとにかく縄を解いて夫を助けに行きたい。その思いがひときわ強調されている場面です。

── そしていよいよ雪姫の「爪先鼠(つまさきねずみ)※」のくだりになります。この鼠を描くときの足の動きってどうなっているのですか。(※桜の木に縛られた雪姫が足で桜の花びらをかき集めてねずみの絵を描くという場面)

雀右衛門 基本的にお姫様は足を見せることはあまりしないので、爪先だけ見えるような足さばきをしています。爪先が絵筆の代わりになっているわけですから、主に右足の爪先を使っておおまかに鼠の形を作り、そこに涙を落とし、一心不乱に鼠を描いている様子を見せます。そして最後に左足でトンと目を入れる動きをします。絵に命を吹き込むわけですね。

── あのとめどなく降ってくる雪……ではなくて桜の花びらですが、大道具さんの中に先代の雀右衛門さんのファンがいて、サービスで大量に降らせていたというエピソードがあります。これって本当ですか。

雀右衛門 その話、聞いたことはあるんですよ。たしかに父が雪姫を勤めていた時、ちょっと降らし過ぎじゃないかなと思うことがありました。あるタイミングで雪崩のように降ってきますからね(笑)。雪の場合、ふつう大道具さんが上から雪籠を揺らして降らすのですが、あの花びらは手降らしなんですよ。なので時々ドンと振ってくるんです。今回も手降らしですが、動きに合わせてちょうどいい感じになればと思っています。

── そしてその花びらが鼠の化身となって飛び出してくる……。

雀右衛門 雪姫が雪舟の孫であり、絵師としても高い能力を持っていたということですね。『吃又(どもまた)』(『傾城反魂香』)の虎が抜け出てくる、あの場面にも似てちょっとミラクルなところです。そしてその鼠たちが縄を喰い切り、鼠の体がパンッと散って花びらに戻ります。あそこは鼠の小道具に仕掛けがしてあるんです。

歌舞伎ならではの演出「人形振り」

『祇園祭礼信仰記 金閣寺』雪姫=中村雀右衛門(平成21年5月新橋演舞場) ©松竹

── 雪姫は解放され、やれうれしやと夫の後を急ぎますが、花道の七三でちょっと立ち止まり、刀の抜き身を鏡代わりにして顔をちらっと映しますね。女心が伝わってきます。

雀右衛門 愛しい夫に会いに行くので、まさに身だしなみですね。刀が鞘走る(自然に抜け出る)というよりは、自分でちょっとだけ抜いて映すんです。こんなところにも純朴な娘とは違う、ご亭主のいる女性の色艶を感じていただければと思います。そういえば昔女方の先輩に「暖簾をくぐった後はちょっと手を髪にあしらうのがたしなみだよ」ということも教わりましたねえ。

── 雪姫が狩野之介を見送ったあとのくだりを人形振り※(京屋型、雀右衛門型)で勤められたことがありますね。

(※役者が文楽人形を模して、人形遣いに操られているような動作で演じる歌舞伎の特殊な演出)

雀右衛門 三代目の雀右衛門が得意としていたそうです。文楽人形そのものというよりも、いかに人間らしさを生かして人形の動きを再現するか。それが大事だと父(四代目中村雀右衛門)は言っておりました。

── お弟子さんが文楽の舞台のように口上を述べて、人形遣いとなって雀右衛門さんを後ろで支えるように立ち、雀右衛門さんが人形のように動き始めます。

雀右衛門 動きが独特ですよね。人間の関節のようには動かないので、ちょっとぎこちない感じ。歩くのに合わせて首を振ったり、目線の動かし方もそれらしくなるよう意識しています。

── さりげなく姫差しも一回り大きくなっていて、頭を振るとそれがヒラヒラ揺れてよりお人形らしく見えるんですよね。そういえば女方の人形には足がありませんが、ここはどうされていますか。

雀右衛門 人形振りで演る時は裾をくくりつけて足先が見えないようにしています。

── 人形振りになるとさらに、雪姫がどこかこの世の物ではない感じがします。

雀右衛門 そうですね、動作が誇張されますので雪姫の強い思いもさらに強調されるのかもしれません。

── 考えてみたら雪姫は、縛られていてもかなり積極的に動いていますよね。

雀右衛門 実は歌舞伎のお姫様たちって皆さん結構能動的なんですよ。時姫(『鎌倉三代記』)は戦場から戻ってきた三浦之助を世話女房のようにせっせと介抱するし、八重垣姫(『本朝廿四孝』)は「奥庭」で白狐の霊力に付きそわれて凍った湖を駆けていきますし、その前の「十種香」にも後の行動に結びつくような風情がありますからね。

── そういえば八重垣姫の「奥庭」にも人形振りの型がありますね。

雀右衛門 そうなんです。本当にお姫様達、なかなか皆さん強いですよ。「お姫さまがこんなことしてくれたら楽しいだろうな」と観る人の想像力をかきたてるというか、奇想天外なことをさせてみたいと思わせる、そんな存在だったのではないかと思うんです。

── さて雪姫を勤められるのは3度目ですが、人間の女性として演じる成駒屋(歌右衛門)型と人形振りの京屋型、今回はどちらで勤めますか。

雀右衛門 今回は成駒屋の型で勤めます。歌舞伎の女方らしい古風な、それでいて魅力的な女性だなと感じていただければ嬉しいです。

歌舞伎座『金閣寺』特別ポスター


取材・文:五十川晶子 写真提供:松竹(株)

プロフィール

中村雀右衛門(なかむら・じゃくえもん)

1955年生まれ。四代目中村雀右衛門の次男。’61年2月歌舞伎座「一口剣」の村の子明石で大谷広松を名のり初舞台。’64年9月歌舞伎座「妹背山婦女庭訓」のおひろで七代目中村芝雀を襲名。2016年3月歌舞伎座より五代目中村雀右衛門を襲名。人間国宝で名女方だった亡父・雀右衛門の華やかな芸風を継承する任務を負う。

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